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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第8章 殺人鬼ハイドと探偵
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第107話

 最初に台詞を喋ったのは鶴賀だった。

「俺が嘘をついてるってどういう事だよ」 椅子から立ち上がろうとする鶴賀を私は手で制止す。


「はい、嘘をついています。皆さんが。私は全員の嘘に気づき、誰が……十六人もの人間を殺した犯人なのか分かりました」


 鶴賀の顔に驚きの色が浮かんだ。

 鶴賀だけじゃなく姫路姉妹にも白石にも青葉と犬山の顔にも浮かんだ。


「……誰だよ。誰が二本松たちを殺したんだよ!」

 日本刀を片手に鶴賀が立ち上がり、手の制止を無視し私に迫ってきた。


「席に戻ってください」

 武器を携帯した鶴賀の圧力は凄かったが、私は怯まなかった。

 今はまだ謎解きの途中だ、犯人の名前を挙げるのはまだ先だ。


「あんだと?」

 引く事無く言い返した私の顔を覗き込み、睨みつけてくる。


 その瞳には焦りの色が見えた。


 ああそうか。彼は犯人の名前を訪ねながらも、本当は聞きたくないのか。


 鶴賀の中にはもう犯人像が浮かんでいるのかもしれない。


「……席に戻ってください。焦らなくても犯人の名前は言います。あなたが望もうが望むまいが犯人が誰なのか私には分かっているんですから」


 焦る瞳を哀れみの目で見つめ返し私は言った。


「……ッ! 気持ち悪ぃ目で見るんじゃねえよ!」

 

 私の目が気持ち悪い? 

 目はチャームポイントだっただけにショックだな……。


「急かされたら謎解きも出来ないっすよ。今は黙って聞くのが、容疑者のマナーっす。そんなに熱くなると犯人だと誤解されちゃうっすよー」

 犬山がミステリードラマを見ているように楽しそうに言うと、鶴賀は彼女を一瞥し、舌打ちすると席に戻った。


 その舌打ちが犬山に向ってやったのか私に向ってやったのかは分からないが。


「さっ、エリちん推理を披露するっす」


「分かりました。けどその前に皆さんに見ていただきあい物があります。犬山さん、事件現場の映像を皆さんに見せてもらっても良いですか?」


「現場の映像っすか? 良いっすよ」と、携帯を取り出し、再生画面を表示した。


 また赤い教室が映し出される。


「見えない人は近づくと良いっすよー」と、教師のような事を言うと、皆を手招きした。


 傷を縫ったばかりの白石も立ち上がると、「どれどれ」と、画面を覗き込んだ。


「結局立ち上がるんじゃねえか」と、鶴賀は悪態をついた。


 確かにな……段取りが悪くてすいません。


「白石さん顔が近いですわ。ただでさえ大きいんですから少し離れてください」


 亜弥の言葉に、「悪い悪い」と、答えると、一歩下がり腕組し画面を覗いた。


「アバズレお前も邪魔だ。離れろや」


「亜弥に暴言を吐くのは許しませんわ」


「うるせぇよ。見えねえもんは見えねえんだからしょうがねえだろ」


「それなら亜弥から離れて画面を覗けばいいんですわよ。あら、もしかして鶴賀様は亜弥のことが好きで離れて見たくないんですの?」


「うるせぇ、黙れ!」


「亜弥は私のものですわ。誰にもやりませんわよ!」


「ちょっ、沙弥さん!」


「それはねえよ。徳人が好きだったのは茜だもんな」


「白石殺すぞ!」

 鶴賀が顔を真っ赤にしながら答えた。あっ、本当なんだ……。


「ちょっみんな、再生するっすから、静かにするっすよ」


 犬山が諌めると、直ぐに再生ボタンを押した。

 映像が動き出すと、全員口を閉じ、画面を見つめた。


 そこから二分強の時間誰も口を開かなかった。私も再度見つめ、自分の推理が正しい確信を得た。


 映像が終ると、皆神妙な面持ちをしていた。

 三年間同じクラスで過ごしたクラスメイトの死体を見たんだ、いくら裏の世界の人間とはいえ、心が痛まないはずない。


 いや、一点だけ間違っていた。

 ただ一人犬山の表情だけはみんなとは違い、何か考えるような表情だった。


「……犬山さん、見せていただきましてありがとうございます。それじゃあ、一度着席してもらっても良いですか?」


 犬山に礼をし、着席を促すと、今度は鶴賀も反論する事無く座った。


「今の映像で分かるように、十六人全員死んでいます。教卓の前で、教室の隅で、着席したまま、仰向けに、うつ伏せに……死んでいます」


「見ればわかんだろうが!」

と、怒鳴る鶴賀。


「回りくどいかもしれないんですが、一つ一つ整理しながら話したいのでご了承ください」と、鶴賀に伝え、話を続けた。

「事件は四時間目に起きました。開始の十一時三十五分から犬山さんが登校して教室に来たと言われる十二時五分までの限られた時間ですね。その短い時間に全員殺すのは至難の技です。死んだ中の三人はNESTの殺し屋ですからね。そこで私は皆さんから話を聞いて情報を照らし合わせ、一つの答えに辿り着きました。その答えに辿り着けたヒントは青葉さんの存在です」


 青葉に一斉に視線が集まった。


「僕が犯人だということ?」


 青葉は眼鏡を押し上げながら強い視線を私に送った。

 自分が犯人扱いされたんだ、視線も強くなるのも頷けるだろう。


「いえ。私は青葉さんが生きているのことが不思議だと言っただけです。皆さんから事件の話を聞き思ったことがあります。亜弥さん沙弥さん、鶴賀さんに白石さん、そして犬山さんは事件の犯人……つまり十六人を殺せる技能があると認めているのに、青葉さんだけは皆さんより技能が落ち、死んだ愛瀬さんよりも弱いとのことでした。つまり容疑者の中で青葉さんだけは教室に残れば間違いなく死んでいて、偶然図書室に行って助かったことになります。けれど……それが偶然じゃないとしたら、犯人に意図的に生き残されていただけだとしたらどうですか?」


「……犯人は青葉を殺したくなかったって言うのか?」


 聞いて来る鶴賀に、「はい」と答えた。


「ただし、それは情があったからと言うわけではありません。犯人はもしもの時の為に青葉さんが必要だったのです。青葉さんの治療技術が」


 そう言った瞬間亜弥の目見開かれた。私の言いたい事を理解したんだろう。


「十六人殺す事は、殺しになれていたとしても難易度の高いものだと言えますし、狭い室内で遮蔽物も多いですから難易度は格段に増しますよね。それにプロの殺し屋もいる中で皆殺しにするんです、犯人は無傷ではいれない可能性も考慮していたのではないでしょうか? 怪我をすれば一番に疑われますから。隠すために治療を受けようとしても、当日の保険医は首里組の者、犯人を庇ってくれるはずがありません。そこで犯人はもしもの時に、自分の指示に従ってくれる青葉さんが教室にいない時に犯行を行なったんのです」


「指示に従うって……」

 鶴賀が亜弥と沙弥を交互に見る。


「はい。青葉さんの上司に当たる鳳凰會會長姫路叡山の直系の孫、姫路亜弥、沙弥二人が十六人を殺した――」


「アバズレぇ! てめぇが殺したのか!」

 言い終える前に鶴賀が口を開いた。

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