第94話
私が沙弥くらい強かったら、助けてあげられるだろうに。
どうして沙弥は助けないんだ。
無力な私への怒りと一緒に、沙弥への怒りも湧いてきた。
いくら姉が鳳凰會を治める人間になるとは言え、命令に絶対服従なんておかし過ぎるだろ。
命令よりも命が大事じゃないのか?
死んだら元も子もないだろ。
亜弥も亜弥だ。
姫路の長になる者としてのプライドで一人で戦うなんて馬鹿みたいだ。
何で命を大事にしない?
プライドのために姫路の長になるものが死んで良いのか?
あなたの命はそんなに軽いものなのか?
沙弥に助けてもらえば、必ず助かるとは言えなくても、一人で戦うよりはずっと命が助かる確率は上がるだろうに。
どうして助けろって言わないんだよ。
命を落とすことが恐くないというのか?
犬山のように組織で育てられたわけでもないのに、命を諦めるなよ。
命を落としてでもプライドを守りたいのか?
違うだろ。
あなたは私に尊いのは姫路組みの長女である自分だけ、他の命は全て自分の礎になるものだと言ったじゃないか。
それなら沙弥に助けてもらえばいいだろ。
あれは嘘だったのか?
あなたの目には嘘の色は表れていなかっただろ。
頭の中に濁流のように亜弥への不満が流れ込んでくると……私は一つの事実に気づいた。
……亜弥は嘘をついていなかったんだ。
尊いのは姫路の長になるものだけ、他の命は自分の礎になるもの。
唐突に気付いた。
今の情景が私に気付かせた。
教室で鶴賀ともめたのは亜弥。
音楽室で私と争ったのも亜弥。
この守衛に立ち向かうのも亜弥。
どうして亜弥が戦うんだ?
護衛として沙弥がいるというのに。
答えは簡単だった。沙弥から危険を排除するためだ。
そう考えれば簡単な話だ。
亜弥は何一つ嘘をついていない。
いや、一つだけ嘘をついているか。
最も尊い存在は姫路の長になるべき長女だ。
これは真実なんだ。けれどその長女は亜弥ではない。
沙弥だ。
自分が好戦的な長女の振りをすることで、沙弥に及ぶ危険を――姫路の長となるべき危険を一身に受けていたんだ。
今回も自分の命をかけて、沙弥を助けようとしているんだ。
沙弥の未来のための礎になるために。
……けれど……そんなの馬鹿みたいだ。
姉妹の優劣なんて付けるものじゃないだろ?
姉も妹も関係ない。
家族に優劣なんてないんだ。
父親と母親を天秤にかけられないように、姉妹も天秤にかけることなんてできないんだから。
歯を食い縛って……耐えるくらいなら助けろよ!
「……姉なら――助けろよ!」




