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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第10章 秤絵美奈と巣
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第150話

「ただ、これは日向子が明日歯を共犯者と気づいたときの話であって、犬山明日葉が十翼だと気づいたときではないね。僕の予想では、日向子は仲介の依頼を受けた時には気づいていたんじゃないかい? 任務に失敗したのに消されずに、学園の案内役を任されたという事は、もしや別な任務を受けていたんじゃないかってね。まあ、これは仮説であり予想でしかないけどね」


 返事は期待せずに話したが、日向子は、「タハハハハ」と笑うと、「流石はホームズ。

生き残りのNESTの殺し屋が十翼かどうかは半信半疑だったけど、最悪その可能性もあるなとは思っていたよ」

 と、答えた。


「つまり日向子は十翼と刑が殺り合う可能性があると分かっていて、僕らに仲介していたということだね」


「最悪の場合はね。けれど、だからってどうして私が秤を抹殺しようとしたなんて考えに辿り着くのかな?」


「これはコルトを持たせた理由でしかないよ。僕を抹殺しようとした根拠は日向子が屋上でエリハに推理を披露するように言ってヘリで来たからだよ」


 日向子は笑いながら話を聞くと、またコーヒーを喉に流し込んだ。

「ヘリで来たのはエリちゃんが変わった推理を披露したからだよ。犯人は屋上に着たんだーって言ったからねー」


「確かにあの推理はないなと思ったけれど、理に適っている点もあるんだよ。顔を見られずに学園に乗り込むって言うね。学園は防犯カメラに囲まれていて、入り口から入り込めば必ず映ってしまう。もし、顔を隠してフェンスを乗り越えても誰かが入り込んだのがバレてしまうからね。けれど、刑は日向子に連れられてヘリでやってきた。つまりだよ、首里組を除き学園に入り込んだ部外者はエリハしかいないことになるんだよ。僕は刑が屋上からやってきた時に気づいてしまったんだ。ああそうか、日向子はこの結末を予期していたんだって」


「予期していた? それは何をかなー?」


「白々しいね。聞いていたんだろ? 僕と明日葉の話を」

 僕はそう言うとヘアピンを指でこつこつと叩いた。

「これは七つ道具の三番だったかな?」


 昨日、日向子がエリハに渡した七つ道具の一つであり、隠し武器としても使えるナイフが仕込まれているヘアピンだ。


「便利でしょそれ。ボールペン型の盗聴器は一目でバレるから、みんなそれに警戒しなくなるんだよね。ナイフも仕込んであるから武器だと気づくと、だれも盗聴器が仕込んであるなんて気づかないんだー」


 それは間違いなかった。

 エリハにいたってはナイフだと思っていたので最後まで気づかなかっただろう。


 僕も気づいたのは、エリハが刑と叫び、その直後に刑がやってきたその時だ。


 エリハは刑に次に名前を呼んだときに学園に踏み込めと指示を出していた。


 つまり、あの時に刑が来たのは偶然ではなく指示通りと言うこと。


 そして、昨日エリハが身に付けていたもので、自前ではなかったのは制服とヘアピンに上履きだけ。


 上履きは明日葉が出してくれたものなので論外。

 制服のポケットの中にも盗聴器は入っていなかったし、仕込めるようなところもない。


 つまりヘアピン以外に、盗聴器を仕込めるようなところがないということだ。


「私が現役時代の頃は盗聴器はこんな小さくなかったから、仕込むの大変だったんだよね。音も割れたりして大変だったんだけど、その盗聴器は音はクリアだし、充電なしで七十ニ時間持つ優れものだよ」


 七十二時間充電が持つという事は……。

「僕と亜弥の話も聞いていたんだね」


 日向子は店に入ってきてからイヤホンを外し、外にいたというのに、僕の呟きに対し返事をした。


 盗聴していたからこそ出来たということ。


「聞いていたよ。けど、亜弥ちゃんにどうして明日葉ちゃんとのやり取りを話さなかったのかな? 亜弥ちゃんの質問に答えていたから話す暇がなかったって答えは無しだよ」


「言う必用がないと思ったからね」


「言う必用がない? 面白いこと言うね。答えは秤が嘘をついたからじゃないのかな?」


 何でもお見通しだよと言わんばかりの笑みを浮かべ、日向子は言ってきた。

 実際にお見通しなんだろうな。


 僕がなぜ隠したのか、全ては刑のためだと言う事を。


「明日葉ちゃんは強かったかな?」

 答えはイエスだ。同年代の殺し屋であそこまでの力を持つ人間に出会ったのは初めてだった。


 僕には遠く及ばなかったけれど。


 殺り合って数十秒で僕は、明日葉の両肩の骨を砕き、両足をへし折った。


「強かったよ。刑にやや劣るくらいの力はあったね」


「ふぅん。じゃあ 生かして帰すのはまずかったんじゃない?」


 僕が明日葉の動きを封じた後に持ち掛けた取引を知っていながら、日向子は言ってくる。


「生かさないといけない理由があったからね。あの場で明日葉を殺せば、NESTは血眼になって刑を探し出し殺すだろうけど、生かせば刑にとっても明日葉にとってもメリットが生まれるだろ」


「だから秤は明日葉ちゃんに、生かす変りに昂弥君を殺したのは秤がやったということにし、刑ちゃんと言う人物はいなかったことにしろって言ったんだね」


「そうだよ。誰かの策略のお陰で学園のカメラには刑の姿は映されていない。唯一映っているのは明日葉と一緒に校門を潜った僕の姿だけだね。そして波原刑も入学手続きをしただろう歌波エリハも、秤絵美奈のアナグラム、全てが同一人物だと考えても可笑しくはない。明日葉も依頼を失敗した以上処理される運命が待っていたが、相手が僕だと知ったら妃弓はしょうがないと思うだろうし、明日葉を褒め称えるかもしれないね。僕と殺り合い生き残り、監視カメラに映った歌波エリハは秤だと証言した功績は大きいからね。だって、今現在の僕の顔を知れるという事は、妃弓にとってターゲットの顔写真を手に入れたようなものだから」


「そして、秤は明日葉ちゃんにこう言った。刑ちゃんの事を黙っていれば、僕を殺すチャンスがまた来るよってね。安心していいよ。妃弓に会ったけれど、刑ちゃんの存在には気づいていなかったようだからね。ひたすら秤を殺す準備をしていたよ。姫路の爺様も跡取りを殺した秤を殺すために、組の精鋭中の精鋭を送るって言ってたね」


 僕を殺す計画をしていると言われたが、僕は別段動揺も驚きもしなかった。


 そうだろうな。


 僕は三年前の戦争の引き金になった殺し屋であり、妃弓の巣を壊した女だ。


 敵意と言う敵意を。


 害意と言う害意を。


 殺意と言う殺意を向けられても当然なんだろう。


「日向子の思惑通りにかい?」


「……そうだね。きっとこんなエンディングを迎えるって思っていたよ」


「数百の殺し屋に命を狙われるバットエンドだけどね」


「それでも刑ちゃんは助かるよ。秤がここを出て行けば、喫茶雛鳥には火の粉は降りかからないから、ハッピーエンドだよ」


 フリーの殺し屋は自分の身は自分で守らなければならない。


 ターゲットの家族、友人からの報復も、依頼主からの口封じも自分で解決しなければならない。


 守ってくれる人などいないのだから。


 これがフリーの殺し屋の掟。


 僕がここにいれば何百もの殺し屋が喫茶雛鳥にやってくる。

 僕がこの街にいれば何百もの殺し屋がこの街を火の海に変える。


 三年前のあの日のように。


 刑が僕を殺すその日まで、僕はこの街を離れなければならない。


 刑の命を守るために。


 刑の命を秤にかけるためにも、僕は離れなければならない。

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