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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第7章 首里組と教室
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第85話

 教室の扉を乱雑に開け中に入ると、視線が私に注がれる。


「ふうぅ」と、軽く息を整え、教室を見回すと、六人全員いることが分かった。


「エリちん慌ててどうしたんすか? トイレならここじゃないっすよ」


 犬山が言ってくるが、その言葉には答えず、全員を見回し口を開いた。

「首里組が来ました。急いで逃げてください」


「はあぁ? 首里組みが来たから逃げろって意味が分からねえよ」

 プリント片手に鶴賀が聞いてくる。


「たった今、守衛が射殺されました。狙いはこのクラスの誰かのはずです」


 射殺の言葉を聞き、鶴賀の顔が変わった。

「それは確かか?」


「私の仲間が確認しました。間もなくここに攻め入ってくるはずです」


「エリちん、首里組の人数は分かるっすか?」


「七人と聞いています」

 

 犬山は、「七人っすか」と呟くと、青葉に向かい、「銃声は聞えたっすか?」と聞いた。


「僕には聞えなかったね」

 犬山は、「ふむふむ」と頷き、「銃声が聞えなかったと言う事は、サイレンサー付っすね。どうするっすか?」と、辺りを見回し聞いた。


 

 どうするもこうするも、逃げるべきなんじゃないのか?

「どうするって、逃げるに決っているじゃないですか。もう来ますよ」


「あぁん? 何で俺達が首里組程度から逃げなきゃなんねぇんだよ!」


「不本意ではありますが、私も同意ですわ。ただ、七人にいきなり発砲されるのも嫌ですわね。サイレンサー付の銃なら拳銃だと思いますが、サブマシンガンでも持ってこられたら厄介ですわ」


 鶴賀も亜弥も逃げるつもりはなさそうだった。


「逃げるつもりはないんですか?」と、聞いて見ると、「ねえな!」「ありませんわ」と、好戦的な二人が同時に答えた。


 犬山も白石も逃げる気はないらしく、笑っていた。沙弥は無表情で亜弥を見つめている。


 青葉はどうだろうかと視線を送ると、一人席から立ち上がり、出口に向うと鍵をかけた。


「歌波さんもそっちに鍵をかけてもらってもいいかな? 少しは時間稼ぎになるからさ」


 どうやら青葉も逃げる気はないらしい。


「あおチン、ナイスっすね。エリちんも早く閉めるっすよ」


 どうやら私も逃げる事歯出来そうになかった。

 しぶしぶ鍵を閉めた私は、「と言う事は……ここで待ち構えるんですね?」と犬山に聞いてみる。


「廊下で待ち構えたら、射線に入りやすいっすからね」


「でも教室にいても狙い撃ちされるんじゃないんですか? 机でバリケードを作る時間もないですよ。それにここは三階ですし、ベランダもないんで逃げることすら出来ないですよ」


「エリちんはここにいるクラスメイトの力を見くびっているっすね。初弾さえ何とかできれば後は銃なんて敵じゃないっすよ」


「じゃあその初弾はどうするって言うんですか? 自慢じゃないですけど、私は初弾を避けろといわれても避けられませんよ! 蜂の巣になりますからね!」


 何の自慢なんだろうか?

 首里組がやってくると考えるとどんどん余裕が無くなり、焦りが出てきた。


「そこはうちに考えがあるっすよ。シラちん手を貸してもらってもいいっすか?」


「おっ、何すればいい?」と、立ち上がると、指の骨をパキパキと鳴らした。


「それを外して欲しいんすよね」

 犬山は窓を指差し言った。


 窓を?


 私はどうして窓を外すんだろうかと疑問に思ったが、白石は犬山の意図に気づいたのか、「了解」と、返事をし窓をガタガタと揺らし取り外した。


「もう一枚お願いするっす」

 二枚目の窓を取り外すと、青葉が、「来たよ」と言った。


「来たって、首里組ですか? まだ何も聞え――」

 聞えないと言おうとしたとき、私の耳にダダダと小さな足音が聞えた。


「来たみたいっすね。ツルちん、シラちんそれぞれ窓を持ってくださいっす。他はその扉の後ろに隠れるっすよ」


 緊急事態だからなのか、鶴賀はツルちんと言う呼び方に怒る事無く、真剣な眼差しで床に窓を置くと、両手で支えた。


 なるほど。この学園の窓はライフルでも割れない防弾使用になっている。この窓を機動隊の盾のように使えということか。


「おいチビガキさっさと来い」


 私は鶴賀の背後に滑り込み入り口を注視する。

「おいチビガキ……手を伸ばして用具庫から俺の刀取れるか」


「あっ、はい」と返事をし、片手を伸ばし清掃用具庫を開け、鶴賀の大太刀を取り出す。

 刀身が四尺はありそうな日本刀は重く、片手で持つには一苦労だった。

 今朝は手に取ろうとしただけで怒鳴られた刀であったが、緊急事態であるためか、怒る余裕もないためか、鶴賀は怒るどころか、視線一つ私に向けることはなかった。


「俺が渡せって言うまで持ってろ」

 鶴賀は今、手を放せる状態ではないので、了解と伝えようとした瞬間、入り口からガンっと音がした。

来た。


「来たっすね」と、犬山は楽しそうに言うが、私には楽しめなかった。


 鼓動が早くなり、心臓の動機の音が聞えてきた。

 これは経験の違いなんだろうか? 

 楽しんでいるものから、表情を変えずに冷静でいるものはいるが、私みたいに顔が強張っているものはいなかった。


 誰も喋らず、身じろぎもしない。


 まるで運動会の徒競走のピストルの合図を待っているような状態だった。


 合図はいつ来るんだ? 


 静まり返った教室の中、各々の呼吸の音だけが聞えた。


 緊張で乾いた唇を舐めると、静寂は切り裂かれた。


 位置についてよーい……ドン!


 ゴガンッという音と共に扉が蹴破られ、スーツ姿の男達がなだれ込んできた。

 みな手には拳銃を握っていた。


 彼らは教室の左隅に固まる私達に銃を向け、一斉に引き金を引いた。

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