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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第7章 首里組と教室
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第90話

 最初に敵と接触したのは鶴賀だった。

 顎からこめかみまで傷跡のある男に向かい大太刀を振り下ろした。


 ぶおぉんっと風を切る音が聞えた。

 男はドスを両手で握り刀を頭上で受けるが、振り下ろされた大太刀の威力は凄まじく、ドスをへし折り男の傷口をなぞるように鎖骨まで切断した。


 即死だ。

 私はそう思ったというのに、傷跡の男はギロリと鶴賀を睨み、ドスを手放し、大太刀を握りこんだ。

 肩からはとめどなく血が吹き出ていた。


「おっさん離せよ」

 鶴賀が日本刀を引き抜こうとするが、筋肉に締め付けられたためか、握りこんだためか、引き抜けずにいた。


「おいおっさん……あんた……もう死んでいるんだから……放そうぜ……」

 男はもう絶命していた。鶴賀を睨みつけ、日本刀を掴んだまま、もう動くことはなかった。


 刀が体をなぞった時点で勝敗は決していたというのに、彼は気力で体を動かし、日本刀を握った。

 仲間の邪魔になるであろう男を足止めするために。


 鶴賀は力任せに引き抜くと、刀身は血と油でどろどろに汚れていた。


 あれじゃもう斬れないかも知れないな。


 鶴賀を見つめているとキンキ―ンという音が耳に飛び込んできた。

 音の元に視線を移すと、亜弥と沙弥が坊主頭の眉なしのゴツイ男と、折れたタバコ――しけもく――をくわえた若い男と対峙していた。


「おっ和兄、このお譲ちゃん、姫路の双子ちゃんだぜ。噂に聞いていた通り、めっちゃ美人だ!」


「馬鹿野郎。坊の敵に発情してんじゃねえよ」

 男二人は軽口を叩きながらも、私を圧倒した亜弥の斬撃を防いでいた。


 右から振るわれたナイフを坊主が防ぐと、しけもくが前蹴りを放つ。

 亜弥は脛でその一撃を防ぎ後ろに距離をとった。

「やりますわね……」


「やる? 俺と和兄が強いと思うなら、お譲ちゃん達も大したことないね。和兄こいつら俺一人で十分、そこでグラビアでも見てくつろいでいてよ」


「そのようだな」と、眉なしの男は返事をすると、近くにあった椅子を掴み座った。


「あらそれは挑発ですか? この私にその程度の挑発が通用するとでも?」


 亜弥は冷笑を浮かべると、真っ向からしけもくの男に飛び掛った。

 挑発が通用している!


「若いな」

 眉なしは言うと、椅子から飛び上がり、しけもくしか視界に入っていない激昂した亜弥を横から襲った。

 わき腹めがけドスを突き刺しに来る。


 しかし亜弥も姫路の令嬢として相当な修羅場をくぐって来たんだろう。

 この眉なしの動きを読んでいたようだ。


 急ブレーキをかけ方向転換し眉なしにむき直ると、反転しドスをかわし、その流れのまま、右手に握ったファイティングナイフを鳩尾に突き刺した。


「おぶっ」と、血の混じった息を漏らしたが、亜弥は血を浴びるよりも早く、眉なしに体を預け、体を滑るように後ろに回りこみながらナイフを引き抜く。

 

 眉なしの鳩尾から赤い噴水が吹き荒れた。

 眉なしはその場に跪いた。


 凄い体捌きだった。

 一滴たりとも血を浴びずに男を殺した。


「次はあなたの番ですわ」


「……」

 しけもくは表情を曇らせ、無言でドスを構えた。


 亜弥はその場でトーントーンと軽く飛びリズムを取ると、しけもくに飛び掛った――が一歩目で滑ったかのようにその場に倒れかけた。


「なっ!」

 亜弥が声をあげた。


 血を噴出し絶命したはずの眉なしが、苦痛に耐えながらも亜弥の長いスカートの裾を握り笑っていた。


「ナイスだぜ和兄」

 男はしけもくを咥えたまま言うと、体制の崩れかけた亜弥に逆手に構えたドスを振り下ろす。


 殺られる!


 私がそう思った瞬間、沙弥が眉なしの男の横をスッと通り過ぎた。


 するとトッと言う音と共に、しけもくの眉間にナイフが生え、眉なしの首筋から二つ目の噴水が噴き出した。


「なっ……嘘でしょ……」

 私は自分の見たものが信じられなかった。


 一瞬の出来事だった。


 いつの間にか亜弥の後ろに忍んでいた沙弥が、眉なしの頚動脈をすれ違いざまに切り裂き、その手の反動と手首のスナップでナイフを投擲していた。


 しかもナックルガード付の重いナイフを正確にだ。一連の動作はスムーズで目を凝らしていなければ、ただ通り過ぎただけにしか見えなかっただろう。


 沙弥がしけもくの頭を押さえ、ナイフを引き抜くと、額の穴からはどくどくとドロついた血が流れ出した。

 重力に引っ張られ床に倒れこむと、ぐしゃんと音を出し血溜まりを作り出した。


「沙弥さんありがとうございますわ」と、礼を口にすると、スカートの裾を掴んだ指を、足を振りほどき、「下賎なものが触れるんじゃありません」と、罵った。


 亜弥は血溜まりを進み、松山にナイフを向けた。


「残りは松山様を含め三人になられましたが、まだやりますか?」


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