表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第1章 波原刑と私
8/153

第7話

「…………ッ!」

 背中にぞくぞくッと、悪寒が走り思わず声が漏れる。


 誰かが見ている。


 弘前の根城の側ならともかく、まさか喫茶雛鳥の側で襲われているなんて、夢にも思わなかった。


 家に帰るまでが暗殺と言う、日向子さんの言葉が頭に浮かんだ。


 付けられていたのか。

 それならいつから付けていたんだ。気を抜いていたのは確かだが、それは駅に着いてからだ。

 それまでは、神経を尖らせていたというのに……。


 背後の視線を感じながらも、私は何事もなかったかのように、足を止めずに歩いた。


 落ち着け。


 どこから見ているんだ。


 近くか、遠くか。


 神経を研ぎ澄まし、背後の視線に集中した。


「…………!」

 漏れそうになった声を必死に堪える。


 今度は、視線だけではなく、微かにではあるが、気配を感じた。


 距離は……遠くない。


 近い。

 五メートル? 三メートル? いや、もっと近いか? 

 手を伸ばせば届く距離にいるのではないか?

 

 気配は感じるのに、正確な距離が測れなかった。

 五感を研ぎ澄ませ、距離を測ろうとしても、後ろにいるはずの人物の呼吸する音、衣擦れする音、足音のどれも聞えては来なかった。


 距離が離れていれば、呼吸音、衣擦れの音が聞こえない事はあるだろうが、今歩いているのは石畳だ、スニーカーだろうが、足音がしないはずない。


 それならば背後にいる人物は、足音すら立てずに歩ける技量があるというのか。


 思わず身震いしてしまう。


 日向子さんの言うとおりだった。


 帰るまでが暗殺。


 駅に着き電車に揺られ、安全圏まで逃げたと思い、油断していた。


 助けを呼ぶべきなのか?


 そんな思いが頭に浮かぶが―――ダメだ。

 そんな動きを見せたら、間違いなく襲われる。


 ポケットにしまった携帯に手を伸ばしかけた自分を自制する。


 逃げるか。

 不意をついて走り出す事を考えて見るが、この案も直ぐに却下した。


 ここは一キロも続く一本道。まだ三分の一も歩いていはいない地点だ。

 女の足では逃げ切れると思えない。


 助けを呼ぶのもダメ。

 逃げ出すのもダメ。

 それなら私に出来る事は……。


 意を決し、心の中でカウントをとる。


 ……3……2……1……0。


「――ッさぁぁッ!」

 掛け声と共に前に飛び、右足が地面につくと同時に、その足を軸に百八十度回った。

 周る遠心力を利用し、リュックを肩から外し、右手に持つ。


 中には刑のナイフが入っている。相手に隙があれば取り出し武器として使える。

 もし隙がない場合は、盾としてバックを使うと、瞬時に戦闘をシュミレートする。


 助けを呼ぶのもダメ。

 逃げ出すのもダメ。

 それなら私に出来る事は……戦うことだ。


 右足をやや後ろに引き、半身の構えを取り、相手を睨みつけると、「……あれっ?」

 思わぬ相手の姿に、声が漏れる。


 背後にいたのは細身の長身の男だった。

 茶色の革靴に、黒のスラックスを履き、ボタンを一番上まで閉めた白シャツの上に、黒のベストを羽織っている。

 両手には武器ではなく、ビニール袋を持っていた。


「……響さん」

 私は見知ったその男の人の名前を呼んだ。


 その男は、袋を片手に持ち直し、利き手を空けると手を振った。


「やっぱりエリちゃんだったか。お尻の形からして、エリちゃんじゃないかなと思ったんだけど、もし違ったら恥ずかしいなって思って、声をかけられなかったんだよね」

 その男―――猫屋敷響(ねこやしきひびき)は微笑みながら言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ