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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第2章 十鳥日向子と依頼
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第23話

「決まりっすね。じゃあ校舎案内と行きますか」

 犬山は親指で校門を指し示すと、振り返り歩き出し、突如入り口で立ち止まった。私も止まる。

「おはようっす、守衛のおっちゃん」


 挨拶された守衛は、「おはようワンちゃん」と、犬山に笑顔を見せる。


 本当にワンちゃんと呼ばれていることに驚いた。私もワンちゃんと呼ぶべきなのかな……。


 四角い交番のような守衛室の窓から顔出した守衛は、歳は四十歳ほどだろうか、温厚そうな見た目だったが、窓枠に置かれた手を見て、改めてこの学園が普通じゃないことを再確認させられた。

 この守衛も組関係の人物なのか、手の節々がまるで流木のように、ゴツゴツとしていた。

 どれだけ鍛えたら、こんな手が生まれるんだろうか。


 拳を見ている私に気づいたのか、「うん? 後ろの子は誰かな?」と、犬山に聞く。


「この子は転校生のエリちんっすよ。聞いてないっすか」

 笑みを見せ、小首を傾げる犬山の表情とは裏腹に、守衛の顔から笑顔が消え、睨むような視線を私に送る。


「そうか、お譲ちゃんが……」

 感情のない、低い声が私に届くが、犬山は気にした様子もなく、「そうっすよ。じゃあ通るっすね」と、門をくぐっていく。


 私も視線を避けるように、顔をうつむかせ、門を通り過ぎる。


 通り過ぎざまに、守衛室をチラリと横目で覗く。入り口の流木のような手をした守衛とは別に、三人の男が在室していて、皆私を睨みつけていた。

 その瞳からは、怒りが読み取れた。


 どおやら歓迎はされていないようだが……何故だ。


 門を通り過ぎると、足元がアスファルトから、石畳に変わった。


 革靴のソールがぶつかり、カツカツと音がなった。


 門と校舎の間には、小さな噴水があり、噴き出された水に太陽が反射し、キラキラと輝いていた。

……パンフレットで見て知ってはいたが、改めて見てみると、「ブルジョワ……」と、言葉が漏れた。


 こんな学園に似つかわしくない服装の私は、どんな学校でも似つかわしくない金髪カーディガン姿の犬山が立ち止まったので、釣られて立ち止まった。


 犬山はくるりと振り返り、「ようこそ応法学園へ」と、手を胸に持ってくると、執事のように頭を下げた。

 ちらりと見えたその顔には悪戯な笑みが表れていた。

 遅刻をし、不安もあるが、潜入開始だ。


 そして捜査も開始。


 ターゲットは三年六組の生徒の誰か。

 ターゲットを探し出し、刑に知らせる。

 それだけ。


 

 もう後戻りはできない。


 ポイントオブノーリターン。

 後戻不能地点だ。


 ターゲットを見つけ出し、刑が殺すまで、もう後戻りはできない。


 戻るつもりはもうない。私はただ前に進むだけだ。


 私はもう止まれない。

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