第93話
「沙弥さん助けてあげてください!」
「ダメです。手出し無用と言われております」
どうして?
家族だろ?
血を分けた双子の姉妹だろ?
今助けなければ……二度と会えなくなるんだよ!
私はチッと舌打ちし、「もういいです。あなたが助けないなら……私が助けます」と叫び、守衛に飛び掛る。
武器は持っていないが、素手でもやってやる。
倒れた椅子を飛び越えながら、机をすり抜け守衛目掛け駆け出す。椅子を踏み台にし、守衛の顔を目掛け、飛び膝蹴りを繰り出す。
「うらあぁぁぁぁぁ!」
ドスを振り血を払っていた守衛は声で振り向くと顔を右に傾けるだけで避けた。
そんな、避けられた。
そう思った瞬間、足に守衛の腕が巻きつけられる。
「君を殺すなって言われているから……少し寝ててくれるかなッ」
そのまま胸から床に叩き付けた。
ガゴンと何かが折れたような鈍い音が聞えた。
「あっぐぅッ!」
呼吸が止まり、胸を床に打ちつけたはずなのに、体中に痛みと衝撃が走った。
車に跳ねられたんじゃないかと錯覚してしまうような衝撃が指の先まで響き渡り、視界が霞がかってきた。
「うっ……あっ……う……」
何か喋ろうとしても、舌まで痺れてしまい話すことができない。
「生きてるよな?」
守衛が何か喋っているが、校舎の端から話しかけられているように遠く感じた。
視界の霞も広がっていき体が軽くなっていくのが分かる。
あぁ意識を失う――――「起きろ」
呼びかけられ視界がパッと開けた。
ドスを握る守衛が亜弥に近づいていくのが見えた。
助けなきゃ。でも……体が痺れて動くことができない。
私には助けることができない……今、助けることができるのは……。
「沙弥! 助けてあげてッ」
「……」
沙弥から返事は返ってこなかった。
「悪いな。坊の敵だ」
守衛がドスを振りかぶる。
何のために意識を取り戻したというんだ。
私は無力だ。
ただ亜弥が死ぬところを見続けるしか出来ないなんて。
ああ。
あの時と同じだ。
ただ死んでいく両親を見守ることしか出来なかった無垢な子供のときと。
アイツを殺すために力を付けたというのに。
裏の世界に飛び込んで、復讐のためだけに死に物狂いで力を付けたというのに。
私は何の成長もしていない。
身に付けた力は脆弱で、響さんにも犬山にも亜弥にも、この守衛にも全く通用しないものだった。
私一人の力じゃ何もできない、刑がいないと私は……人を救うこともできない。
刑がいなければ……人を殺すこともできない。
自分の無力を呪った。
弱い自分が大嫌いだ。
何が殺し屋のパートナーだ。
何が頭脳労働だ。
私には肩書きがあっても、殺しの知識があっても、それを実行する力がない。
どんなに手を伸ばしても刑がいるステージに立つことは出来ないんだ。
力が欲しい。
圧倒的な力が。
白石のような化け物の力が。
沙弥のような守る力が。
刑のような復讐する力が。
そうすればこんな守衛なんか一ひねりなのに。
そうすれば両親を殺した……秤恵美奈を殺すことが出来るのに。
憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い守衛が憎い秤恵美奈が憎い……弱い自分が憎い。
強くなりたい。




