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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第1章 波原刑と私
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第10話

 運び屋弘前の―――自衛官姿の――写真を受け取り、暗殺条件として、銃を撃っても、撃たせてもいけないと提示された。


「私は初め、警察沙汰にしたくない同業者のものが、弘前と揉めて、日向子さんに依頼をしたのだと思っていました。弘前が運び屋と聞いて素性は調べましたし、元自衛官であり、商品の護衛も努めていると言う所までは調べました。護衛としての腕は優秀らしく、依頼主には手におえず、殺し屋を雇うことにした。私はそう解釈していました」


 響さんは、「初めはか……」と呟くと、「今は?」と、聞いてきた。


「今は、依頼主は防衛省の誰かなんじゃないかと思います」


「それはどうして?」

 合いの手が入る。


「まず、今回の依頼は弘前の顔、ねぐら……商品を置いている場所が分かっていました。そこまで調べがついているのに、自分達で処理することができないでいるのは、一発たりとも銃声を上げさせずに、処理できる確証が無かったからだと思います。日向子さんが抱えている殺し屋でも、五人しかいないのなら、正攻法で攻める表の人間では、まず、いないのではないでしょうか?」


 疑問系で答えたが、響さんから返事は無かった。聞きに徹しているようだ。


「潜伏先は人通りも無い、路地裏ですけれど、決してゴーストタウンと言うわけではないですし、もし、失敗し発砲された場合、音に気づいた住人から警察に連絡が行くと思います。そうすれば警察庁の人間の知るところになります。依頼主はこの事を恐れていたのではないでしょうか」


 響さんは微笑みの表情だった。

 表情の変化が無く、仮説があっているのか間違っているのか分からなかったが、私は話を続けた。


「次に弘前の素性ですが。情報では運び屋と伝えられましたが、正しくは密売人だと思います。運び屋なら、一度ビルの一室に商品を運び入れる必要はありません。けれど弘前のねぐらには、大量のダンボールがありました。つまり商品を運ぶのではなく、商品を売る立場の人間。つまり売人です。それも……銃の。弘前は刑が殺す直前に命乞いをしました。『金が欲しいのか、それとも銃か。やるよ。腐るほどあるんだ』、って。自分を襲ってきた人間が、銃を欲しがっていると思う。つまりは手元に大量の銃が……腐るほどの銃があるということです。あのダンボールの中身は銃なんでしょうね」


 頭の中で部屋の情景を思い出しながら喋る。部屋には一メートル四方はある大きなダンボールが山のように積まれていた。


「弘前が元自衛官の人間で、現在密売人だという仮定と、依頼主が警察庁にばれたくなかったという、仮定を足すと、依頼主の存在と、取り扱っている商品の出所が分かります。取り扱っている銃は、中国から密売されたものでも、ロシアやアメリカから仕入れたものでもない。自衛隊から横流しされたものです。それを表に出す事無く処理したい依頼主……防衛省の人間です」

 やや貯めて依頼主の名を言った。


「もし銃が中国等からの密輸品だったのなら、元自衛官が密輸して、売買していたことが警察庁にばれても大したダメージではありません。もみ消すなり、表に出さないなり、手はいくらでもあります。けれど自衛隊屯所からの横流しとなると、防衛省の威信に係る問題です。世間に報道されなくても、警察庁の人間が知ることになれば、弱みを握られる事となるのは間違いありません」


 仮説を言い切り、「いかがですか」と、訪ねる。


「僕と日向子が想定していた内容と概ね同じだね」

 概ねと言う事は、一致はしていないということだ。


「防衛省は、横流しの銃の存在を、市民にも、警察庁にも知られたくないから、日向子に……裏の世界の人間に依頼した。なぜ日名子なのかな? NESTに依頼しなかったのはどうしてだと思う?」


「それは、失敗したときの処理が容易いからだと思います。NESTの規模では、いくら防衛省といえど、そう易々と手出しはできないでしょう。けれどフリーの殺し屋が一人二人くらいなら、赤子の首を捻るように、簡単に処理することが出来ると考えたのだと思います」


 私の答えに、響さんは首を左右に振った。

「失敗したときだけじゃなく、成功したときでも、処理することが簡単だからだよ」


 帰るまでが暗殺。


 殺して無事に帰ってくるまでが暗殺。


 暗がりで殺すで『暗殺』。暗がりで殺されるでも『暗殺』だ。


 ミイラ取りがミイラになる。


 口封じの恐怖が、また甦ってくる。


「日向子が心配していたよ。エリちゃんが、刑ちゃんのパートナーとして生きていく上で、一番大事な事を忘れたんじゃないかってね」


 一番大事なこと……それは……。


「口封じの為に、エリちゃんが命を狙われたら、エリちゃんはどうやって身を守るんだい? 児戯程度のナイフじゃ、暗殺のプロにも、格闘のプロにもかすり傷一つ付けられないよ。直ぐに消されてしまう。エリちゃんは―――弱いんだよ。」

 私は弱い。

「刑ちゃんと違って、エリちゃんは弱い」


 背後にいた響さんに対抗しようとした行為も間違いだったのだろう。


「……すみませんでした……」


 私は俯きながら搾り出すように声を発する。


 刑と一緒に帰ったなら、命の危機は少なかったのかもしれない。けれど、私は刑と一緒に帰る事はできなかった。


 それならば、自分の身は自分で守らなければならなかった。


「……分かったならいいよ。まぁ今回はいい勉強になったと思って、次回からは気をつけるんだよ」


 響さんの言葉に対して思わず、「次回から?」と、聞き返した。


 まるで今回の危機は去ったような言い草だったからだ。


「そっ、次回から。今回の件は日向子が話を付けると言っていたから、問題はないはずだよ。駅からここまで歩いてきたけれど、追っ手もいないようだしね」


 話に夢中になり気がつかなかったが、石畳の一本道はいつの間にか終っていた。

 今歩いているのは車一台が通るのがやっとの細道だった。


 喫茶雛鳥まで、もう直ぐのところだ。ここはもう日向子さんの縄張りだった。


「響さんは偶然買い物帰りに私に会ったのではなく、私を守るために来てくれたんですね」


「さぁ何の事かな?」と、微笑み答える。


その笑みからは、温かさと、頼もしさを感じた。


「僕はベーコンを買いにスーパーに来て、帰りに偶然、エリちゃんの可愛いお尻を見つけただけの事だよ」


 はぐらかすのが下手だなと言う思いと、セクハラだという思いが同時に浮かんできた。


 二つの思いを秤にかけ、傾いた思いを口に出した。

「……セクハラです」


「あっはっはっ。エリちゃんのTシャツは緩々なのに、性格はキツイね」

 響さんは愉快そうに笑った。ちなみに私の気持は不愉快だった。


 Tシャツが緩々って、胸が小さいからか? 

 胸の事を言っているのか?


 カッコいい台詞が全て台無しだった。


 そこから響さんはセクハラ発言を続けた。


 私は、最低、変態、エロイケメン、女の敵と罵倒し続け、最後に次に会うときは法廷の上だ、と言ったところで、喫茶雛鳥が見えてきた。

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