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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第9章 波原刑と私
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第129話

 刑は視線をチラリと私に送るとまた青葉を見据え膝丈のスカートをはためかせながら駆け出した。


 両手を後方に突き出し風の抵抗を減らすかのように一直線に走ると、青葉まで後一歩と言うところで急激な方向転換をした。


 スピードを落とす事無く左に飛び青葉の視界から消え、着地と同時にファイティングナイフを振るった。


 離れて見ていた私からは確認することが出来たが青葉からしたら突然消えたように見えたのだろう。

 目は刑を全く追っていなかった。


「決った」と、私は声をあげたが刑のナイフは空を切った。


 青葉は刑を見る事無くただ半歩後ろに下がっただけでかわした。


 刑の体は重いファイティングナイフの生み出した遠心力に引きづられ左に傾いた。

 そんな刑に青葉は交差させたジャグリングナイフをそのまま首を挟みこむように突き出した。


 刑は素早い動きでダガーを首の隙間に差込ガードするが、金属音の後、力負けした刑は後ろに弾き飛ばされた。


 刑はごろごろと後転しながら体勢を立すとナイフを交差させ余裕を見せる青葉にまた駆け出す。

 また、青葉の直前でカットを切り、視界から消えると、足を封じるためにダガーを青葉の膝に向け振るった。


 ガキーンと金属音が鳴った。


 青葉はまた視線を動かす事無くジャグリングナイフで刑のダガーを受け止めると、上体を廻しジャグリングナイフで突きを放った。


 刑は軽くバックスッテップで避けまた仕切り直そうとした時、青葉は手首のステップを利かしジャグリングナイフを投げた。


 刑の顔が曇るのが分かった。

 後ろに飛んだ刑は足が浮いている状態であり、弾くためのナイフも下げていて、今からガードに間に合うようなタイミングではなかった。


 ナイフは斜め上から刑の腹部を目指し迫ってくる。


「……刑ッ」

 私の叫びと同時に刑は足を延ばし地面に無理やりつま先を着けると、指の力で体を半歩分無理やりずらした。

 これにより致命傷を避ける事はできたが、攻撃を完璧に避けることは叶わずジャグリングナイフは太腿を切り裂き飛んでいった。


 スカートに隠れた太股から鮮血が飛んだ。


「ワンちゃんが言ったとおりいい反射神経だね。今のは間違いなく決まったと思ったんだけどね」と言うと、青葉は膝を着く刑に向かいじゃグリングナイフの切っ先を向けた。「その太腿の出血量を見る限り今までみたいな素早い動きをする事は無理だろうね。まだやるかな?」


 刑は青葉を見上げながら、ダガーを顔の前に構え臨戦態勢をとる。


「そうかい……まだ僕に歯向かう気なんだね――」と、刑は青葉の言葉が言い切る前に、怪我をした足でカタパルトでもついていいるかのように飛び出した。


 伸ばした腕をすり抜け右のファイティングナイフを突きたてようとしたときに刑の体はくの字に折れ曲がり吹き飛んだ。

「まだ話の途中だよ」と、伸ばした足を戻しながら青葉は言った。


 刑が不意をつき飛び出すよりも早く青葉は右のミドルキックを放っていた。

 素早い刑の動きを待ち構えるように伸びた足が脇腹にめり込み、体重の軽い刑を弾き飛ばした。


 刑は飛ばされながらも受身を取りよろよろと立ち上がった。


 痛むのか、わき腹を押さえ少し前のめりになっていた。


 青葉に圧倒されていた。

 攻撃を繰り出しても軽々とかわされ、反撃を繰り出されていた。


 青葉の犬山のように攻撃のときに発されている殺気を読んだのか?


 しかし、それにしては反応が早すぎる気がする。何かが可笑しい。


 何だろう?


 殺気を感じ取り、紙一重で避けるというのは聞いたことがあるが、青葉が避けるタイミングは早すぎるんだ。

 まるで先読みし、刑がどう動くのかを予想しているような動きをしていた。


 私が青葉の動きに疑問を持っていると、青葉は刑に背を向け、キョロキョロと辺りを見回し白石の死体に向かい歩き出した。


 死体の前でしゃがみ込むと背に刺されたバタフライナイフに手を伸ばし、ゆっくりと引き抜いた。


 瞬間白石の背中から血がどくどくと溢れ出した。


「ごめんね。近くに手ごろなナイフがなかったから……借りるよ」


 そう言うと、ナイフに傷がないか確認するかのように空にかざした。

 刑に背を向けているというのに、戦いの最中だというのに、完璧な隙を見せた。


 刑はその隙を逃さずに一歩振込み野球の遠投をするようにダガーを投擲した。

 ダガーはジャグリングナイフ同様に投擲を目的として作られたナイフだ。


 直線の軌道を描き青葉の背中に突き刺さる!

 そう思った時青葉は振り返りもせずに、横にトンと飛んだ。


「えっ?」と、驚く私の声。


「にゃっ」と、同様に犬山も声をあげ、四足歩行の生き物のように飛んだ。

「いきなり避けたら危ないっすよ。うちに当たるとこだったんすよ」


 青葉が突然避けたために、一直線上にいた犬山にダガーが当たるところだったようだ。


「ごめんごめん。次ぎ聴こえたら合図をするよ」


 うん?


 聴こえている……?


 ああそうか。違和感の正体が分かった。

 頭の中のピースがまたどんどん組み合わさっていく。

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