第64話
「指?」
聞き返す私。
「最初に指をね……切り落とすと、痛みで苦悶の表情が現れて、そして……怒りが湧き上がって来るんだよ」
怒り……怒だ。
「二本目も三本目も切り落としても怒りが顔を出すんだけれど、四本目に刃を当てると……怯えるんだよ」
怯え……哀か。
「どんな屈強な男でも、止めてくれって懇願して来るんだよ。鋭い痛みが全身を巡ることに耐えられなくなるんだ。泣き喚き、何でも言う。助けてくれってね。けれどそれを無視し四本目を落とし、止血してあげるんだよ。そうすると拷問が終ったと思い、苦痛で歪んだ表情が、綻び、笑みを見せてくれるんだ」
笑み……喜びだろう。
「そして僕は必ずこう言うんだ。さあこれから尋問を始めますってね……」
指四本落としたのは尋問ですらないということか。もし私が尋問を受ける立場ならどうだ?
青葉の話を聞く前は、決して刑の情報を吐かない自信はあったが、今では揺るいでいた。
指四本落とすことすら尋問ではないなら、どれだけの痛みが待っているのだろうか?
想像することすら恐ろしかった……。
「そこで全てを話す人もいるけれど、大半はそれじゃ口を割らないんだよね。そこで僕は、また痛みを与えるんだ。今度は強い……ここで言うのは憚れるような痛みを与えて、次に弱い痛みを与える。それを何度も繰り返すと、感覚が麻痺していき、快感が顔に現れて来るんだよ」
快感……楽が現れる。
「そして治療を行い、痛みをリセットさせ、より強い痛みを与え、治療し、痛みを与え、治療を繰り返していくと、行き着くんだよ……」
「行き着く……」
「そう行き着くんだ。生の果て、死ぬ間際の喜びと怒りと悲しみと快楽の入り混じった世界に。その時の顔は想像できる?」
私は首を横に振る。
「その顔を見るたびに……吐き気がしてくるんだよ」
「……」
私には想像することすら出来なかった。
きっとその顔は見たことのある人間にしか分からない、壮絶なものなのだろう。
かける言葉も見つからず、私は沈黙することしか出来なかった。
「その顔を見るたびに、何故こんな事をしているのか自問するんだよ。僕が治さなければ楽に死ねたんじゃないか。僕が傷つけなければ怒りを覚えずに死ねたんじゃないか。僕がいなければ、悲しませずに死ねたんじゃないか。僕が……死ねば貴方は喜ぶのかってね」
「……」
青葉の心情は、犬山に聞いていたよりも複雑だった。




