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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第2章 十鳥日向子と依頼
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第33話

「十六人の死亡者が出たと聞いていますけど、他に怪我人とかいなかったんですか? 容疑者が犬山さん含めて六人いると伺っているんですが?」


 ミステリーを否定しながら、私は探偵のような質問をした。


 実は十六人死亡した教室内に、一人だけ重傷者がいて、実はそいつが犯人だったというパターンだ。自分自身を傷つけて、被害者側回り、容疑者から外れると言うもの。

 以前読んだ漫画に、そのようなものがあったので口に出してみる。


「それはないっすよ。教室にいた人はみんな死んでたんすから」


 どうやら外れらしい。


「じゃあ叙述トリックは? 十六人の中に実は担任の教師が混ざっていて、容疑者六人以外に秘密の七人目の生徒がいるというのはどうですか?」


 ミステリーには叙述トリックと言うものがある。意図的に情報を伏せ、誤認させるものだ。


 今回の事件なら、生徒が死んだと思わせておいて、実は教師がカウントされているというものだ。

 そして隠された生徒、そいつこそが……。


「あり得ないっすよ」と、妄想に耽っていた私に、犬山の冷ややかな言葉が突き刺さる。


 私の案はあっさりと否定された。


「そんな人がいたら、そいつが犯人確定じゃないっすか。ってか、叙述トリックは作者が意図的に犯人を誤認させるために行なうやつっすよ。これはリアルであって、小説じゃないんすよ。叙述トリックも信頼できない語り手トリックもないっすよ」

 意外と詳しいなこの子……。


 少年漫画しか見なさそうな外見なのに、ミステリー小説を読みふけってそうだ。

 しかし、金髪アシメの髪でミステリー小説を読む姿を想像するのは難しかった。


 ……これは偏見か。


 反省。反省。


「話を進めて良いっすか?」

 呆れられたかのように、哀れみの満ちた目――猫目なのに、こんな目つきが人には出来るのかと思わせる目――で文学少女に、見つめられた。


「はい……」

 私は押し黙った。暫く口を挟むのを止めて、静かにしてよう。


「クラスメイトで生き残ったのは、出席番号二番、青葉昂弥(あおばこうや)、四番、犬山明日葉……うちっすね。八番、白石来流(しらいしらいる)、十番、鶴賀徳人(つるがのりと)、十六番、姫路亜弥(ひめじあや)、十七番、姫路沙弥(ひめじさや)の六人っす」


 生存者の名前を教えられ、つぐんだ口が開かれた。


「鶴賀に……姫路!」

 鶴賀は、音羽會敦賀組。姫路は、鳳凰會姫路組。

「直径の子ですか?」


「そうっす。鶴賀は鶴賀組組長の三男。今の音羽會会長の息子で、姫路姉妹は鳳凰會会長の孫に当たるっすね」

 音羽會系暴力団のトップの鶴賀組と、地方最大の暴力団鳳凰會系トップの姫路組の名を持つ三人が同じクラスにいたなんて、信じられなかった。


「この学園にはそんな大物の子が通っているんですか?」


「学園って言うか、このクラスが異常なんすよね。一年と二年は組の幹部の子が四、五人に、護衛も四、五人。あとNESTから派遣された護衛が二人ずついるだけで、各学年共に、生徒が十人ちょっとしかいないっすからね。なのにうちのクラスだけ二十二人いるって事は、どれだけ護衛が多いかわかるっすよね。ちなみに死亡者の中には、首里組組長の甥であり、首里組若頭の長男、首里悠一郎(しゅりゆういちろう)がいるっすよ」


 

 姫路組、鶴賀組、首里組の大物の子が一同に介していたことになる。

 今回の事件の重大さを再確認させられた。


 この依頼を失敗でもしたら……殺されるのは間違いなさそうだ。


 それも一思いには殺さないだろう。

 なぶるように、拷問にかけられることが容易に想像できた。


「姫路組と鶴賀組はまだ生きているからいいんすけど、首里組は死んでいるっすから、今一触即発の事態なんすよね。首里組からしたら、姫路組と鶴賀組が組んで殺したと思っているようっす。早く犯人を挙げないと、戦争が起きそうっすね」


「この依頼にはタイムリミットがあるみたいですね……」


「姫路会長が押しとどめているみたいっすけど、もってあと五日と言う所っすかね」


 もって五日と考えると、今日が木曜日なので、タイムリミットは月曜までと言うことになる。月曜までに片付けるのならば、今日、明日中までには処理しなければならない……。

 土曜日を休みとした国に、初めて怒りを覚えた。


「鶴賀と姫路の情報の触りを話たっすけれど、他の人物の説明も含めて、詳しく話すっすね」


「お願いします」


「まず出席番号十番、鶴賀徳人。音羽會鶴組組長の三男、末っ子すね。身長百七十八センチの痩せ型っす。靴のサイズは二十七・五センチで、性格は見栄っ張りっすね。見た目はこの後見てもらうと分かるっすけど、ザ・ヤンキーって感じっす。戦闘技能は基礎から叩き込まれているようで、日本刀の扱いに関してはかなりの物らしいっす。それもあってか、学園には匕首を持ち込むことが多いっすね。うちの予測では十六人を殺せる技量はギリ満たしている感じっすかね。次は出席――」


「ちょ、ちょっと待ってください!」

 情報量の多さのあまり、一度静止する。


「凄い情報量ですね……。性格はともかく、身長や靴のサイズまで良く分かりますね」


「身長や靴のサイズ、胸囲やウエストのサイズは見て分かるっすからね。ほんとは体重も知れれば良いんすけど、体脂肪率や骨密度で、体重も変わってくっるすから、明言できないんすよね」


 そこまで分かれば十分な気もするが……。

 そう言えば、私の靴のサイズを当てていた事を思い出した。

 犬山は当たり前のように言ったが、凄いスキルなんじゃないのか?

「NESTの殺し屋はみんなこんなこと出来るんですか?」


「洞察力の鋭い人なら、身長くらいは直ぐに当てられるっすね。まあ靴のサイズやスリーサイズを当てられるのは、うちくらいじゃないっすかね?」


 何百人もの殺し屋を抱えるNESTの中で犬山しかできないとなると、相当な特殊能力らしい。


「次にいくっすよ」と言うと、犬山は話を戻した。


「格闘技能は、うちの組織がバッティングした依頼の情報からと、本人に聞いた話を加味して導き出したっす」


 組織の情報も含めての判断ならば、十六人をギリ殺せるというのも信憑性はありそうだ。


 愛用の武器が匕首と言うのもリアリティーを増していた。匕首は唾の無い小型の日本刀で、古くからヤクザが愛用していた凶器だ。

 日本刀の持ち味である、切れ味を持ち、混戦でも小回りを活かして戦える。


「次に行っても良いっすか?」

 頭の中のメモ帳にしっかり書き込んでいると、犬山が声をかけてくる。


「あっ、お願いします」


「次は出席番号八番、白石来流っす。白石は鶴賀の護衛として学園に通っているっす。身長は百八十六センチと大柄で、体格も制服の上から分かるくらいがっちりしているっす。靴のサイズは二十九センチっすね。性格は明るくてクラスのムードメーカーっす。見た目はイケメンなんでお楽しみに」


 その言葉でピックと眉が揺れた。イケメンか……。犯人かもしれないが、会うのが少し楽しみになった。


 仕事中だ、いかんいかんと自分に言い聞かせ、話に耳を傾ける。


「高校二年からの転校生で、それまで表の世界の普通の学校に通っていたっようっすね。格闘技術や暗殺技術は学んできていないみたいなんすけど、白石は……化け物っす」


 化け物。

 犬山はそう言うと微かに口角を上げた。

 白石が強い事を喜んでいるような感じだ。


「二年から裏の世界に入ってきた理由は、白石の友達が鶴賀組と揉めた所を、白石が組に乗り込んで助けたのがきっかけみたいっすね」


「組の事務所にですか。かなり勇気が要りますよね……」


 私も小さな組の組長暗殺の依頼を受けたことがある。

 その時は夜に配電盤をいじり、停電を起こし、暗闇に乗じて刑が暗殺を行なったが、大変な仕事だった。それを表の世界の高校生が行なったと考えると、白石の凄さが分かった。


「それが事務所じゃないんすよ」と犬山は言った。


 組み事務所ではないとはどう言うことだろう? 

 犬山は確かに組に乗り込んだといったはずだが?


「乗り込んだのは、音羽會会長の邸宅っす。門から堂々と入って、護衛を何十人も殴り倒して、クラスメイトを返すように鶴賀会長に直訴したみたいっす。その男気を会長がいたく気に入ったらしく、鶴賀組の食客として迎えられ、鶴賀の護衛についたみたいっすよ」


 裏の世界にいる私でも、今の話はにわかに信じられなかった。

 会長宅に一人で乗り込む? 

 それも門から? 


 正気の沙汰とは思えなかった。


「どの世界にも天才はいるっすけど、白石はその上の化け物っすよ。武器は持ち歩いてないっすけど、鶴賀に剣術を習っていると聞いたことあるっすから、刀は使えそうっすね。十六人を殺せる技能は十二分にあるっすね」


 素手で組の護衛を何十人も殴り倒した男だ。

 武器を使えば十六人を殺すくらい分けなさそうだった。


「うちの予想では、羽持ちクラスの力はあると思うっすね」と言うと、少し真を開け「ただ」と言った。


「ただ?」


「白石が誰かを殺したなんて話聞いたことないんすよね」


「さっき会長の邸宅に乗り込んで、護衛を何十人も倒し……」


 口に出すと犬山の言っていた意味が分かった。


 確かに羽持ち――響さんレベル――と言ったのも頷けた。


 犬山は護衛を倒したとは言ったが、殺したとは一言も言っていなかった。


「殺さずに……殴り倒したんですね」


「そうなんすよ。何十人も殺して進むんじゃなく、生かして進む。相手にする人数が同じでも、難易度は格段に違うっすね」


「……化け物……」


 自然とその言葉が口から零れ落ちた。

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