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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第7章 首里組と教室
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第97話

 日向子さんが?

 そんな話を聞いた事はなかった。


 日向子さんが金にならない殺しをするとは思えない。

 あの人は私に勝るとも劣らないほどの守銭奴だから。


「同じ街にいる以上……俺に……未来はない……あの女が……動けば……死屍累々の山を築く……そうすれば……もう、子供を……殺せない。その前に……いっぱい殺すんだ」

 その言葉を合図にするかのように、カマキリがすり足で距離をつめ、突きを放つ――フェイントをした。


 犬山はその動きに引っかかり後ろに飛んでしまった。

 カマキリは笑みをこぼし、「ひゃーっ」と、奇声を放ちながら飛び掛った。


 犬山の足はまだ宙に浮いている。

 次の突きを避ける事はできそうになかった。


 しかし犬山は、「ありゃー」と、声をあげると、足を振り上げ、カマキリの手をはらい上げた。


「なっ!」

 カマキリの口から驚きの声が上がる。

 ドスを手放すことはなかったが、左手で蹴られた持ち手を擦った。


 犬山は片足で着地すると、とんとんと二歩ほどよろめいた。

「危ない危ない。油断したっすね」と、言うと、ナイフを指でくるくると回し頭を掻いた。

 

 今の一連の動作で犬山の運動能力の高さが分かった。多分身体能力だけで言ったら、沙弥以上だろう。


「いやー。先輩強いっすね」

 そう言うと、犬山は小首を傾げた。


 その瞬間、「なっ!」「えっ!」っと、私とカマキリの驚きの声が揃った。


 犬山は片足で着地後よろけたが、それも戦略だった。

 二歩でカマキリ、犬山、青葉が一直線になる位置に自然に移っていた。

 そして頭を掻く動作をしながら青葉に人差し指で合図を送っていた。

 ナイフを投げろと。


 傾げた頭の後ろから、青葉のジャグリングナイフが飛び出した。


 カマキリもさすがは元NESTの殺し屋。

 咄嗟に自分に迫ってくるナイフを払い落とした。


 いや、この判断が正しくなかった事を考えると、払ってしまったという所だろうか。


「やっと切っ先が外れたっすね」と、言いながら犬山は一気に距離を詰めた。


 カマキリは慌ててドスを振り下ろそうとするが、その速度は突きに比べ遥かに遅かった。


 振り下ろしきるよりも早く、犬山は左手を振るい、カマキリの横を駆け抜けた。


「ポイントオブノーリターン。先輩、後戻りしちゃダメっすよ」


 カマキリが首を慌てて押さえるが、指の隙間から血が吹き荒んだ。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうぁぁぁぁぁ…………」

カマキリは断末魔を上げ床に倒れこんだ。


「おー。悲鳴はボソボソ喋りじゃないんすね」

 リングに指を掛けくるくる回し血を払うと、楽しそうに言った。


「アオちんサンキューっす」


 親指を突き出す犬山に青葉は軽く手を上げ答える。


 圧倒的な突きの速度を誇ったカマキリの長所を、針の穴を通すコントロールでナイフを投げ奪うと、その隙を見逃さずに犬山が首を斬り裂く。

 即席コンビとは思えないほど、二人のコンビネーションは完璧だった。


「さてと、残るはおっちゃん一人っすよ」

 残された一人――松山に向かいナイフの切っ先を向ける。


 鶴賀の攻撃をまたかわすと、「そのようだね」と、答え、吸っていたタバコを足元に吐き捨て、ふみ消した。

「皆さん思ったよりも強くて驚きましたよ。鶴賀の坊ちゃんも相手が私じゃなかったらいい線行っていると思いますよ」


「いい線だと? こんな子ども扱いされたのは……久しぶりだよ!」


 大太刀を振り下ろすが、松山はまた軽々と避けると、床にめり込んだ刃を踏みつけ、鶴賀の動きを制した。

「子ども扱いって……坊ちゃんはまだ子供でしょう? 坊ちゃんだけじゃなく、姫路のお譲ちゃんも青葉のお坊ちゃんもNESTのお譲ちゃんも私から見れば子供だよ」


「その子供に松山様のお仲間は負けましたのよ。お仲間も子供だというんですの?」

 亜弥が肩を抑えながらよたよたと立ち上がるといった。


「いいや。あいつらは大人だよ。私の指示を忠実に守ってくれたんですからね」


「指示?」と、私は聞き返した。

 指示をしたとは殺せと言うことではないのか?


「あなた方の噂は良く聞いていました。美しい姫路の令嬢二人と、男らしい鶴賀の坊ちゃんと、優しい護衛のお兄ちゃん。本が好きな冷静な青葉の坊ちゃん、楽しいNESTの護衛のお譲ちゃんってね。姫路のお譲ちゃん達と鶴賀の坊ちゃん達は強くて坊の憧れだってね。同年代にあんな強い人がいるなら負けられないって訓練に励んでいましたよ。坊にどのくらい強いか聞いたことがありましてね、うちの茂に近いくらい強いって坊が言ったんですよ」


 茂るというと、守衛のことか。


「今回、このクラスへの復讐に名乗りを上げた友人達にお願いしたんですよ。多分殺り合ったら私以外は死ぬと思う。だが、必ず私が敵を取ってやるから、少しでもダメージを与え、相手の動きを暴けってね」


 動きを暴くか……死んで行った首里組は面々はそれを実行に移していた。


 誰も手を抜いて殺せるような相手ではなかった。


 各々全力を尽くし戦った。

 

 傷を追ったのは亜弥だけだが、他の面々の殺しの動きは松山に見られていた。

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