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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第6章 姫路亜弥と姫路沙弥と音楽室
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第80話

 愛瀬ではなく、犬山の名前が挙がった。

 自分で下っ端と言っていた犬山が強いとは思っていなかった。


 いや、私よりも遥かに強いのは間違いないが、それでも腕利きの揃ったこのクラスで上位五人に上げられるとは想像できなかった。


「私は愛瀬さんが強いと聞いていましたが、それよりも犬山さんのほうが強いんですか?」


「愛瀬様は死んだ人間の中では一番の腕利きだったと思いますわ。けれど、その愛瀬様が言っておりましたわ、お犬さんは化け物だと」


 化け物。

 NESTの腕利きの殺し屋が、化け物と称するなんて、どれだけの強さなんだろうか。


 私にはその強さを想像することも出来なかった。


「愛瀬さんが生き残った中で一番の腕利きと言いましたが、鶴賀さんよりも弱いんですか?」


 白石が四人は互角と言っていた、鶴賀と亜弥、沙弥が互角と言う確認はしなかった。

 きっと亜弥は怒るだろうから……ナイフをしまうまでは怒らせたくない思い出、穏便な質問をぶつけた。


「愛瀬様は技量も高く、体格も良いので、男性顔負けの怪力を誇ります。お猿さんも匕首では互角と言ったところでしょうね。けれど、もし日本刀を持ったと言うのならば話は別ですわね」


「鶴賀さんが日本刀を使うと聞いていますが、相当な腕なんですね」


「日本刀の扱いに関しては、同年代では抜きにでているのではないでしょうか? まあ、まだあの大太刀を完璧には振るえないようですので、私共の敵ではありませんね」と言うと、艶やかに笑い、「ねえ、沙弥さん?」と、後ろを向く事無く言った。


「はいお姉様」と沙弥は抑揚なく答えた。


 本当に思っているんだろうかと、また疑問に持った。


「五指に入るに人間は分かりましたが、愛瀬さんも腕利きなんですよね? それなのに死んでいたのはどう説明するんですか?」


「簡単ですわ。殺し合いを止めようとしても、愛瀬様一人ではどうしようもなく愛瀬様以外が皆死んでしまった。任務失敗を憂い自害したと言うわけですわ」


 話を聞き、亜弥の推理には決定的な欠陥があることに私は気づいた。


「愛瀬さんの死んだ様子からして、自殺をしたとは考えにくいと思います。愛瀬さんの死体は後頭部を一突きにされ死んでいました。凶器も刺さってはいませんでしたし、自殺なら誰が凶器のナイフを抜いたと言うのですか?」


「そうですね……それならば愛瀬様だけではなく、宮司様も生きていて愛瀬様を刺殺し、ナイフを抜いた後に、自分の首をかっ裂き死んだのではないでしょうか? 首を裂きながらナイフを放り投げるくらいなら可能でしょうから」


 首を裂き自殺する事は可能だろう。


 けれど、宮司の遺体の様子は、自殺とは到底思えなかった。


 まず第一に傷が深すぎる。

 首を裂けば頚動脈が切断され死に至るだろう。その為には一、二センチの傷で十分だ。

 それなのに宮司の死体は骨が露出するほど深くかっ裂かれていた。自殺で付く傷の深さではないだろう。


 次に宮司の目だ。

 自分が死んでいく事を受け入れられない目をしていた。

 私は何度となくあの目を見てきた。


 刑が殺してきた死体の目だ。

 圧倒的な暴力により命を刈り取られた人間の目。


 宮司の目はそれだった。


「絶対にできないとは言いません。けれど私は今回の事件は殺し合いの末に起きた悲惨な事件とは考えていません。圧倒的な力によりクラスメイトを蹂躙した犯人が間違いなくいると考えています」


「犯人がいるならば、どうやって靴にも凶器にも血を付けずに犯行を行なったと言うのですか? まさかおちびさんは犯人は空を飛んで見えない凶器で人を殺す魔法使いだとでも言うのですか?」


 亜弥の言うとおりだった。

 犯人が魔法使いだったなら話は早そうだった。


 青葉の案と亜弥の案を足して、犯人は魔法使いハイド。

 深夜アニメにでもありそうな名前だな……。


 うーん。

 宙に浮いて犯行を行なうとなると……壁にワイヤーを張り巡らしてその上を伝うのはどうだ? 


 いやダメだな……。そんな不安定なところで大量殺人など出来ないだろうし、ワイヤーの回収はどうすると言うのだ。

 隠す時間などどこにもないだろうし……。


「うーん。靴を汚さずに殺す方法……何かないですかね?」


「ありませんわ。だから私は、犯人はいないと申し上げたのです」


「宙に浮く方法なんてないですもんね……」


「……あら、それならばありますわよ」


「あるんですか!」


「死んで幽霊になれば足が無くなるので宙に浮くことが出来ますわよ」


 亜弥は嘲るように言ったが、私の脳に何度もその言葉が響いた。

 死んで幽霊になれば足が無くなる。死んで幽霊になれば足が無くなる。死んで幽霊になれば足が無くなる。死んで幽霊になれば足が無くなる。死んで幽霊になれば足が無くなる。死んで幽霊になれば足が無くなる。死んで幽霊になれば足が無くなる。


 足がなくなれば……。


 あっ……出来る。


 この方法を使えば、誰にでも犯行を行うことが出来る。


「出来ます。上履きに血をつけずに犯行を行なうことは出来ますよ。亜弥さん、間違いなくこの事件には犯人がいます。殺人鬼……ハイドは生存者の六人の中にいますよ」

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