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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第2章 十鳥日向子と依頼
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第29話

「痛ッ」

 手首に鈍痛が走ると、ガチャンガチャンと、飛ばされたナイフが地面に落ちる音が聞えた。


 寝ている体勢とは思えないほどの力だった。

 どうすればあの体勢で、握りこんだナイフを弾くほどの力を出すことができるんだろうか。


 これがNESTの殺し屋の強さだというのか……凄い。


 って、感心している場合じゃない。私は咄嗟に犬山のナイフを握った手首を両手で掴みにかかる。


 マウントを取ってはいるが、私は武器を失った。徒手空拳では、犬山の追撃を防ぐ事はできそうにない。

 出来ないなら、させなければいい。

 手首を決め、ナイフを捨てさせれば、今度こそは勝ちだ。


 しかしその行動は間違いだった。両手で左手を掴みにいった結果、私の重心は右に逸れてしまった。

 犬山は開いた手で私の肩をトンと押すと、簡単にくるんと体が回り、体勢が入れ替わった。


 上下が逆転し、犬山を見上げる形になった。殺し合いの最中と言うのに、犬山は楽しそうに笑っていた。


「武器にばっかり、気を取られちゃダメっすよ」と、猫目を輝かせ言ってきた。


「……ッ」

 ナイフを持つ手を、掴んでいるとは言え、形勢はどう考えても不利だった。


「これはゲームオーバーっすかね?」と言うと、口角を上げ笑った。


 腹筋に力を入れ、上体を起こし、犬山を弾こうとしたが微動だにしなかった。


 せめてナイフを放させれば、何とかなりそうな所だが、手首を潰すつもりで握っても、ナイフを放す気配どころか、痛がる様子すらなかった。


「力が足りなさ過ぎッすよ」と言うと、腕を強引に振り上げた。


「……ッ!」

 握っていた手が離れた。


 とどめを刺される。手で顔を覆うと、腕の隙間から、ニヤッと笑う犬山の顔が見えた。


 勝利の笑みだろうか?


 誰がどう見ても、私の負けに見える状態だ。


 けれど、負けに見えるだけで、負けては……いない。


 笑うのはまだ早い。


 止めを刺すために、腕が振り上げられる。

 

 その瞬間、私は顔を覆った手で――バレットを掴み、押してロックを外しながら引き抜き、犬山の首目掛け振るう。


 ロックを外した髪留めからは、短いナイフの刃が出ていた。


 七つ道具の其の三、バレット型仕込みナイフだ。

 完璧に虚を付けた。ナイフを下ろす気配はない。

「貰った」と、私は声を荒げる。


 仕込みナイフを振るうと、顔には驚きの色が浮かんだ。


 ……私の顔にだ。


 喉元めがけ突いたバレットナイフを、犬山は右手の指二本でタバコでも持つかのように挟んで止めた。


「嘘……でしょ」

 突きを指二本で挟んで止めるなんて、人間業とは思えなかった。


「奥の手が残っているとは思わなかったっすよ」

 バレットを引っ張り、私の手から奪うと、放り投げた。

「まだ奥の手はあるっすか?」と、私に聞いてくるが、私は何も答えられなかった。

 いや、返す言葉がなかったのだ。奥の手は……もうなかった。


「……」

無言でいると、「それじゃあ」と呟く。


 振り上げられていたナイフを――振り下ろしたきた。

 喉求めがけ振り下ろされ、そして薄皮一枚と言った距離でぴたりと止まった。


「テストは終了っすね」と、犬山は私の上から飛び退いた。


 圧迫されていた体が軽くなる。


 私は上半身を起こし、「やっぱりですか」と、犬山に言った。

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