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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第8章 殺人鬼ハイドと探偵
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第121話

「なんすかその朝にやっていそうなヒーローモノのキメ言葉みたいな教えは。エリちん達は正義の味方にでもなった気でいるんすか?」


「……私達は人を殺します……。正義の味方なんかじゃありません。どんな事情があろうと人殺しは悪なんです。けれど、同じ悪でも一括りにされるのは……胸糞悪いですね」


 私はもう裏の世界の人間だ。


 直接手を下していなくても人を殺すことに手を貸している。


 あの人もあの人も私が殺したようなものだ。


 けれど、同じ悪でも彼らの悪を……同じ殺人でも彼らの殺人を許容する事はできない。


「なかなか言うじゃないっすか。胸糞悪いなんて言われたの生まれて初めてっすよ。ああそうか、今みたいな気分を――胸糞悪いっていうんすね。一つ勉強になったすよ」


 犬山はそう言うと、ブレザーとカーディガンを一緒に腕まくりし、リングに人差し指をかけくるくると回しながら私に向ってきた。


「エリちんの話は面白くてもっと聞いていたいんすけど、もう直ぐ七時間目すから、下校時間になっちゃうんすよね。残業は嫌いなんで……そろそろ死んでもらっても良いっすか?」


「いやですって言ったら、生きていてもいいんですか?」

 と、私は犬山を睨み付け言った。


「くはぁっはっは。やっぱり面白いっすね。答えはもちろん――ノーっすよ」


 左手のナイフを横薙ぎに振るう。

 スピードは速いが避けきれないことはなさそうだ。頭を後ろにそらし私は余裕を持って避け、ナイフの射程距離外に下がる。


「おっ、いい反応っすね」

 と、驚いたような顔を見せ、「けど、避けてどうするんすか? 逃げられない、勝つこともできない、運命は決っているのに、何で避けるんすか?」

 と、続けた。


「……」

 私は答えなかった。どうして私は避けたんだろうか? 

 逃げることも勝つこともできない事は分かっているのに、私は無意識に避けてしまった。


「まさかエリちん……まだ自分が死なないとでも思っているんすか?」


 死ぬ? 私が死ぬ?


「まさか昼に言ったエリちんの死ねないって言う持論っすか?」


 私にはまだやらなければならない事がある。

 死ぬべき人間ではあるが、今はまだ死ねない。


 やらなければならない事が私にはまだ残されているんだから。


「エリちん……まだ死ね無いって言うのは面白かったっすけど……エリちんは死ぬんすよ」

 犬山は言い切ると、私の視界から消えた。


「なっ」

 次の瞬間足首に痛みが走り体が宙に浮いた。

 その時犬山の姿が見えた。


 消えたんではなく瞬時にしゃがみ込み水面蹴りを放っていたのか。

 地面に背中から落ちると、犬山が馬乗りになりナイフを首筋に当てた。


「今エリちんが選ばなくちゃならないのは……死に方だけ、うちにこのまま首を掻っ切って殺されるのと、ヒメちんに心臓を突き殺されるのとどっちがいいかだけなんすよ」


 犬山の背後にる姫路叡山がジャグリングナイフを本から取りだした。


 是体絶命の状態だった。


「歌波さんは僕が殺してあげるよ。それにワンちゃんは彼女に聞きたいことがあるんだろう?」


「……あぁそうっすね! いかんいかん、忘れてたっすよ。エリちん……波原刑の電話番号教えてもらっていいっすか?」


「……はぁっ?」


「いや、ホントはアヤちんサヤちんを波原刑が殺しに来たら、その時に顔の確認をしようと思っていたんすけど、エリちんがヒメちんとうちが犯人だーなんて言っちゃったすから、それも出来なくなったじゃないっすか? せめて番号くらいは聞いて、後日会う機会を設けたいんすよね」


 どうして刑と後日合う必要があるというんだ。


「今来てもらって、うちとヒメちんで波原刑と殺りあっても良いっすけど、流石に無傷とは行きそうにないんすよね。下手したらうちらのどちらかが死ぬ可能性もあるっすから、出来れば後日、会社の仲間を呼んで戦いたいんすよねー」


「そんなに強いの? 僕とワンちゃん二人で勝てないような人がいるなんてにわかに信じられないな」


「ヒメちんだって波原刑の噂くらい聞いたことあるんじゃないっすか? 十鳥日向子の秘蔵っ子、秤恵美奈の再来って」


「噂くらいは聞いた事はあるけど、ワンちゃんがそこまで警戒するほどの者なのかな? だって高々フリーの殺し屋だろ? 僕がやられるとは思えないな」


「確かにヒメちんはうちに近い強さはあるっすけど、今回ばっかりは相手が悪いっすよ」


 犬山の刑の評価は高かった。

 けれど、私はそれが不思議でしょうがなかった。


 犬山がどうして……犬山ほどの人物がどうして刑をそんなに評価するんだ?


 元十鳥の翼の教えを受けているだけで、評価に値するということなんだろうか?


 しかし……犬山の答えは私が考えた理由とは大きく外れたものだった。


「相手が――秤愛美奈である以上、もっと戦力集めないと万が一って事もあるっすからね」


 秤が来る?

 どういう事なんだろうか?


 私には理解することが出来なかった。


「来るのは波原刑じゃないの?」


「うちもこれに気づいたときはびっくりしたっすよ。波原刑をアルファベットにするとNAMIHARAKEIなんすけど、これが驚き、並び替えると、HAKARIEMINA、秤恵美奈になるんすよねー」

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