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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第2章 十鳥日向子と依頼
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第35話

 犬山は話し疲れたのか、一度背伸びをした。

「さて、次の紹介に移るっすか」


 そうだった。まだ六分の二しか聞いていなかった。

 鶴賀と白石を犯人だと決め付けるには早すぎだ。


「次はまとめて紹介するっす。出席番号十六番、姫路亜弥と、十七番、姫路沙弥っす。名前から分かるように、二人は双子っす」

 同じ名字で名前も似ているから、もしやと思っていたが、やはり双子のようだ。

「さっきも言ったように、亜弥と沙弥は鳳凰會会長、姫路叡山の孫っす。二人の父親は叡山の一人息子の姫路叡信なんすけど、十八年前に死んでるっすね」


 姫路叡山の孫。

 この地方最大の暴力団の会長の孫。

 このクラスでは最大の大物だろう。


「姉の沙弥は身長百六十五センチ、靴のサイズは二十四センチっす。胸のサイズはイー」


「ちょっ、待ってください!」

 犬山の言葉を遮る。

「そこまで言う必用はないです」


 別に自分の胸のサイズを気にして止めたわけではありません。

 けれど……イーって言ったよね?

 Eカップってことか?


 羨ましい……。


「そうっすか。じゃあ性格に移るっすね。性格は高飛車っていうんすかね? かなり我儘で、周りを見下している感じの、ザ・お嬢様って感じっすね。見た目はエロいっす」


 見た目をエロいで片付けられた。

 ちょっと会うのが楽しみだな……。


「戦闘技能は抜群っす。幼い頃から姉妹揃って、姫路組の施設護衛団から護身の為に、格闘術やら殺しのイロハまで学んだらしいっす。今では護衛団でも彼女達に勝てる人間は、数えるくらいしかいないという噂まであるっすね。獲物はナックルガード付のハンティングナイフっす。うちと一緒で、太ももにホルスターを装着して仕込んでいるっすよ。以前亜弥が鶴賀と揉めた時の話なんすけど、仲裁に入ったうちの護衛の久能をガードの部分で殴り倒したっすよ。まぁその後に、ナイフを鶴賀に向けたら、白石に奪われて、取り押さえられてたっすけどね」


 亜弥の凄さも分かったが、それよりも白石の凄さが際立った気がするな。


「次に妹の沙弥っすね。身長は百六十四センチで、亜弥より一センチ小さいっすけど、靴のサイズは二十四センチで一緒っすね。性格は暗いっすね。あといつも亜弥の一歩後ろを歩いていて、まるでメイドみたいっす。叡山の血筋はもう亜弥と沙弥しかいないんすけど、長女の亜弥が婿を取ったら、その殿方が未来の鳳凰會のトップに立つみたいっすから、亜弥を守る立場なのかも知れないっすね」


 なるほど、つまりは沙弥は護衛と言うわけか。


「戦闘技能は亜弥が、自分以下と言っていたことがあるっすけど、かなり強いのは間違いないっすね。うちの先輩が二年以上前に、姫路組を法的に潰そうとした政治家の護衛をした時、同じ顔をした二人の少女に深手を負わされたことがあるんすよ。第一線の殺し屋が、中学生くらいの少女に負けたって、うちでは話題になったすね」


 話の流れから言って、亜弥と沙弥のことだろう。


「その少女は同じ武器を持っていて、左右対称に攻めてきたみたいっすよ。今も武器は亜弥と同じファイティングナイフかも知れないっすね。うちの判断では亜弥と沙弥を同等の技能があると考えた場合、一人でも十分可能。二人なら楽々実行できるって感じっすかね」

 可能とは、十六人を殺すことが出来るかどうかと言うことなんだろう。

「そもそも刃物で十六人を一人で殺すのは簡単じゃないっす。殺していけば、血で斬れなくなってくるし、少しでも手間取れば、携帯で助けを呼ばれたり、廊下に逃げられたりするっすからね。うちの羽持ちの人達や、白石みたいな化け物ならともかく、名が売れている程度の殺し屋では、かなり難しいんじゃないっすかね?」


 疑問系で言ってきたが、犬山は私が答える前に、「でも、二人ならどうっすか?」と再度聞いてきた。


 刑は昨日似た依頼を完遂した。相手は六人だったが、逃げ出させたり、助けを呼ばせたり、銃を撃たせる事なく殺した。応法学園の事件では、銃を撃たせずという点は違うが、他は似ていた。

 その似ている事件を完遂できたのは、刑に実力があっただけではない。


 相手に逃げ道がなかったからだ。


 逃げ道がある大勢の相手を一人で殺すのは大変だが、二人ならば……。


「二人なら、出入り口を塞げますね」


 弘前のねぐらには入り口しかなかったが、教室には入り口出口がある。

 もし、入り口から踏み入っても、後ろから逃げられる可能性がある。けれど一人が入り口から踏み入ったときに、もう一人が出口を固めていれば、生徒を逃さずに殺すことが可能だろう。


 二人なら楽々実行できるとは、そう言う事だろう。


「二人にはアリバイはあるんですか?」


「あるっすね。犯行時刻には二人とも音楽室にいたらしいっすよ」


 二人とも一緒なら、アリバイの証拠にならない。

 犬山がさっき言ったように、親族の証言には信憑性がないからだ。


「音楽室でこれをしていたみたいっすよ」と言うと、左右の人差し指を立て、下を指すと上下に動かしだした。


 このジェスチャーはなんだろう……。

 もしかして……。

「ピアノですか?」と、恐る恐る聞いてみる。


「そうっす。ピアノを奏でていたみたいっすよ」

 犬山のジェスチャーでは奏でるのは無理だろうと思ったが、その事は口には出さなかった。


「ピアノを弾いていたなら、誰か音を聞いていなかったんですか?」


「聞いていた人はいないっすね。音楽室は職員校舎の三階にあるんすけど、実は当日、職員棟の特別室はどのクラスも使ってなかったんすよね」


「どのクラスもですか?」

 三学年十八クラスがどの特別室も使わないなんてことがあるのか?


 しかし答えは使わないこともあるだった。

「実は今週は中間テストの期間なんすよ。まあ、特進クラスにはテストはないんで関係ないんすけどね」


 それなら誰も特別室を使っていないのも頷けた。

これでピアノの音を誰かが聞いていれば、アリバイの立証になったのだが、犯人探しはなかなか難航しそうだった。


「ちなみにピアノの音が聞えてもアリバイにはならないっすよ。二人の犯行説は否定することになるっすけど、一人が演奏して、一人が犯行を行なえばいいんすからね」


 なるほどと頷く。

「じゃあ、姫路姉妹も容疑者から外れないんですね」


 これで二組四人の紹介が終わり、二組とも容疑は晴れなかった。


犬山はまたせ伸びをし、「さてと」と言うと、五人目の紹介を始めた。

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