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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第4章 鶴賀徳人と白石頼流と屋上
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第53話

「……ッ!」

 白石の言葉を聞き、鶴賀の表情に驚愕の色が一瞬だけ浮かんだ。

 ほんの一瞬だが、私はその顔を見逃さなかった。


 白石のアリバイを聞く事が、鶴賀にとって不利益になるということか? 

 それならば聞かなければならないな。


「じゃあお聞きします。白石さんは四時間目開始から、終了まで何をしていましたか?」


「徳人と一緒に屋上に来て、プリントをやろうとしたけど、天気も良かったからそこで寝てたよ」と言うと、梯子の上部を指差した。


 朝犬山が見ていた場所だ。


「屋上に来て直ぐ寝て、徳人に起こされるまでは爆酔してたな」


「起こされて直ぐに、教室に向ったんですか?」


「寝付いたら中々起きられないけど、寝ぼけたりはしないから、直ぐに教室に向ったよ」

 さっきも鼾を掻いていたと思ったら、いつの間にか鶴賀の横に立っていたし、寝起きは良さそうだ。


「……あっ。寝付いたら、中々起きないと言いましたが、一昨日も、鶴賀さんに起こされるまでは、一度も目を覚まさなかったんですか?」


 白石に聞きながらも、視線を鶴賀に送る。鶴賀の目には焦りの色が浮かんでいる。


 今の質問は鶴賀にとって痛いところを突いたということだろう。


「じゃあ、その寝ている間に鶴賀さんが……タバコを吸っているところは見ましたか?」


「おい。ガキぃ、何を言ってんだよ」


「黙ってください。どうせアリバイの証言力はないんです。ここで見ていたといっても、見ていないと言っても、違いはありません」


「違いがないなら、聞く必要ねえだろ!」

 鶴賀は立ち上がり、唾を飛ばしながら声を荒げるが、私は引かなかった。

 迫力はあるが、ここで引いては事件の真相が明らかにならない。


 私は本能的にそう悟った。


 睨み付ける鶴賀の目を見つめ返す。

 瞳に引きませんと描く。


 私と白石が睨み合っていると、「徳人落ち着けって」と、白石が仲裁は入った。

「俺も徳人も犯人じゃないんだから、正直に言うべきだろ。俺が寝ているときに徳人が何をしていたかは分かんないな。寝ていたんだから。屋上にいたのかどうかもな。逆に徳人も俺を見ていないはずだ。男の寝顔なんて見ても、何の特にもんないしな」


「……」

 押し黙る鶴賀を見ると、白石の言う通りなんだろう。

 もちろん寝顔を見る趣味がないという事ではない。お互いに屋上に来てから、姿を見ていないということだ。


 これはどういう事だ? 

 白石はお互い犯人じゃないから、正直に言うべきだといったが、これでは……鶴賀を売ったようなものではないか。


 分からない。


 白石が何を考えてるか、私には理解することはできない。

 そして鶴賀が何を考えているかもだ。


 二人の発言が逆ならば納得がいく。

 鶴賀は白石と一緒だったと言っている。これはアリバイの証明のためだろう。


 けれど白石は寝ていて、鶴賀が何をしていたか……屋上にいたかどうか寝ていて分からないと言った。


 つまり……鶴賀が犯行に及んでいても、寝ていて分からないと言うことだ。

 護衛の白石が鶴賀を庇わないのは何故だ?


 鶴賀が白石を容疑者から外そうとしているのは、私が白石に犯人なのかと聞こうとしたとき、止めたことからも分かる。

 けれど、白石は鶴賀を容疑者にしようとしている。

 話す必用のないアリバイを語ったことからも分かる。


 意味が分からない。


 逆なら理解できるんだ。雇い主の鶴賀を白石が庇い。鶴賀が白石を切り捨てる。

 それなら理解できるんだ。


 白石は鶴賀を恨んでいるのか?

 だから庇おうとしない?


 

 それとも鶴賀を犯人だと思っているのか? 


 いや、それはないな。

 何故なら白石は誰も疑っていないんだから……。


 分からない。


 一つだけ分かること。それはこの場が今日一番空気が冷え込んでいる。

 それだけは間違いなかった。


 白石の考えを聞きたかったが、この空気では聞くのは難しそうだ。白石が話そうとしても、鶴賀が黙ってないだろう。


 鶴賀は今私の頭上から、鋭い眼光を飛ばしている。


 考え込み、下を向いていても分かる。

 これでも殺しの世界のプロ。


 視線には敏感だ。

 まぁ、定期的に、頭上から「チッ」と、舌打ちが聞えるから、分かるというのもあるが……。


 時計に視線をチラリと移す。

 昼休みの時間は四十五分。

 まだ話す時間はありそうだ。

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