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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第9章 波原刑と私
139/153

第139話

「うあぁあっ」

 発狂しそうな程の痛みが襲ってくると、痛みに鼓動するかのように心臓の拍動が強まる。


 苦しい痛い苦しい痛い痛い苦しい苦しい苦しい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


「エリちん?」

 

 痛い痛い痛い痛い。


「あぁぁぁぁあぁぁあぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁあああぁぁあぁっぁぁぁあぁぁぁ!」

 叫び声をあげると視界が真っ白になり意識が遠のいていくのが分かった。


 痛みも消え心地よい浮遊感が体を包み込むと、真っ白い世界から薄暗い世界に変わった。


 ここは……。


 跪く男と女がぼんやりと見えた二人の間には誰かが立っていた。

 その人物の手には二丁の拳銃が握られていて、その銃口は男女のこめかみに当てられていた。


「君の命を秤にかけよう、お嬢さん選んでもらえるかな?」


 その人物は向かいに立つ一人の少女に話しかけた。


 この少女は……刑?


 今よりももっともっと幼い容姿をして刑はパジャマ姿で茶色い熊のぬいぐるみの手を握りながら、内股で硬いフローリングに座り込み、ガクガクと恐怖に震えていた。


「あぁ……あっ……あっ……」

 単語にならない言葉が洩れる。


「お嬢さんはパパとママのどちらに死んでもらいたいかな?」


「…………あぅ……あっ……」

 刑の口からは答えが出ないと、「聞き方が悪かったかな? じゃあどちらに――死んでもらいたい?」とその人物は質問を変えた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 刑の絶叫が部屋に響くと男の体がピックと動いた。


「動くのは良くないな。奥さんを撃ち抜くよ」と、その人物が言うと、男は動きをぴたりと止める。


「――ッ、秤ぃ! 殺すなら俺を殺せ。俺だけを殺せぇッ」と、男の口から怒気の篭った言葉が発せられる。


 秤?


 この銃を持つ人物は秤なのか?


 けれど、薄暗い世界の映像ではその人物の姿形を見る事はできなかった。

 見えるのはこの人物から伸びた腕だけだった。


「……喋っても相手を殺すよ」

 秤は冷め切った声で言葉を紡ぐと刑に向かい、「さあどっちを殺す?」と、聞いた。


 今よりも小さな刑の小さな肩が震える。


「うぁっ……あぁっ…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………めぐを……殺して……」


 刹那の瞬間ドドンと二つの銃声が重なるように部屋に響く。


「うあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁっぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっぁぁぁっぁぁあぁぁあっぁあぁぁ――――――――――――――」

 刑の絶叫を効果音にするかのように、男と女がフローリングに倒れ黒い水溜りを作り出す。

「――――――」


 口を広げ、声にならぬ悲鳴を上げる刑に秤が歩み寄る。

 一歩二歩と歩を進めると足を止めた。


 秤の隣には姿見があった。


 どうしてなのかは分からないが秤は足を止めた。


 どうしてなのかは分からないが秤は視線を姿見に向けた。


 見ないでくれ。


 そう私は願ったが、映像は姿見を映し出した。


 そこには二丁の拳銃――コルトアナコンダとコルトキングコブラ――を握った……私の……歌波エリハの……秤恵美奈姿が映し出されていた。


 鏡の中の私が微笑むと視界がまた真っ白に染まっていった。


 あぁ、そうだった。


 私は僕だったんだ。


 頭の中の全てのパズルのピースが重なり合い絵が映し出された。


 そっか。絵にはエンドの文字が描かれた。


 このエンドの前に着く言葉はバッドなんだろう。


 きっとみんなバッドエンドと言うだろうが、私だけはハッピーエンドだと願っている。


 あの化け物が野に解き放たれるんだ。


 誰もが恐れるあの殺し屋が。


 けれど……今、命が風前の灯のように消えそうな刑は――助かる。


 それは間違いなかった。


 犬山がいくら強かろうが、秤には勝てない。


 良かった。


 刑の無事をエリハは確信し、満足な気持ちを胸に抱き――消えた。

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