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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第1章 波原刑と私
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第5話

 路地を抜け大通りを歩きながら、携帯で雛鳥までの最寄り駅へ向う電車の時間を調べた。

 現在地から近くの駅までは歩いて十分程度かかる。そこから地下鉄に乗り、電車に揺られる事十五分で、雛鳥の最寄り駅に着けるようだ。

 そこから雛鳥までは歩いて更に十五分かかる。ここから雛鳥までは、早くても四十分かかることになる。


 あと四十分もこの緊張状態が続くとなると、気が重くなった。


 ビルを出てからといもの、日向子さんの帰るまでが暗殺と言う言葉が耳に残り、必要以上に気を張ってしまっていた。


 すれ違う人、微かに感じる視線、喋り声、周りから聞こえる物音に過敏に反応してしまっていた。


 緊張し握り締めていた手を開く。手の中にはうっすらと汗をかいていた。


「リラックス……リラックス……」

 周りに聞えないように呟き、掌と人差し指を伸ばしストレッチする。


 口ではリラックスと呟いていたが、頭では日向子さんの言葉を反芻していた。


 帰るまでが暗殺。


 つまりまだ暗殺は終っていないということだろう。


 依頼は間違いなく完遂した。


 今頃は日向子さんから連絡が行った依頼主が、事後処理をする為に向かっている頃だろう。死体を片付け、ダンボールを回収し、そして……。

 最後の仕事の内容を想像してしまい、思わず身震いしてしまう。


 

 ミイラ取りがミイラになってしまう。それだけは避けなければならない。


 視線を左右に送る。行きかう人の視線は私には向けられてはいない。

 次に、耳を澄まし、音を拾った。

 喋り声、車のエンジン音が聞える。

 けれど後を浸けるような足音―――私が身構えるような音は聞えなかった。


 ただただ、平和な午後の情景が広がっているだけだった。


 思わず全て思い過ごしなのではないかと、考えてしまったが、日向子さんがわざわざ忠告してくれたのだ、思い過ごしと言うことはないだろう。


 私達が今属している世界は、世間一般で言う、裏の世界と言うものになる。

 プロの殺し屋に、プロの仲介屋、プロの清掃屋のいる世界。


 普通に生きていけば、まず係ることのない世界だろう。


 この殺し屋と言う職業は二つに分けることが出来る。

 一つは組織に属して暗殺を行なう殺し屋。

 一つは組織に属さない、フリーの殺し屋。


 私と刑は後者に当たる。


 組織に属すれば仕事を選ぶことはできない。上からの指示通りにターゲットを殺し、依頼を完遂することになる。

 厳しいルールもあるし、失敗すればそれ相応の罰が与えられることにもなるという欠点がある。


 けれど欠点を補って余りある利点があった。それは命を狙われないという所にある。


 今から十八年前にこの地域にある幾つもの組織は統一され、たった一つの組織が殺しの依頼を請け負っている状態となった。

 統一以前は、殺し屋組織間の争い、暴力団との衝突が耐えなかったと言われている。

 しかし幾多の争いの果てに、NEST(ネスト)と言う一つの組織に統一された。


 NESTは圧倒的な組織力を持ち、暴力団との不戦条約を結び、安全を勝ち取った。


 その組織力の前では歯向かうものはいないとさえ言われ、統合前には行なわれることも多かった、ターゲットの家族、友人からの報復行為や、依頼主からの口封じも無くなったと聞く。


 フリーの殺し屋は仲介屋を通じて、依頼を受けることができ、報酬額、難易度を照らし合わせて、完遂が難しそうな場合は、断わることが出来る。

 報酬も、組織に属するよりも多く懐に入ると言われている。


 その為、フリーの殺し屋の中には、パートナーを雇い、任務を行うものもいる。刑と私もこの関係に当たると言っていい。


 フリーの欠点としては、身を守る存在は自分だけということが言える。

 ターゲットの家族、友人からの報復も、依頼主からの口封じも自分で解決しなければならない。


 守ってくれる人などいないのだから。

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