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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第9章 波原刑と私
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第134話

 話は平行線だった。

 NESTの人間と私達とでは考え方が交わる事は一生ないんだろう。


「あなた方NESTと命の話をしても無意味のようですね。この話はここで辞めにしましょう」と言い、私は本題に戻すことにした。

「それでこれからどうするんですか? 死ぬことが決ったあなたは……刑と戦いますか?」


「愚問すっよ。うちは鷹弓の十翼、犬山明日葉。一度放った矢は刺さるまで止まらないんすよ。ケイちんを殺して秤の居場所を聞き出し……殺し……組織に抹殺される。これからのスケジュールはこんな感じっすね」


「殺し合いは避けられない……と言うことですか」


「ご名答っすよ。さてここからは応法学園の生徒でありヒメちんの護衛としてではなく……殺し屋、十翼の犬山若菜として――一仕事させて頂くっすよ」

 犬山はぼろきれのようになったブレザーを脱ぎ捨てる。ブレザーは風に吹かれるとふわっとたなびき飛ばされていった。


「さてと」と、言うと捲くった両袖を伸ばしナイフをすっぽりと覆い隠し、左手をカーディガンのポケットに入れた。

「NESTの仕事は三種類あるんすよね。一つは暗殺任務。姿を見せる事無く標的を殺す。二つ目は護衛任務。対象を守る事を最優先し戦う。三つ目は抹殺任務。標的と殺し合い抹殺する。今まではヒメちんを守るために護衛に重きを置いて戦っていたっすけど、ここからは抹殺任務としてやらせていただくっすよ」

 ポケットの中の手が動くと、空気が重くなったように感じた。


 息苦しいような重苦しいような殺気が犬山から発せられた。


 この変化は殺す気になったと言うことだろう。

 刑もそれが分かったのかファイティングナイフを逆手に構え、前に出し戦闘体勢を取る。犬山はそんな刑に左手をポケットに突っ込んだまま右手をだらりとたらし近づいていく。


 ただポケットに手を突っ込んだと言うことはないだろう。

 この状態でポケットに手を入れた理由と言えば私には一つしか考えられなかった。

 

 何かを忍ばせている。

 犬山の武器は右手に握ったフィンガーリングナイフだが、主力の武器にするには殺傷能力は低いだろう。

 そう考えると左手に忍ばせた何かは殺傷能力の高い武器である可能性が高い。


 それでいてポケットに忍ばせることができるもの……。

 私が考えていると、刑と犬山の距離は三メートルを切った。


 すると犬山はゆっくりとポケットから手を抜き出す。袖が長すぎてなにを持っているのかは見えなかった。


 犬山は三メートルからは近づかずにニヤッと笑うとゆっくりと手を刑にむけ上げていく。


 刑も警戒しているようでその手の動きを追っていた。長すぎる袖は未だにその武器の正体を明かしてはくれなかった。


 中身がなんだろうか? 

 ポケットに入る事を考えるとナイフか? 


 私のバレットのような暗器なんだろうか? 


 

 しかし、三メートルの距離を置いて止まったという事はナイフではないのか? 

 考えている間にも犬山の手は上がり、まるで前習いをするかのように両手をまっすぐ伸ばした。


 まっすぐ?


「……ッ! 刑避けて!」

 犬山のポーズの意味に気づき私は叫んだ。


 声に反応し刑は右に飛ぶとバァンと銃声が鳴った。


 間違いない。彼女の手に隠されているのは……デリンジャーだ。


 発砲音の元となった場所――犬山の左手を見る。


 弾丸の威力によりカーディガンには小さな穴が開いていて、そこからは煙が上がっていた。


 ポケットに忍ばすことが出来る暗きで距離を取り対象にむけなければならない武器と考え、私はデリンジャーの存在に気づいた。


 姿はまだ見る事はできなかったが銃声が鳴ったことから間違いはないだろう。


「あちゃー一発目は外れっすかね」

 手をぶんぶん振ると、袖を捲くり手首をまじまじと見た。


 それによって彼女の手に握られた暗器の全貌が見えた。


 握られた銃は掌に収まるほど小さな、上下二連の小型銃でありながら四十口径はありそうだった。

 一見レミントン社のダブルデリンジャーに見えるが、反動を見る限りカスタムしているようだ。


 デリンジャーの欠点としては射程の短さと威力にあるだろう。

 射程を延ばすためには銃身を長くせねばならなくなり、デリンジャーの最大の利点である携帯性が下がってしまう。

 そして威力を挙げるためには口径を大きくし、弾薬も大きくしなければならないが、その反動もより大きくなる。

 

 デリンジャーのように小型の拳銃で威力を挙げようとすれば反動は更に大きくなる。防ぐためには拳銃自体を大きくし反動を減らす方法があるが、それも形態性を捨てることになる。


 しかし、犬山は射程は捨てているようだが、威力を捨てる事無く大口径を維持していた。


 相当な反動が腕を襲っただろう。


 私の見立てでは撃てて後一、二発と言うところだろう。


 しかし、犬山の切り札がデリンジャーだと言う事に私は口径の大きさ以上に別な点で驚いてしまった。小さな拳銃とは言え銃は銃だ。


「応法学園は拳銃の持込は禁止じゃないんですか?」


「禁止っすけど、持ってきたらどうって言う罰則はないはずっすよ。ルールは拳銃を使用したら命で償うっすよ。もう死ぬことが決っているのにルールに従う必用はないっすね」


 確かに犬山の言う通りかもしれないな。

 拳銃を使おうが使うまいが死ぬのは一緒。


 戦力が上がるなら使わないなんて選択肢を選ぶ訳もなかった。


 ……うんっ?

 戦力が上がる?


 ちょっと待てよ、殺しの世界では銃に頼るのはアマチュアの証拠のはずだ。


 それを殺しの世界のトップといっても過言ではないNESTの精鋭中の精鋭、鷹弓の翼が銃を使うものなのか?


 私になら銃を武器にしても効果はあるだろうが、天上人である響さんに手ほどきを受けてきた刑に通じるようには思えなかった。


 が、当の刑は顔を蒼白に染め上げ、犬山のデリンジャーを見つめていた。


「……刑? どうしました?」


「……」

 声を張り刑に呼びかけるが、私を向く事無くデリンジャーを見つめ肩を震わせていた。

 犬山のデリンジャーには私には分からない何かがあるのか?

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