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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第6章 姫路亜弥と姫路沙弥と音楽室
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第71話

 答えを出せずに教室に戻ると、「お帰りっすー」と、犬山が手を振ってきた。

 カーディガンの袖が長すぎて、手を振ってるんだか袖を振り回しているんだか分からなかったが。


「エリちん有意義な午後は過ごせたっすか? 若い二人が一緒に図書室で時間を過ごす、ラブが生まれちゃったんじゃないっすか?」


「……生まれません」

 初めのうちは楽しい時間を過ごせたが、後半は本題の事件の話しに入った。

 ラブが入り込む余地などどこにも無かったな……。


「ありゃりゃ、アオちんも男の子なんすから、もっとグイグイいかないと、彼女は出来ないっすよ」


「次は気をつけるよ」と、青葉はクスッと笑い言った。



 次ぎはって事は、次はぐいぐい来るということか? 

 青葉が積極的に迫ってくるところを想像する。あの愛くるしい瞳で私を見つめて、私の唇に指を這わせ、こう言ってくる、『キスしたら……ダメかな?』と。


「ダメじゃないです!」

 妄想の言葉に私は大声で答えた。


 何を言っているんだこいつと言う目が私に向けられてくる。犬山と青葉、鶴賀から。

 ちなみに白石は枕に顔をうずめ寝ていた。


「あっ、えっと……亜弥さんと沙弥さんいないんですね」

 辺りをキョロキョロと見回し、気づいた事を口にし話を誤魔化そうとする私。

 何がダメじゃないか根掘り葉掘り聞かれたら、恥ずかしくて死にたくなるな……。


私の誤魔化しが功を奏したのか、犬山は、「そうそう、忘れてたっす」と、話を変えた。


「戻ってきたばっかりで悪いんすけど、至急音楽室に行ってもらえるっすか?」


「今すぐにですか?」


「そうなんすよ。アヤちんとサヤちんが、『プリントも終りましたので、音楽室に参りますわ』って言って、うちの静止も聞かずにすたすた歩いていったんすよね」

 亜弥の口調を真似て言うと、「困ったものですわ」と、付け加えた。


 頭痛がまだ残っていたので、出来れば机に座りゆっくりしたかったが、姫路姉妹の話を聞けば、全員の話を聞いたことになる。

 今回の事件の流れを整理しやすくもなるな。

「わかりました。直ぐに向いますね」


「助かるっす」


「音楽室は……職員棟の三階ですか?」


「そうっすよ。アオちんに案内してもらったっすか?」


 案内はされてはいないが、青葉の説明では一階二階に音楽室があるとは聞いていなかったので、消去法で三階かなと思っただけだった。


「まだ見には行ってっていないですね。青葉さんとは図書室にしか行ってないので」


「じゃあ他の部屋は見なかったんすね。残念っす」


 残念? 

 犬山の話し振りが気になった。まるでほかの部屋を見てきて欲しかったような口ぶりだったからだ。


「保健室は見てきて欲しかったんすよねー」


 保健室? 


 犬山が、ただたんに見て欲しかったわけではなかろう。

 保健室が事件に関係するというのだろうか?


 考えていると、犬山が私を手招きしてきたので近づいていくと、耳に顔を近づけてきた。

 聞き耳を立てているだろう他のクラスメイトに聞えないように、「今週の保健室の当番医は……首里組みが出しているっす」と言った。


 保険医が首里組みの者? 

 それがどう事件に関係するというんだろうか?


「それはどういう事ですか」と、尋ねようとすると、「と言うわけで、エリちん音楽室に行ってらっしゃいっす」と言う犬山の言葉に遮られた。


 これ以上は話さないと言う心の現われだろう。

 ここから先は自分で調べ、頭を働かせろと言うことか……。


 保険医が首里組のものだと何が事件に関係するんだ?

 保険医が犯人と言うことはないだろうし、この学園の職員全員にアリバイがあるとも犬山は言っていた。


 保険医がどう関ってくるんだろうか……考えを巡らせてみるのだが、私の脳細胞は極平凡なも、灰色の脳細胞など持っていないため、全く考えが浮かんでこなかった……。


 ああ、頭の中がごちゃごちゃでキャパオーバーしそうだった。


 頭の中で整理するのはもう限界だ……一度ノートにまとめたかった。


「はぁ」と、ため息を吐いてしまうと、「ため息を吐くと幸せ逃げちゃうっすよ」と、犬山が机に頬杖をつき、屈託の無い笑みを浮かべてきた。


 その笑みから、鶴賀や白石や青葉とは違う、心の余裕を感じた。


 自分が犯人だったとしたら、命を狙う殺し屋のパートナーが側にいるのだ、少しくらいは心に揺らぐが生じ、表情も固くなるだろう。

 もし犯人じゃなくとも、教室に殺人鬼がいるかもしれないと疑い、緊張感が生まれるものだ。


 まあ、一名爆酔しているものはいるが……。


 心の余裕のないであろう状況で、何故彼女は自然体でいれるんだろうか。


 命の補償もされないこの状況で、何故彼女は自然体でいれるんだろうか。


 彼女にとって命とはなんなのだろうか。


 私は無性に知りたくなった。


 自分ではなんの答えも出せないと言うのに。


 姫路姉妹には悪いが、少し音楽室で待っていてもらおう。


 私は犬山の耳元に口を近づけ、「一つお聞きして良いですか?」と囁いた。


 犬山はくるりと振り向くと、鼻が当たりそうな距離で真剣な面持ちをし、「お風呂上りの牛乳うっす」と言った。

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