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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第7章 首里組と教室
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第98話

「鶴賀の坊ちゃんは何で私に刃が当たらないか不思議ですか?」


「……」

 鶴賀は睨みつけるだけで何も答えなかった。

 大太刀を引き抜こうと手に力を入れながらも答えを求めるかのように松山を見続けた。


「単純な話ですよ。鶴賀の坊ちゃんにその大太刀を振るう力がないからですよ」


 図星だったのだろう、鶴賀は歯痒そうに唇を噛み締めた。


「努力と工夫で形でけはいっぱしに振れているように見えますけど、力を補うために振り頭が大きくなっているんですよ。振りかぶりを見るだけで、どこをどう斬ろうか手に取るように分かるんですよ。だから当たるわけがないだ――」


 話しは突然遮られた。

 鶴賀の刀をふんだ体勢の松山にナイフが迫った。


 青葉のジャグリングナイフだ。

 話に夢中になっている居を突いた一投だったが、松山は手に持った匕首で難なく払い落とした。


「青葉の坊ちゃんですかね? 話を遮るのは良くないですよ。あなたの投擲は早く正確で混戦状態だったなら脅威でしょうが、常にあなたの位置を意識して背後を取られないように注意すれば、こんな風に払うのは簡単ですよ。ためしにもう一本投げてみますか?」


「……」

 青葉は挑発に乗り投げる事はなかった。

 今投げても打ち払われる事は分かりきっていた。


「お次は姫路のお譲ちゃんですね。怪我をしている方のお譲ちゃんは動きの切れは相当ハイレベルですね。流れるような動きで刺し、切り殺す。もう一人のお譲ちゃんの動きはその動きが更に洗練されていますね。お二人の動きに共通しているのは、重心の移動ですね。倒れる勢いを活かして飛び出す動きは古武術にも通じるんじゃないですか?」


「当たりですわ。私と沙弥さんの格闘術は姫路家に代々伝わる武術を元にしておりますわ。けれどそれが分かってどう対処すると?」

 亜弥は自信満々に答える。自分の技能の対処法がないと確信しているようだった。いや、自分のではなく、沙弥の技能が――かもしれないな。

「接近戦になればその流れる動きは厄介ですが、私ならば接近する前に殺すことが出来ますよ。重心を前に倒し突っ込んでくるなら、その動きに合わせ――」

 そう言うと、大太刀を踏んだ足で、鶴賀に前蹴りを放つ。


「がぁぁぁっ!」と、うめき声をあげ鶴賀が吹き飛び。


「徳人!」

 机を巻き込み吹き飛ぶ鶴賀を白石が抱きとめる。


「こんな風に蹴りを放ち撃退しますよ」


「がはぁっはっはっはっぁ」

 鶴賀のうめき声は治まらなかった。

 筋骨粒々とはいかないが、鍛えられているのが分かる体をした鶴賀にここまでダメージを与えることの出来る力を松山は持っていた。


「多分私の蹴りの方がお嬢さん方のスピードよりも早いと思いますが……試して見ますか?」


「……」

 亜弥は返事をしなかった。


 今の鶴賀へ放った前蹴りは威力も凄かったが、それ以上に速度も目にも留まらぬ速さだった。

 気づいたときには鶴賀の腹部へめり込んでいたほどの。


 あれがもし、飛び出した沙弥の顔へ当たったならば……首の骨くらいへし折りそうだった。


「さてNESTのお譲ちゃんは……言わなくても分かるよね」


「そうっすね。アヤちん達の動きを捉えられるというなら、うちの動きを捉えられないはずないっすよね。うちも攻略されちゃったっすね」


 俊敏性は犬山が上のように感じたが、直線速度と言う面では互角のようだった。


 つまり、松山は白石以外を攻略したということになる。

 各々獲物をしまい、戦わずして白石以外は降伏を示した。


「いやー。首里組の松山って言ったら、首里の最高戦力、赤鬼の松山って言われる凄腕の持ち主なのは知っていたんすけど、まさかここまで強いとは思わなかったっすね」


 最高戦力と言う事は、戦闘においては首里組で一番と言うことだ。

 この街の三大暴力団の一つに数えられる首里組の最強の男。

 いくら同年代で最強クラスの戦闘技能を持つ者が集まっているとは言え、裏の世界で長年生きてきたトップレベルの男の実力には遠く及びそうもなかった。


 刑を呼ぶべきか……。

 いや、刑で対処できるレベルの男なのか?


 くそっ、日向子さんとの電話の時にどんなに断わられようとも、響さんを遣してもらえるように頼み込めばよかった。


 今からでも連絡をすべきか? 

 このままでは……殺人鬼ハイドもろとも殺されてしまうだろうから。


 私が携帯に手を伸ばそうとした時、白石が口を開いた。


「歌波。徳人を頼めるか?」

 腹部を未だに押さえてる鶴賀から手を放す。


「あっ、はい!」

 返事をし、よろめく鶴賀の肩を支える。


 痛そうではあるが、呼吸は落ち着いているので、死んだ首里組の二人のように、内蔵を傷めてはいないようだった。


「徳人も犬山も姫路も勝てないなら、俺がやるしかないな」

 白石は松山の強さに怯えた様子もなく、首をコキコキと鳴らした。


 ああそうだった。

 このクラスにはまだこの男がいた。


 容疑者の多くが化け物と形容したこの男が。


「おっさん、徳人を蹴飛ばしたって事は、もう人質はいらないってことで良いのか?」


「ええ。最初から私の目的は坊のクラスメイトの力を見極めることですからね。皆殺しするために誰がどれだけの力があり、どう対処すればいいかシュミレーションは出来ましたからね」


「じゃあ俺が死ぬまでは、他のやつらには手を出さないってことで良いのか?」


「下手に手助けをしてきたら話は別ですが、大人しく見ていれば、坊ちゃんが死ぬまでの命は保障するよ」


「なら安心だ。俺が死ななければいいだけの話だろ」


「坊ちゃんは凄い力がありそうだけど、力だけで私を倒せると思ってるんですか?」


「倒せるかは分からねえけど、俺が死ぬことはないな」と、白石は言うと、悲しげに微笑み、「俺は死ねないからな」と続けた。


 死ねない? 

 自分の力を現すために、死なない、不死身と言う人と出会った事はあったが、死ねないといった男は始めてみた。


 死ねないとは、自分が死ねばクラスメイトが殺されるからだと思うが、私には他の意味で言っているように感じた。


 死ねないとは……死にたい気持ちの表れではないのか?


「死ねないとは思い切った事を言うね。大口を叩く餓鬼は嫌いだよ」


「大口を叩いている訳じゃないさ。ただ事実を言っているんだよ。まぁ、やってみれば分かるさ」


 その言葉を合図に松山の雰囲気が変わった。

 緊張が教室を包み込む。


 睨み付け合う二人が大型の肉食獣のように見えた。


 私の中の人の概念を越えた者の戦いが始まろうとしていた。

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