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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第5章 青葉昴弥と図書室
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第64話

「指?」

 聞き返す私。


「最初に指をね……切り落とすと、痛みで苦悶の表情が現れて、そして……怒りが湧き上がって来るんだよ」

 

 怒り……怒だ。


「二本目も三本目も切り落としても怒りが顔を出すんだけれど、四本目に刃を当てると……怯えるんだよ」


 怯え……哀か。


「どんな屈強な男でも、止めてくれって懇願して来るんだよ。鋭い痛みが全身を巡ることに耐えられなくなるんだ。泣き喚き、何でも言う。助けてくれってね。けれどそれを無視し四本目を落とし、止血してあげるんだよ。そうすると拷問が終ったと思い、苦痛で歪んだ表情が、綻び、笑みを見せてくれるんだ」


 笑み……喜びだろう。


「そして僕は必ずこう言うんだ。さあこれから尋問を始めますってね……」


 指四本落としたのは尋問ですらないということか。もし私が尋問を受ける立場ならどうだ?

 青葉の話を聞く前は、決して刑の情報を吐かない自信はあったが、今では揺るいでいた。


 指四本落とすことすら尋問ではないなら、どれだけの痛みが待っているのだろうか? 

 想像することすら恐ろしかった……。


「そこで全てを話す人もいるけれど、大半はそれじゃ口を割らないんだよね。そこで僕は、また痛みを与えるんだ。今度は強い……ここで言うのは憚れるような痛みを与えて、次に弱い痛みを与える。それを何度も繰り返すと、感覚が麻痺していき、快感が顔に現れて来るんだよ」


 快感……楽が現れる。


「そして治療を行い、痛みをリセットさせ、より強い痛みを与え、治療し、痛みを与え、治療を繰り返していくと、行き着くんだよ……」


「行き着く……」


「そう行き着くんだ。生の果て、死ぬ間際の喜びと怒りと悲しみと快楽の入り混じった世界に。その時の顔は想像できる?」


 私は首を横に振る。


「その顔を見るたびに……吐き気がしてくるんだよ」


「……」

 私には想像することすら出来なかった。


 きっとその顔は見たことのある人間にしか分からない、壮絶なものなのだろう。


 かける言葉も見つからず、私は沈黙することしか出来なかった。


「その顔を見るたびに、何故こんな事をしているのか自問するんだよ。僕が治さなければ楽に死ねたんじゃないか。僕が傷つけなければ怒りを覚えずに死ねたんじゃないか。僕がいなければ、悲しませずに死ねたんじゃないか。僕が……死ねば貴方は喜ぶのかってね」


「……」

 青葉の心情は、犬山に聞いていたよりも複雑だった。

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