第86話
ターンガンターンガンターンガンターンガンターンガンターンガンターンガンターンガンターンガンと、銃声と弾丸が窓ガラスに当たる音がする。
「ッ! 重いなこれぇぇぇぇ!」
鶴賀の顔が歪む。
盾と窓とは造りが違う。窓には持ち手もなく、衝撃が支える鶴賀の手に直接届いているのだろう。
窓ガラスには無数のひび割れが生じてきていて、今にも砕け散りそうで不安が心を支配してくる。
ターンターンガンターンガン。割れないでくれ。
そう心で祈っていると、「止めろ!」と、低く渋い声が聞えた。
声の主を探すと、サングラスをかけた男が手で発砲を制していた。
男はオールバックの髪に黒いサングラスをかけ、黒いスーツを着ていた。
やくざと言うよりは、SPを思い起こさせれる。
私が男を観察していると、犬山は銃弾を雨霰と浴びせられた後だというのに、驚くほどいつもどおりの口調で、男に話しかけた。
「拳銃ミネベアっすか。最近のヤクザは良い銃使ってるっすね。粗悪なトカレフじゃないんすね」
「お嬢ちゃん、ヤクザじゃなく任侠者って言ってくれないかな?」
男は片手をポケットに突っ込みながら言った。
声は低く凄みはあるが、口調は丁寧だった。
他の男達にも視線を送ってみる。
髪型とサングラスの違いはあれど渋い声の男と同じ黒のスーツを着ていて、首には黒のネクタイを巻いている。
片手に銃を握り、もう片方の手はポケットに突っ込んでいた。
持っている銃は全員同じミネベアのようだった。
私が観察をしていると、鶴賀が口を開いた。
「おい……あんた松山さんか?」
「鶴賀の坊ちゃんお久しぶりですね。手打ちのとき以来ですね」
「ツルちん知っているんすか?」
緊急時は脱したと鶴賀は考えたのか、「その名で呼ぶんじゃねえよ!」と、一蹴してから質問に答えた。
「首里組の幹部で……悠一郎の教育係だよ」
悠一郎とは死んだ首里悠一郎の事だろう。
「幹部も……教育係も元ですよ」
そう言うと、ポケットに突っ込んで右手を出した。手には包帯が巻きつけてあったが、何を見せたかったのかはすぐに分かった。
「指……落としたのか?」
松山と呼ばれた男は口元に笑みを浮かべ、「ええ」と、答えた。
松山には小指がなかった。
包帯には血が滲んでいたので、切り落としたのは今日の事かもしれない。
「さっき任侠者と言いましたが、私達は組を抜けたんで、もう任侠者ですらないですね。ただの復讐者。それだけの存在ですよ」
松山はサングラスをかけていたので顔ははっきりとは見えないが、他の六人の目には怒りの色が浮かんでいた。




