第60話
廊下を歩いていると、「図書室は二階にあるんだけれど、他の部屋も見ていく?」と、青葉が聞いてきた。
「他の部屋ですか?」
「ほら、犬山さんが案内するように言われたからさ。色々周ったほうが良いのかなって思って」
職員棟の案内をするように言っていたな。
「一階には職員室があるんですよね?」
「正確には職員室に会議室と学長室、それから保健室があるね」
学長室と言うと、校長室か。
頭にパンフレットの学園長の写真が呼び起こされる。
会っておくべきかと思ったが、二時間目に会った教師の顔を思い出し、私は、「一階は大丈夫です」と答えた。
ゴミ袋の破れ目からはみ出した生ゴミを見るような、見下した目で見られるのは、もう結構だった。
「それじゃあ……案内は二階からでいいかな?」
「はい。大丈夫です」
「それじゃあ二階に向おうか」
青葉はそう言うと歩を進めた。
廊下の角を曲がり渡り廊下に進み、丁度真ん中で立ち止まり、右を指差した。
「こっちが職員棟になるね」
職員棟を覗いて見る。
当たり前のことだが、廊下の様子は特進校舎と変りはないようだった。
違いをあげるとすれば、廊下が長いくらいかな?
「じゃあ三階は後回しにするとして、二階に向おうか」
指差しをした反対側、青葉の左手側の階段を下り私たちは二階に降りた。
「二階は図書室と科学室や歴史準備室などの特別室があるんだ。この学園の図書室は、歴史書や法律書が多いけど、ミステリーやファンタジーの小説も多いんだよ」
階段を下りながら青葉は振り向き笑みを見せた。
自分の事のように嬉しそうに語る青葉を見ると、心が温かくなってくる。
なんだろう。今まで会った事のないタイプの少年に、私の心が踊るのが分かった。
会って半日。会話時間は二分にも満たないくらいだというのに、どうしたんだ私。
「……さん」
顔は整っているし、間違いなく美系だが、私のタイプはワイルド系の顔だ。
青葉のような美少年系は可愛いと思えても、惹かれることなどなかったのに、何でこんな目が離せなくなるんだ?
タイプが知らず知らずのうちに変わっているというのか?
そういえば、犬山がイケメンと言った白石は背が高くて、少しやんちゃな感じのするイケメンで、私のタイプど真ん中のはずなのに、全くトキメカなかった気がする。
「……さん? 歌波さん?」
名前を呼ばれていることに気づき、私は慌てて、「はい」と、返事をする。
「物思いに耽っていたから、どうしたのかと思っちゃったよ」
「あっ、すいません。とっ、図書室にどんな本があるのかなーって、考えていて、ちょっと魂が天高く飛び立っていました」
手をばたつかせ、慌てて言い訳するが、意味不明だった。
不覚……。
魂が飛び立つってどういう事だよ……。
死んだってことか?
「……歌波さんも本が好きなの?」
私の意味不明な魂発言に触れる事無く、青葉は質問してきた。
本か。
この場合言っている本とは小説のことだよな。
そう考えると答えに困るな。
本を読んだとしても、日向子さんに進められる漫画本や、極稀に渡される恋愛小説とミステリーくらいだ……。
「……本は好きなのですが、最近は読めていないですね」と、無難に答え、頼むから『好きな本はなに?』って、質問はしないでくれと心の中で祈る。
「そうなんだ」と、嬉しそうに微笑を私に贈ってくれた。
可愛い笑みだ。
「時間があったら、ここの本を借りていくと良いよ」
その言葉を聞き、図書室の前に来ていたことに気づいた。
図書室は、二階の一番奥、階段を下りて直ぐの位置にあった。




