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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第7章 首里組と教室
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第91話

「全滅するまでやりますよ。茂、お前が姫路のお譲ちゃん方の相手をしてやれ。亨は傍観しているNESTのお譲ちゃんと青葉のお坊ちゃんの相手だ。俺は鶴賀の坊ちゃんと、馬鹿力の坊ちゃんの相手をする」


 守衛は、「はい」と返事をしたが、亨と呼ばれた男は、「子供を殺すのか……」と呟き嬉しそうに笑った。


 その顔を見るとゾクゾクと体が震えた。

 ああ、この人は……殺人狂だ。


 殺しをすることが楽しくてしょうがないと考えている人種だ。


「亨? 首里組の亨って、元プロの殺し屋じゃないっすか。大物が出て来たっすね」


 私は亨と呼ばれた男を見た。歳は三十歳になったかならないか位で、背は百七十センチ程度だが、身長に不釣合いな長い手足をしていて、カマキリを思い起こされた。


「有名なんですか?」と、犬山に聞くと、「知らないんすか?」と、返された。


 裏の世界では知っていることが当たり前のようだった。


「三年前の戦争にかこつけて、うちを抜けた大先輩っすよ。うちには十翼以外にも有名な殺し屋が何人もいたんすけど、その一人っすね」


 NESTの殺し屋で有名だったという事は、弱いということはないだろう。


「ちぃーっす先輩。うち犬山明日葉って言う組織のペーペーっすっけど、相手させていただくっすよ」


「後輩って事は……俺の事を知っていて挑んでくるんだね……いいよ。無謀な子供を殺すのは……大好きだよ」


 独特の間延びしたような喋り方をすると、両手をだらりと垂らし、背中を丸め、顔を犬山に向けた。



「それじゃあNESTの掟を思い出させてあげるっすかね」

 

 犬山は指に引っ掛けまわしていたナイフを掴むと、右足を後ろに引き、薄い笑みを浮かべた。


 カマキリのような男は犬山から視線を外さずに、教室の右角にじりじりと歩み寄った。


 二人の対峙を見つめていると、トンと言う音が静寂を切り裂いた。

 視線を移すと亜弥が机の上に飛び乗っていた。


「私共の相手が松山様ではなくこの守衛様ですか?」

 亜弥は見下すように守衛を見つめた。


「俺じゃ不足だって言うのか?」


「不足ですわ。学園の守衛程度が、この姫路の血を引く私の相手など出来るとは思えませんわ。松山様と変わってもらえませんか?」


「残念だけど茂で我慢してくれないかな? 茂は首里組の中でも五指に入る実力者だし……君よりは遥かに強いはずだからね」


 松山の言葉を合図に守衛はドスを握り、両手を前にし、膝を曲げ重心を下げた。


 この構えは……軍隊格闘術の構えか?


「……沙弥さん」

 亜弥は守衛を見据えたまま沙弥に呼びかけた。


「はい。お姉様」


「この男は私の獲物です。決して手出しをしないで下さいますか?」


「……出来ません。失礼ですが構えを見る限り、お姉様一人で勝てるとは思えません」


 初めて亜弥の言葉に反対する沙弥を見た。

 けれど、その意見に私も同意だった。守衛の構えには隙一つなかった。


「口答えをしないでくれませんか? 私は姫路の長となる人間です。この程度の者を一人で屠れなければ姫路の恥ですわ。ですので、もう一度言いますわ。あなたは決して手出しをしてはいけませんわ」


「……はい、お姉様」

沙弥が返事をすると亜弥は振り返り、にっと笑い、「よろしい」と言った。


 その笑顔からは妖艶さは感じられなかった。

 好きなケーキ屋の話をした時や、好きな男子の話をする女子高生のような無邪気な笑顔だった。


 沙弥に何を伝えようとした笑みだったのか私には分からなかった。

 分かったのは、敵と対峙しているときに振り返るのは愚の骨頂だったと言う事だけだだった。


 守衛はその瞬間タッタッと前にステップインし距離を詰め、ドスをコンパクトに振った。


 亜弥はとっさにバック宙をし、後ろに逃れたが、「あっ、くっ」と、息を漏らした。避け切れなかったのか、スカートは引き裂かれ、赤い雫が飛んだ。


 床に着地をすると足に衝撃が走ったらしく顔を歪ませた。

 その瞬間、守衛は前蹴りを繰り出す。

 亜弥は両手を交差させガードするが、吹き飛ばされ、背中から机に突っ込んだ。


 いくら女子としては背の高い亜弥ではあるが、それでも線の細い女。

 成人男性の前蹴りに耐えられるはずもなかった。


「がはっ、はぁはぁ」と、息を漏らしながら、亜弥はよろよろと立ち上がった。

 綺麗な黒髪は乱れ、所々男達から流れ出た血で汚れていた。


 守衛は亜弥に近づこうとしたとき、間に沙弥がスッと割り込んだ。

 これ以上戦っても結果は見えていた。


 亜弥と守衛の間には明確な力の差があった。


「沙弥さん、言ったはずです。決して手を出さないでと。下がりなさい」

 自分を助けようとした沙弥に冷たく言い放つと、亜弥は肩を掴み強引に横に押しやる。

「聞えないんですの? 私は退けと言ったのですわ」


「……」

無言の沙弥。


 睨みつける亜弥の目は真剣そのものだった。その目を見て私は直感した。亜弥は……死ぬ気なんだと。


 沙弥にもその意味が分かったのか、「はい……お姉様」と、一歩下がった。


「それで良いのよ、沙弥さん」

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