表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第1章 波原刑と私
15/153

第14話

「はっ?」と、思わず聞き返してしまう。


「ターゲットの子は昨日、クラスメイト十六人を殺しまくったんだよ」


「そんな……」と呟きながらも、十六人を殺害したならば、五百万の依頼が来るのも頷けた。


 

 けれど、納得できないこともあった。


「十六人の殺害なんてニュース見ませんでしたよ」

 弘前を見張っているときも、新聞やニュースは見ていた。それなのに私が知らないとなると……。

「報道規制されたんですか?」


「うんにゃ。政府の規制どころか、表の世界には知られていないよ……いや、表の世界にもが正しいかなー」


 表の世界―――にも――と、日向子さんは言った。


「表の世界にもって事は、裏の世界にも知られていないってことですね」


「うん。私の耳にも入ってきていないんだから、裏の世界の住人の殆どが知らないはずだよ。緘口令が敷かれているんだろうね」


 日向子さんは仲介屋をやっているだけあって、人脈は広く、有能な子飼いの情報屋もいる。


 そんな日向子さんが知らないとなると、厳重な緘口令なのだろう。


「誰が緘口令を敷いたんですか? 依頼主ですか?」

 もし緘口令を敷いたのが依頼主ならば、裏の世界からの依頼となる。


 私の質問に、「そうだよ」と、軽い感じで答えると、日向子さんは依頼主の名前を挙げた。

「依頼主、姫路叡山が敷いたんだよ」


 

 私は思わず絶句した。姫路叡山と言う名前に……。

 私がババ抜きで引いた札はジョーカーだったようだ。


 欲に目が眩み、私は引いてはいけないカードを引いてしまった。


 姫路叡山。


 この世界に―――裏の世界に―――住んでいれば知らないものがいないほどの、大物の名前だった。


 この県……いや、この地方最大の暴力団のトップ。


 鳳凰會会長、その人の名前だった。


「ほっ、鳳凰會の会長がなんでここなんかに依頼を!」

 思わず、ここなんかと、失礼な事を言ってしまったが、今の私に気にしている余裕などなかった。


「まあ、普通は、うちみたいなフリーの殺し屋を使う仲介屋なんかに、普通は依頼しないよね。鳳凰會傘下の姫路組みには、お抱えの殺し屋集団もあるし、兵隊が欲しければ組織――NEST――に依頼すればいいことだしね」


 それなら何故、ここに依頼するんだ。その事を聞く前に、日向子さんが答えを口にした。


「今回はお抱えの殺し屋も、組織も使えない状態なんだよね。姫路の爺様も私に仲介を依頼してくるなんて、切羽詰っていたんだね」と、言うと、「たはははは」と、無邪気に笑った。


 日向子さんとは裏腹に、私は笑うことなんか出来なかった。


 任侠世界では神と謳われる、姫路叡山からの依頼。


 失敗したならば、私も刑も命はないであろう。


「たははははは。あぁ可笑しい」と言うと、笑いすぎて目に溜まった涙を指で拭い、「でっ、なんでうちに依頼したかと言うと」と、本題に入った。


「応法学園の運営団体が、鳳凰會のフロント企業なんだよね。応法と鳳凰。簡単なアナグラムだよね」


 アナグラムとも言えないくらいの稚拙なものだったが、姫路叡山からの依頼ということで、焦っている私は気づくことが出来なかったので、「なるほど」と、相槌を打ちつつも、なぜ仲介屋十鳥日向子を頼ったのか、更に疑問が深まった。

 自分の組のフロント企業なら、自分で解決するのが、一番手堅く、情報が漏れる必要も無いはずだ。


「それならば、自分の組で解決すべきなんじゃないでしょうか?」


 私は率直に聞いてみた。


「普通の学校で起きた、普通の刃傷沙汰なら組で片付けるだろうね」

 普通の学校じゃ、刃傷沙汰など起きないではないだろうとは思ったが、依頼の理由を知りたい私は、その事をスルーした。


 しかし日向子さんは答えを出さずに、質問を投げかけてきた。


「そもそも、なんで鳳凰會が学校運営なんてしていると思う?」


「それは……お金になるからじゃないですか。進学率を上げて、裏口入学の生徒を多く入れれば、安定した利益を産み出せるんじゃないでしょうか」


「おおぉ」と、日向子さんが声をあげると、響さんもパチパチと拍手を送ってきた。

「さすがエリちゃんだね」


 何が流石なのかはわからないが、当たったのだろうか?


 しかし日向子さんは手を交差し、バツを作ると、「残念」と言った。


 拍手をもらったと言うのに外れたらしい。喜んだ分、ショックも大きかった。


「応法学園は利益を得るためにやっているんじゃなく、安全のためにやっているんだよね」


「安全?」と口にし、それは何の安全為にやっているのか聞こうとしたが、「ここで問題です」と、日向子さんが言ったので、聞くのをストップし、日向子さんの言葉に耳を傾けた。


「この県で大きな組と言ったら、何処があるでしょうか」


 唐突な質問だったが、「えっと」と呟き、指折り数えだす。


「まず、鳳凰會系姫路組が挙げられますし、海側で幅を利かせている首里組も強大ですね。武闘派で有名な音羽會系鶴賀組も規模は大きいです。あとは彦根組……は、以前は大きかったですが、今は幹部連が軒並みいなくなったので、もう大きいとは言えないですね」

 指を三本折ったところで、数えるのを止める。この地方最大の県ではあるが、鳳凰會が強大過ぎる事もあり、大きな組はこのくらいではないだろうか?


 日向子さんも同じ意見なのか、「うんうん」と頷く。


「他に挙げると、大鳥組なんかも、今は手広くやって規模を拡大しているみたいだけれど、そろそろ姫路の爺様が潰しに掛かるだろうから、カウントはしなくていいかな」

 大鳥組は、風俗営業を生業にしている組だということは知っていたが、手広くやっているというのは初耳だった。


「質問に答えましたけれど、それが安全とどう関係するのですか? 首里組や鶴賀組から子供達を守るために、作ったと言うことなのですか?」


「うんにゃ」と、答えると、「応法学園は、鳳凰會、首里組、鶴賀會の三つの組が合同で作った学校なんだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ