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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第8章 殺人鬼ハイドと探偵
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第108話

「お黙りなさい。私も沙弥さんも犯人じゃありませんわ!」


「チビガキが言ったことが滅茶苦茶だと言いたいのか? あん? 青葉が生きているのが何よりの証拠だろうが!」


「証拠? 青葉さまが偶然図書室に行った可能性もありますわ。そもそも私どもがやったとどこに証拠があるんですの? おちびさん、私どもを犯人扱いするのならば証拠を出しなさい」


 鶴賀に向かい亜弥は怒鳴ったが、最後は私に向き直り詰め寄った。

 その時私は見てしまった。


 亜弥の頭の影で、犯人の顔が微かに歪んだのを。

 ああやっぱり。

「いつ私がお二人を犯人だと言いましたか?」


「今あなたが言おうとしたじゃありませんか!」


「私の言葉は鶴賀さんに遮られたので、言い切れませんでしたね。私は姫路亜弥、沙弥二人が十六人を殺したと考えるとしっくりくると言いたかったのです」


「しっくりと言うとどういう事ですの?」

 犯人扱いをされた直後の亜弥は、警戒した目をしながら私に聞いてきた。


「教室に最後まで残った姫路姉妹が自分達よりも強い白石さんと、治療要因の青葉さんがいないタイミングで犯行に及んだ。しっくりきますよね? けれど今回の事件は犯人が誰だというだけではなく解決しなければならない三つの謎があります。このしっくりくる姫路姉妹犯人説が真実かどうかは、私の推理を聞いてから判断していただきたいと思います」


 指を三本立て言うと、「三つの謎っすか?」と、犬山が小首を傾げた。


「はい。一つ目は、廊下につかない足跡の謎。二つ目は消えた凶器の謎。三つ目は赤く染められた水槽の謎です」


 犯人が何故十六人も殺したのかと言う謎もあったがこれはまだ解決していないので、あげなかった。

 いや、これはきっと犯人の口から聞かなければ分からないことだろうから、私がどれだけ考えても無駄だ。


 猟奇殺人鬼ハイドの考え方なんか、私には分かることなど出来ない。


 分かり合うことなど出来ないんだ。


「もし良かったら、推理を披露する場所を屋上に変えたいんですが、よろしいですか?」


 ここで発表しても良かったんだが、日向子さんの提案もあったで、場所移動を提案してみる。


「屋上だと? そこがなにか関係あんのかよ?」

 鶴賀は屋上を提案した私の意見に反発した。


 屋上は事件が起きた時に鶴賀と白石がいた場所だし、自分に疑いがかかっていると考えたのかもしれない。


「今言った、三つの謎には直接的な関係はありません」


「だったら行く必用はねえだろッ」


「謎には関係ありませんが、屋上に行けば誰が犯人かは絞ることが出来ますよ」


「……ッ!」

 鶴賀がうろたえたのが分かった。


「青葉さん、亜弥さんと白石さんの怪我なんですが、風の当たる屋上に連れて行っても大丈夫ですか?」


「亜弥さんは大丈夫だけど、白石君の傷で階段を上らせるのはあまりお勧めできないな」


「俺の傷は気にしなくて良いよ。このくらいの傷なら二、三十キロくらいなら、楽々走れるからな」


 いや、傷を負っている負っていない関係なしに、私は二、三十キロも走れませんが……つくづく化け物だな。


「他の皆さんも良いですか?」


 私の質問に、沙弥、亜弥、犬山、青葉の順に答えた。

「私は構いませんわ。亜弥はどうですの?」

「それで犯人が分かるのならば、行きますわ」

「うちは推理を聞けるのならどこまでも行くっすよ」

「僕も行くよ。断わる理由もないからね」


「……」

 鶴賀以外は屋上に行く事を反対はしなかった。


「鶴賀さんはどうしますか?」


「……ああ、分かったよ。行けばいいんだろ」


 これで全員で屋上に行くことが決った。

「それじゃ向いましょうか」


 私を先頭に屋上に向った。


 時刻は四時を回っていた。日の入り前でまだ明るかったが、屋上は少し肌寒かった。


「寒いっすね」と言うと、犬山は捲くった袖を戻し、カーディガンの袖をブランと垂らした。

 鶴賀と白石はブレザーも羽織らず、シャツを袖まくりしたままポケットに手を突っ込んだ。

 寒いのか暑いのか分からない状態だな。


「屋上には初めてきましたわ。景色が綺麗ですわね」


 亜弥はフェンスに近づくと街並みを眺めた。

 私も初めてきたときはこの街並みに心を奪われた。


 女の子は高いところから見る街並みが好きなものだ。

 裏の世界のヤクザの娘として育てられてきた亜弥も、こういう感性は普通の女の子と一緒なんだな。


 さてと、屋上に全員揃った。日向子さんの意図はまだ分からないが、謎解きを始めるとするか。

「それじゃ推理を披露させていただきますね」


「よっ、待ってました」

 犬山だけが楽しそうに手を叩いた。


 他の皆は綺麗な景色から現実に引き戻され、神妙な面持ちをした。


「それじゃあ三つの謎を話したいと思うんですが、その前に一点だけ確認したいことがあるんですが、鶴賀さんよろしいですか?」


「……なんだよ?」


「さっき、私が姫路姉妹が犯人と捉えられる事を言いましたよね。その時鶴賀さんは姫路姉妹に犯人かと詰め寄りましたが、どうしてですか?」


「姫路が犯人だと思ったら、かっとしただけだよ。クラスメイトを殺した犯人が分かったら、誰だって怒るだろうが」

 鶴賀は怒りをあらわにし言った。いや、怒りをあらわにした――振りをしながらか。


「嘘ですね。鶴賀さんは嘘をついています」


「あんっ? 俺が嘘をついているってどういう事だ!」

「だって、鶴賀さんは姫路姉妹が犯人じゃない事を知っているじゃありませんか」


「……ッ!」

 鶴賀の目が見開かれた。


 やっぱり。


 私の推理は正し方ようだ。


 鶴賀は屋上で可笑しな事を言っていた。


 それは、姫路姉妹が無実だと言うことが分かっていたからこそ出た言葉だった。


「今いる場所は三年六組の真上に位置する場所ですが、事件のあった当日物音は聞えなかったのかと私は質問しました。鶴賀さんの答えは、防音もしっかりしている学園で物音はしなかったと。そしてその後姫路姉妹が音楽室にいたと私が言ったら、鶴賀さんはこう言いました。姫路姉妹が音楽室にいたのは、偽装をしたからだと」

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