表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第5章 青葉昴弥と図書室
59/153

第58話

 扉をコンコンとノックしてみる。

 もちろん校舎に入るためにノックをしたわけではない。


 二人の証言を確認するために行なっているんだ。

 階段を上りノックしたときは、コンクリートで囲まれた踊り場に、反響したが、屋上側では小さな音がするだけだった。


 私が屋上に来たときに返事がなかったのも、鶴賀には聞えなかっただけかもしれない。

 次に扉をゆっくりと引いてみる。錆びた扉だと思ったが、微かにギギギと言う音がするだけで、離れていれば聞えないだろう。

 ゆっくりと閉めてみると、これも小さなカコンと言う音がするだけだった。


「鶴賀さんがいた場所にもよりますが……白石さんが屋上を出て行く事は可能ですね……」と、呟き、次に梯子に手を伸ばす。


「よいしょっと」

 梯子を上ると、踊り場の上が見えてきた。


「あれっ?」

 踊り場の上には体育のマットが見えた。


「これは……寝るために置いたのかな?」

 梯子を上りきり、マット傍らまで歩いていく。

「おー」

 屋上よりも三メートルほど高いだけと言うのに、見える風景が変ったように感じた。


 マットに横になってみると、日差しを浴びたマットは、ぽかぽかと暖かく、眠気が襲ってきた。白石がここで寝るのも頷けた。


 私は体勢をうつ伏せに変え、辺りを見回す。立った状態からは特進校舎も、職員棟も、普通化校舎も見えたが、横になった状態からは、特進校舎は見ることが出来なかった。

「……なるほど……」

 白石が寝ていたと言ったのはこの為だったのかな? 


 もし踊り場の上で寝ていても、鶴賀がいるのは見えていたと言っていたら、この事実を突きつけ、アリバイを崩すことも出来た。

 けれど白石は、寝ていて鶴賀を見ていないと言ったので、アリバイはなくなったが、事実を言っていることになるな。


「よいしょっと」と、呟きながら、梯子を降りる。


 次は鶴賀の発言の確認だな。

 しかし、どうやって確認しよう。


 タバコを吸っていた確認なんてどうすればいいんだろう……。

 タバコを吸う鶴賀を想像してみる……。

 慣れた手つきで火をつけ……あれっ? 


 どうやって火を消していたっけ?


 小走りで鶴賀がタバコを吸っていた場所まで急ぐ。


「あった」

 地面には吸殻が落ちていた。踏み消したんだろうか、先端が潰れている。


 鶴賀はタバコを吸っていたが、携帯灰皿も、空き缶を灰皿代わりに使っている様子はなかった。

 マナー違反だが、ポイ捨てしているようだ。

 いや、未成年でタバコを吸っている時点で、マナーどころか法律違反か。


「もし、いつも捨てているなら……」

 私は地面を見つめ、特進校舎屋上をウロウロと歩き回る。

「……ないなぁ……」

 特進校舎の屋上には、他にタバコは落ちていなかった。


 普段から携帯灰皿を持っているなら、屋上にタバコの吸殻が落ちていないのも頷けるが、今日だけポイ捨てをする理由が分からない。


「今日だけ偶然忘れてきた……は、ないな。清掃でも入ったのかな……」と、呟き顔を起こすと、職員棟が視界に入った。


 時計を見てみると、昼休みが終るまで、まだ十分ほど残っていた。

「一応見てみようかな……」


 応法学園の屋上は、渡り廊下の部分で繋がっていた。

 渡り廊下の上部を歩き、職員校舎の屋上に移り、また地面を見つめ、ウロウロと歩き回る。

「……あっ」

 タバコの吸殻が落ちていた。それも一本や二本じゃなく、何十本もだ。


「凄い量……」

 どのタバコのフィルターも、拾った一本と同じ銘柄のものだった。鶴賀のタバコで間違いないだろう。


 けれど、この量は、一日や二日で溜まるものではなさそうだった。何十日もここでタバコを吸っていたのを物語っていた。


 

 顔を上げ、タバコが落ちている場所を確認してみる。


 職員棟の一番端だった。


「鶴賀は普段からここでタバコを吸っていた?」

 つまり……ここがお気に入りの場所?


「うーん。普通科校舎も見てみようかな?」

 しかし、普通科校舎屋上から吸殻は見つからなかった。


 つまり鶴賀は、普段は職員棟屋上でだけタバコを吸っていたことになる。


 吸殻のところまで戻り、辺りを見回す。


 見える景色は、特別校舎屋上とあまり変りはなかった。

 違いを上げるとすれば……踊り場の上からはこの場所が見えるくらいか。


 何故鶴賀がここでタバコを吸っていた理由が私には思いつかなかった。


 踊り場の上にいる白石から見える位置だからか?


「……うーん。なんだかしっくりこないな……」と、呟くと、キーンコーンカーンコーンと、予鈴が鳴った。


「もう時間! まだお昼食べていないのに」

 お昼を食べていない事を思い出すと、お腹がグーと鳴った。


 本鈴がなるまであと五分。


「……とりあえず少しはお腹にいれよう……」

 残り五分しかないが、静まり返った午後の教室でグーっとお腹がなったら、耐えられる自信はない。

 それならば授業に遅れる覚悟で、少しでもお腹に食べ物を入れるほうがマシだ。

よし、一口二口でもいいから食べよう。


 遅刻する事を決意し、ダッシュで屋上入り口まで戻り、落としたお弁当袋を拾った。

 落とした衝撃で中身がこぼれていないか心配だったが、二段の箱をゴムでしっかりと止めてあったので、大丈夫だった。


「……良かった」

 安心し、蓋を開けて見ると、一段目には焼きベーコンがびっしりと詰まっていた。


「……」

 響さんの手作りと聞いて期待していたが、昨日の残り物のようだった。

 まあ、忙しいさなか、作ってもらったものだ。残り物でも文句を言うのは止めよう。

 けれど……男飯過ぎじゃないか?

 女の子のお弁当は、色とりどりのおかずで溢れているものじゃないのか?

 色はピンクで女の子らしい色ではあるが、肉汁が溢れ出すピンク色はもはや、男の色だ。


 この様子では、二段目はご飯のみかもしれないな……。

 そう思いながら、蓋を開けて見ると、ご飯の上に海苔で文字が書かれていた。


 文字を見て思わず、「あはっ」と笑ってしまった。


 ご飯には海苔で、『LOVE ERIHA』と、書かれていた。


 殺人鬼と殺し屋がひしめくこの学園で、初めて温かさを感じた。


 ベーコンを一枚取り、口に運ぶ。

 冷めてはいたが、美味しかった。


 ベーコンをもう一枚口に運び……ご飯をかっ込む。


「……美味い……」


 束の間ではあるが、応法学園に来て、初めて心から笑みを浮かべることが出来た。


 心の底からの笑顔かは分からないが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ