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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第1章 波原刑と私
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第8話

 一昨年に三十歳を迎えたはずの響さんではあるが、整った顔立ちと柔らかな微笑が相まって、二十代前半にしか見えなかった。

 私は思わず微笑を返しそうになったが、響さんが言った言葉を思い出し、冷ややかな視線を送った。


「お尻を見て判断したって……セクハラですよ」

 右手に持ったバックを後ろに回し言う。対面している以上、お尻が見えることはないのですが、咄嗟に行なってしまった。


 反射と言うヤツだろう。


「あはは」と、屈託無く笑うと、「セクハラなんかじゃないよ。僕は誰のお尻でも見るわけじゃないしね」


 悪びれたそぶりは一切なかった。


「僕が見るのは、綺麗なお尻だけだよ。エリちゃんの小振りだけれど、引き締まった可愛いお尻だから目に留まったんだ。つまりは僕なりの褒め言葉だよ」

然も当然のこのように言うと、うんうんと、一人頷いた。

 

 響さんの容姿は、世間一般で言われるところのイケメンと言われるものだが、一度口を開けば、酔った中年男性顔負けのイケメンを台無しにするほどのセクハラの嵐。

 残念なイケメンです。残メンです。


 後ろにいたのは追手ではなく本当に響きさんなんだろうかと、視線を響さんの背後に向けるが、誰も歩いてはいなかった。

 私が感じた視線はどうやら響さんが発していたもののようだ。きっとお尻を嘗め回すように見ていたのだろう、そりゃ、悪寒もするでしょう。


「はぁ」っと、ため息を吐き、「その発言がセクハラそのものですよ」と、言葉を返す。


「でも、エリちゃんのお尻は本当に可愛いんだから、眼が行っても仕方ないよ。そりゃ、触ったり、撫でたり、顔を埋めたり、叩いてリズムを奏でたりしたらセクハラ―――」


「殺しますよ!」

 言葉を遮り、言い放つ。


 叩いてリズムを奏でるって何だ?


 響さんは私の物騒な言葉にも微笑を崩す事無く、「出来るの?」と、言った。


「………」

 返す言葉も無く、口ごもる。


「エリちゃんじゃ僕を殺す事はできないでしょ?」

 私じゃ響さんを殺すことはできない。


 その通りだろう。


 革靴で背後を歩いていても足音一つ立てない歩方。その一点だけで見ても、刑のパートナーとして学んだ最低限度の格闘術しか持たない私では、太刀打ちできるはずがなかった。


 響さんの凄さは歩方だけではない。

 響さんは三年前まで、NEST――組織――の第一線の殺し屋だった。

 その腕は組織内でも上位に入ると言われるほどのものだったと聞く。


 特にナイフの扱いに長けており、無音の歩方と、名前の響きを掛け、「無音の響」、「サイレントエコー」と言う、中二全開の通り名もあったと聞いている。


 そもそも刑と私にナイフを使った、格闘術、斬術を教えてくれたのは響さんだった。

 優等生の刑とは違い、私は劣等性だった。


 間合いの取り方、ナイフを振るうスピード、気配の消し方。

 同じ事を学んできたというのに、私は素人に毛が生えた程度の技術しか身につかなかった。


 劣等性の私では、師匠越えなど、夢のまた夢だろう。


「……できもしない事を言ってしまい、申し訳ございません」

 響さんの性格的に、謝らなくても怒られることはないだろうが、頭を下げた。


「あっ、エリちゃん……」

 頭を下げられたことに戸惑ったのか、響さんがしゃがみ込んだ。


 頭を上げてと言われるのだろうか?


「やっぱり谷間はないんだね。残念」

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