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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第8章 殺人鬼ハイドと探偵
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第111話

「衝動的っすか?」


「はい。動機までは分かりませんが、間違いなく衝動的犯行です。それが犯人のとっさの判断で、足跡も、凶器も消し、水槽に汚れを作ったことにより、犯人が誰か分からない、不可解な殺人事件に変貌したんです。犬山さんはどうすれば血の足跡を付けずに廊下を歩くことが出来ると思いますか?」


 質問すると、腕を組み考え、「靴を二足用意していたとかっすか?」と答えた。


 私が亜弥に言った内容と同じ答えに辿り着いたようだった。


「私も初めはそう考えましたが、事件後凶器や物証を徹底的に探したようなので、二足目の上履きが合ったとは考えられません。もし汚れた上履きを隠し持っていたら、その場で見つかったはずです。そして上履きの血の汚れを拭い落とした、又は洗い落とした可能性も考えてみました。しかしそれも、汚れたタオルや、濡れたハンカチがなかったことからも、まずありえないでしょう。ちなみに洗い流しただけで、乾かさなかった可能性もありますが、事件発生時間が、姫路姉妹の退室後十一時四十三分から十二時五分までと考えた場合、乾かす時間もまずないでしょうね」


「じゃあ犯人はどうやったと言うんすか?」


「手詰まりのように思いますよね。けれど私は亜弥さんのヒントを受け、答えに辿り着くことが出来ました」


 そう答えると、背後から、「私のですか?」と、疑問がかった声で亜弥が言った。


 亜弥も自分が言った言葉の何がヒントになったのか分かっていないようだった。


「亜弥さんの言ったヒントは、幽霊にでもなって足を宙に浮かせない限り、靴底を汚さないのは不可能と言うものでした」


「まさかエリちんは犯人はお化けだったというつもりなんすか?」

 呆れたように犬山が言ってきた。


 朝に話したヘリに乗って犯人はやって来たに匹敵する推理といえるだろう。

 もちろん私が言いたかった事はそんなことではない。


「幽霊と言うわけではありません。犯人が取った血の足跡を付けずに廊下を歩く方法は……自分の血で汚れた上履きと幽霊……死んでもう歩く必要のなくなった、死体の上履きとを履き替えるというものです」

 私が言うと殺人鬼ハイドの眉根がピクッと揺れたのが見えた。

「死体の中で汚れていない上履きと、履いていた血のついた上履きを交換して、何食わぬ顔で廊下を歩いていったんです」


「なるほどね。それなら犯人の足跡が廊下に残っていない説明になるね」


 納得したように青葉が語ると、「でもっすね」と、犬山が私の推理の説明しきれない部分を突いてきた。

「でもっすね、犯人が靴を替えたって証拠はあるんすか? 高校生なんすから、皆がみんな靴に名前を書いているわけじゃないっすし、死んだクラスメイトの上履きなんて、もう処分されているっすよ」


「それが証拠はあるんですよ。犬山さんに見せていただいた映像に。白石さん覚えていますか?映像の中で黒板を見て、犬山さんが言った言葉を?」


「……うん? 黒板なんか映ってたっけ?」

 私の言葉に白石は小首を傾げる。


 あっ、本当に覚えていないな。

 聞く人を間違ったかもしれない。


 私が選択ミスを痛感していると、「愛瀬の名前を呼んでいただろうが、馬鹿」と、鶴賀が叫んだ。


「そうです。犬山さんはあの足跡を見て愛瀬さんの名前を呼びました。何故ですか?」

 今度は犬山に向かい聞いてみる。


「あれはっすね、靴の大きさがショウちんと同じだったからっすよ」


「そうですね。あの教室で死んだ人間の中で愛瀬祥子さんだけが、靴のサイズが二十四センチでしたもんね。犬山さんは一目で靴のサイズから身長まで見抜く技能がありますから、血の足跡を見て、一目で愛瀬さんのものと分かったんでしょうね。初めは私もそう考えていました。けれどこの発言は、可笑しいんです」


「可笑しいっすか?」


「はい。だって愛瀬さんの死体は、入り口から入って直ぐの、主席番号一番の席で、椅子に座って死んでいたんですよ。教室で殺人鬼ハイドと飛び跳ねながら戦っていたはずの、愛瀬さんがどうして自分の席に戻り、後ろから後頭部を刺し殺されたというんですか? 答えは簡単です。殺人鬼ハイドは愛瀬さんを含め十六人を殺した後に、自身の上履きと、愛瀬さんの上履きを取り替えたんです」


 早口になりつつも熱弁し、容疑者六人を見回す。


 私が視線を向けても、鶴賀も亜弥も沙弥も私を見ていなかった。


 三人の視線は殺人鬼ハイドだけを見ていた。


「白石さんの靴のサイズは何センチですか?」


「二十九」


「とても交換する事はで来ませんね」

 次に青葉に聞く。

「青葉さんの靴のサイズは何センチですか?」


「……」

 青葉は答えなかった。


「犬山さんなら分かりますよね?青葉さんの靴のサイズは何センチですか?」


「二十四センチっすね」


「愛瀬さんの靴のサイズも分かりますよね?」


「……二十四センチっすね」


 青葉と愛瀬の靴のサイズは同じだった。

 白石では愛瀬の靴を履くことはできないが、青葉とならば愛瀬と上履きのサイズは一緒。


 交換する事は可能だ。


「丁度ですね。つまり……殺人鬼ハイドは……青葉さん、あなたですね」


「……」

 青葉は答えない変りに、にっと楽しそうに笑った。

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