第3話
『――はいはーい。喫茶雛鳥でーす。今日の営業は終了しました。またのご利用お待ちしておりまーす』
雛鳥のオーナーであり、私と刑に仕事の仲介をしてくれる、仲介屋、十鳥日向子が独特の間延びした声で電話に出た。
そして『ガチャッ――――――ツーツーツー』と、電子音が続いた。
電話が切られた。
「――――――えっ?」
切られた?
予想外のことに私は、電話を切られたにもかかわらず、「もしもし、日向子さん! えっ、もしもーし」と、呼びかけた。
突然電話を切られたときのリアクションは、みんなこんなものでしょう?
「…………」
しばしの間。スーッと血なまぐさい空気を吸いこみ、息を吐き出し、冷静さを取り戻す。
「よし……もう一度かけよう」と、自分に向かい話しかけ、雛鳥に電話を掛ける。
『――――――はいはーい。喫茶雛鳥でーす。今日の営業は終了――――――』
「もしもし日向子さん、私です。歌波です!」
先程同様の定型分の電話対応を強引に遮り話しかけた。
『あれっエリちゃん。どうしたの、いきなり電話してきて。あっ、ランチの予約かな? ごめんねー。今日は天気も良いから、お店閉めちゃうんだ。また明日にでも食べに――』
「ランチじゃなくて、仕事の話です!」
的外れの受け答えをまたもや強引に遮る。
そもそも喫茶店が、天気のいい日に店を閉めちゃダメでしょう。
『仕事と言うと……あっ弘前達の事かな? もう片付いたの?』
「はい。十分ほど前に。弘前を含め六人の抹殺が完了いたしました。通常なら掃除屋を呼んで清掃をして頂くところですが、今回は依頼主に連絡をし、片付けて頂くとのことなので、日向子さんに連絡をいたしました」
声のトーンを落とし、仕事モードの口調で話す。
『エリちゃんには依頼主の番号を教えてなかったもんね。了解。了解』
私とは裏腹に、明るい、はずむような口調の日向子さん。
『それにしても、依頼を仲介して三日で完遂するなんて、エリちゃんも、ケイちゃんも腕が上がったねー。お姉ちゃんも鼻高々だよー』
日向子さんは、更に声をはずませた。
日向子さんは姉と言ったが、私と刑どちらとも日向子さんと血縁関係はない。そもそも私と刑はまだ十代であり、日名子さんは三十代中盤だったはずなので、歳の差的にお姉ちゃんと言うのは無理があるのじゃないかと思ったが、口には出さなかった。
空気を読み、「ありがとうございます」とだけ返し、「それで」と、本題に入った。
「今から依頼主に連絡していただいてもよろしいですか?」
『オッケーだよ。よろしい。よろしい』
日向子さんは、はずむような声で答えると、『あっ』と、何かに気づいたかのように声をあげた。
『エリちゃん、依頼条件の銃を使わないって言うのは、もちろん大丈夫だよね?』
今回の依頼内容を完遂しているのか、確認をされる。
「はい。問題なく」
『じゃあ、相手に――銃を使わせない――って言うのは大丈夫かな?』
銃を使わせない。そう言った日向子さんの声からは、明るさは消えていた。
低く静かな響きが耳に伝わってくる。
威圧され、背筋に悪寒が走る。
ゴクっと、唾を飲み込み、震える声を必死に抑え、「……はい」と、答える。
『じゃあ、弘前たちは――銃を出してもいないかな?』
低い響きが続く。
銃を出しても? それも大丈夫なはずだ。弘前達は誰も銃を手にしてはいなかった。
ナイフを拾う際、室内を見回ったが、どこにも銃は落ちていなかった。
「大丈夫です」と、直ぐに答えようと思ったが、念のためにと思い、その場で再度辺りを見回す。
姿勢を下げ、ソファの下も覗いて見る。
やはりどこにも銃は落ちてはいない。
大丈夫だなと思ったその時、視線が積み重ねた段ボール箱で止まる。そこに銃が落ちていたわけでも、段ボール箱の上に銃が置かれていたわけでもない。
ただ唐突に、日向子さんが質問していることの、本当の意味が分かった。
「……ッ!」
思わず声が洩れる。