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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第7章 首里組と教室
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第87話

「復讐するって犯人は誰だか分かっているんですか?」

 

 私が口を開くと、松山は質問には答えず、「うん? 君は……知らない子だね」と聞いてきた。


 知らない子と言う事は、私以外は知っているということなのか?


 ここは名乗るべきなのかと思っていると、「そいつは今日転入してきたNESTの護衛です」と、教室の外から声がした。中にいる七人以外に伏兵がいたのか? しかし、今の声はどこかで聞いたことがあるような……?


 松山は後ろを振り向き、「茂こっちに来い」と呼びかけると、血で汚れた守衛の制服を着た男が教室に入ってきた。


「松山さん教員達は全員ばらしときました。これで一、二時間は露見はしないはずですよ」


「よくやった」

 松山は茂と呼ばれた男に手を伸ばし、握手を求める。


「うす」と、守衛は握手に答えようと手を伸ばすと、松山はスッと腕を引き、守衛の手拳銃を向け――引き金を引いた。


 ターンターン。と言う乾いた音の後に、血が飛び散り、指がぼとりと床に落ち、遅れて、「んがぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁ」っと、悲鳴が上がる。

「ゆっ、指っ……こっ……小指、薬指も……痛っ、まっ、松や……さ……んっ……なに……をっ!」


 血だらけの手を押さえながら、息、切れ切れに何とか言葉を紡いだ。


「茂だけまだエンコを摘めていなかったからね」

 この場に不釣合いな穏やかな声で言うと、「それに」と、守衛の髪を掴み顔を近づけ、「関係ねえお嬢ちゃんをやるところだったろうが、てめぇ、そんくらいですんでよかったと思えや!」と、ドスの聞いた声を出した。


 鶴賀の口調に近いが、声の威圧感が段違いだった。これがホンモノのヤクザ――いや、今はただの復讐者か――の圧力なのか。


 守衛はがくがくと震えると、勢いよく頭を下げた。

「すいません」


「俺じゃなく、お嬢さんに謝るんだろうが!」


 守衛は一歩前に出ると、「すいませんでしたッ!」と、傷口を押さえながら言ってきた。


「お嬢ちゃん申し訳なかったね。罰として指を二本摘めたからこれで許してもらえるかな?」

 落ちた指を見る。銃弾の威力で無理やり引き千切られた二本の指を。


「……はい」


「良かった。お嬢ちゃんには危害を加えるつもりはないから、離れていてもらえるかな?」


「どうして私にだけ危害を加えないんですか?」


「君は今日、転入してきたんだろ? それなら坊の件には関わっていないからね」


「それなら、犬山さんだって、首里さんが亡くなった時には学校にいません! それに鶴賀さんや姫路さん、青葉さんだって犯人とは決っていません!」


「犯人が誰かはもう分かっているんですよ」


 犯人が分かっている? 

 松山は私の知らない情報を仕入れているということなのか?


「それに、NESTのお譲ちゃんが学園に遅れてこなければ、坊は助かっていたかもしれない。同罪なんですよ」

 口調は穏やかだが、迸る殺気を感じた。


 同罪。首里を助けることが出来なかった人間は皆同罪。

 遅れてきた犬山も、他の部屋にいたであろう鶴賀や姫路や青葉も同罪。


 首里組の人達は教室に踏み入ると一斉に銃弾を撃ち込んできた。

 つまりは皆殺しにする気だったと言うことだろう。


 そりゃそうだ。教室のいるのは犯人と同罪の面々。


 罪を償わせるために彼らは来たのだから、裁きの銃弾を浴びせたということだろう。


 けれど納得できない……どうして松山は犯人が分かったというのだ? 


 一日調査しても私には犯人を確定することが出来ないでいるというのに。


「……あなた方がこの学園を襲撃してきた理由は分かりました。けれど、どうしても犯人が分かったという点が理解できないんです。どうやって犯人に辿り着いたんですか!」


「辿り着いたという程のものじゃありませんよ。簡単なこと。うちお抱えの情報屋がネタを掴んできただけの話ですよ。今回の事件は鳳凰會と音羽會が共謀して首里組を潰しにかかったってね」


 姫路組と鶴賀組ではなく、鳳凰會と音羽會と言う事は、鳳凰會系の青葉組も含まれるということか。


 しかし……緘口令が敷かれていると言うのに、情報屋に犯人が誰かなどと言う情報を仕入れてくることが出来るのか?


「その情報が正しいという証拠はあるんですか?」


 私の質問に、松山は、「ありますよ」と言うと、拳銃で鶴賀、亜弥、沙弥、青葉の順に指し示すと、「鳳凰會と音羽會の直径の子が生きているのが証拠ですよ。大方うちの坊を殺ることで、首里組の戦力を減らすことが目的だったんでしょうね」


「バカ言うんじゃねえぞ! うちの二本松だって死んでんだぞ!」


 鶴賀が怒りを露にし、叫ぶように言うと、亜弥も続いた。


「私共も多くの護衛を失いましたわ」


「それは疑われないためのフェイクだって情報屋が言ってましたよ。殺られても痛くもない幹部の子を殺すことによって、犯行が無差別に行われたように偽装したと。考えてみれば簡単な事なんだよ。どの組のダメージが一番多いかってね」


 確かに一番ダメージが大きいのは首里組だろう。

 けれど、この事件がそんな損得計算のうえに成り立っているようには私には思えなかった。

 もしこの事件が鶴賀たちが共謀した事件であるならば、犯人として消される人間が必要になるはずだ。


 その人間を仕立て上げない限り、この事件に終わりは来ない。

 人柱とされる人間がいない以上、鳳凰會と音羽會が共謀したということはないだろう。


「あなた方なら分かりますよね? うちの坊も茜嬢も本当にいい人だったんですよ。こんな人殺ししか脳の無いうちらに本当に優しく接してくれたんですよ。人の温かさを教えてくれたんですよ。そんな人を……お前らが殺したんだよ」

 口調が変わると松山の雰囲気が変わった。

 

 SPの様だと思ったが、初めから今の雰囲気だったなら私はそんな風に思わなかっただろう。


 今の松山は……殺し屋にしか見えなかった。

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