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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第7章 首里組と教室
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第96話

 松山は鶴賀の斬撃をことごとくかわしていた。

 鶴賀はもう何十回も振るっているのか、一度振るたびに肩で息をしていた。


 二人の実力差は歴然だった。


 鶴賀が松山に勝つ事は不可能だろう。


 白石もその事は分かっているだろうが自分が動けば、松山が鶴賀を殺すことが分かっているのか、拳を握り締め二人を見つめていた。


 爪が掌に食い破り、ポタポタと血が滴っている。


 私はよたよたと立ち上がり、沙弥に声をかける。

「沙弥さん……鶴賀さんを助けに入れますか?」


「……」

 沙弥は二人の攻防を見つめ考えた後、「無理ですわ」と、答えた。

「松山さまの噂は聞いていましたが、ここまでとは予想外でしたわ。鶴賀様を助けに入れば、鶴賀様も私も殺されますわね」


 私からすれば、沙弥も相当強いように見えるが、松山は遥か上にいた。


 上段からの一撃をバックステップで避ける。下段からの斬り上げを一歩踏み込むだけで避け、鶴賀の胸ポケットからライターとタバコを抜き取るり、「一本もらうよと」と、タバコをくわえ火をつけた。


「ふざけんじゃねえぞ!」

 舐められた鶴賀は大太刀で横薙ぎの一撃を放つが、松山はまた鶴賀の懐にもぐりこみ片手で鶴賀の手首を掴み、無効化すると、胸ポケットにタバコを返した。


 いつでも鶴賀を殺すことが出来るのがわかったが、松山はそれをしなかった。

 それどころか鶴賀と距離をとることもしなかった。


 常に大太刀の射程距離に入り、自分がいつでも攻撃できる状態を維持していた。

 

 つまり、今の鶴賀は逃げることも出来ずただただかわされるのを分かりながらも、攻撃を続けていた。


 私から見れば鶴賀も十分強者だったが、その鶴賀を持って遊ばれるだけの存在の松山は、強者を超え化け物のように感じた。


 松山は鶴賀の攻撃を避けながら、チラチラと犬山とカマキリ男の戦いを見つめていた。


 この戦いの結果により、展開が変わるな。

 カマキリが勝てば鶴賀の相手をさせ、松山が白石の相手に専念できるようになる。犬山たちが勝てば、沙弥、犬山、青葉の三人で鶴賀の救助に入れる。 

 

 さすがの松山でも実力者三人を相手に今のように余裕を出して戦うことはできないだろう。


 私は視線を犬山に送る。

 犬山が蟷螂の突きをかわし、ロッカーの上に飛び乗った。そのしなやかな動きは猫を思わせた。


「おっ、ギャラリーが出て来たっすね。アヤサヤちんにエリちんが見てるって事は……あー。守衛のおっちゃん死んでるっすよ」

 犬山は喋りながらもカマキリの追撃をかわす。


「そお……だね……」


「仲間がやられたのにずいぶんクールなんすね」


「もともと……俺と……茂と……アニキで……皆殺しにするはずだったから……三がニになっただけだよ……」

 ぼそぼそと喋る口とは対象に、手は止まる事無く、高速で動き続けた。


「わっと……またかすったっすね」

 私の位置からははっきりとは見えないが、犬山のブレザーは所々破れているようにも見えた。紙一重で避けているようだが、何発もかすっているようだった。

「あのおっちゃんといい、先輩といい、首里組みはいいテゴマがいるっすね」


「首里組の手駒? 違うね……。俺達は……首里組でもつまはじき者だよ……。汚い殺ししかしない……からね。血の臭いがする……血で汚れている……ってね。でも……坊だけは……ありがとう……って言ってくれたんだよ」


「いやあシュリちんは本当に言い子っすね。先輩も感動しちゃったんすか?」

 話しながら、突きをかわし机から飛び降り、ナイフをカマキリに向ける。


「いいや……茂は……自衛隊上がりの……護衛として……大物のSPをしていた頃……ヘマをして……クライアントに制裁を受け……死に……掛けた所を……坊に拾われたみたいで……感謝はしていたね」


 カマキリは犬山のナイフに構わず、胸を目掛け突きを放つが、犬山はナイフで払う。

 そして、間をおかずに詰め寄ろうとするが、それよりもカマキリがドスを戻すほうが早かった。


 迎撃の突きが放たれる前に、犬山は慌ててバックステップで距離を取る。


「突きの速さよりも、引き手の早さが問題っすね。それで先輩は感動してないのは何でなんすか?」

 ナイフをくるくると回しながら、カマキリを観察し、犬山は聞いた。


「俺は……二度死掛けたことが……あるんだが……一度目は……加賀美さんに両手両足……肋骨全部折られたとき……二度目は……組を抜けたときに、鷹弓の追っ手が殺しに来たときだね……その時坊に拾われて……匿ってもらったんだ」


「じゃあ感謝しても良いんじゃないっすか?」

 

私も同意だ。今のは首里の優しさの分かる美談だった気がする。


「生き残って……ラッキーだと思うけど……感謝はしていないよ。ただ……坊が死んだから……こんなに子供を……殺せるんだ……その点だけは……感謝しているかな」


 ああ、あの人は子供を殺すのが好きなだけの男だ。狂ってる。


「おやおや? 先輩矛盾してるっすよ。子供を殺すのが好きで好きでしょうがいのに、どうしてここで死ぬことにしたんすか? 生きていればいくらでも殺すチャンスがあるんじゃないっすか?」


「……十鳥が……NESTを抜け……た……殺し屋を狩り出したからだ」

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