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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第8章 殺人鬼ハイドと探偵
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第104話

 教室を回り死体を見て歩く。


 切り殺された死体が七つに、自殺した死体が一つ。一人一人私以上の力を持っていただろうに、みんな死んだ。

 ヤクザの中でも腕利きであっただろう者たちは、夥しい量の血を流しみんな殺された。


 死体から目を離し、教室の様子を見回す。

 机は倒れたものから、その場に残ったものもあった。一昨日の映像と一緒だ。


 違いは死んだ数が半分に変わっただけか。


 見て周ると、亜弥が飛び乗った机の上に血の足跡が残っているのに気づいた。

 指で擦ってみると、もう乾いてしまったのか、液体と言うよりも固体に近く形を変える事無く残った。


 もしかしてと思い犬山が飛び乗った机を探して見ると、そこにも足跡が残っていた。


 高い技量を持つ二人でも、机などの障害物のある狭い教室で殺し合いの最中に、靴を汚さずに戦うのは無理だということが分かった。


 それなら私の仮説は正しいということになる。


 足元を見ながら歩き続けると、私が投げ飛ばされた場所に、プラスチックの破片が落ちていることに気づいた。

 なんだろうと思い拾ってみると、それはボールペンの破片だった。


「あれっ?」

 胸に手を当てる。


 別に投げられた時胸から落ちたから、今でも貧……今は慎ましい胸が、更にちっちゃくなったんじゃないかと心配になった訳ではない。胸に手を伸ばしたのは、胸ポケットに入れたボールペンを確認するためだ。


 ペンを取り出すと一目で分かった。

 真っ二つと言うよりは粉々と言ったほうが正しい有様だった。


「壊しちゃったな」

 守衛に投げられた際折れたような音がしたが、それはボールペンが折れた音だったようだ。

 この有様では盗聴録音する機能も死んでいそうだな。


 確かこのペンは市販で一万二千円だと聞いていた……。

「これは……弁償になるのかな?」


 一万強の出費は大きいなと思いつつ、また辺りを見回す。


「あっ……」

 一つの物体が私の目に止った。

 あれは……守衛の指だ。


 死体をまたがないように進み、手を伸ばす。

 撃ち落された指はもう体温を失い、人体だったというのに無機質な手触りだった。


「うぅ……」

 指を持ち上げるという行為に吐き気を催しながらも、守衛に、「すみません」と頭を下げ、水槽に投げ入れる。


 金魚が異物に反応し慌ただしく泳ぎ回る。


「あれっ?」

 血が乾いている為か、指が二本だけだった為か、水槽の水は微かに赤く濁るだけだけで、映像の水槽とは大違いだった。


 映像の水槽は、もっと赤黒く染まっていたよな……? 

 そもそも切断された指の二、三本で水槽が赤黒く染まるものなのか? 

 いや、無理なんじゃないか。


 二本投げ入れるまでは全く疑問に持たなかったが、いざ試して見ると、あの水槽の汚れが犯人の偽装以外の何者でもないように思えてきた。


 つまり……あの水槽の汚れは……。


「指じゃなかったんだ……」

 日向子さんの言いたかった事はこの事だったのか。


 問題は水槽に浮いた指ではなく、指の入った水槽だったんだ。


 そう考えた途端、パズルのピースが重なり合っていった。


 何のために水槽に指を入れたのか。

 その答えは簡単だった。

 水槽の汚れを誤魔化すために、指を落としたんだ。


 何故水槽が汚れた?


 そんなの簡単だ、犯人はあの水槽で……凶器を洗ったんだ。

 それなら犯人はどうやって濡れた凶器を拭いた?


 ハンカチや服で拭けば水で濡れる。振って払ったか?

 それならある程度の水は落とせるが完璧ではないな。


 それなら……濡れても分からないもので拭いたということになる。

 パズルのピースが揃わなければ考え付かなかっただろう。

 来丸の死体に隠蔽工作が隠されていた事には。


 犯人は来丸のブレザーで凶器の水を拭き、ブレザーを膝の上に置き、死んだ誰かの武器で指を切り落とし、滅多刺しにした。


 濡れたブレザーは顎の傷と体の傷から流れ出した血で汚され隠蔽される。ただ猟奇的に来丸を殺したかったわけではないんだ。


 しかし……何か違和感がする。

 犯人の隠蔽工作がずさんじゃないか?


 私だったらこんな行き当たりばったりじゃなくもっと上手く処理できる気がする。

 凶器だって水飲み場で洗うし、拭くのだって被害者のハンカチを奪いそれを使えば良いのだ。


 誰だってトイレに行くだろうし、ハンカチが濡れていたって気にも留めないだろう。


 それなのになぜ犯人はこんな処理の仕方をしたんだ?


 犯行に手間取って処理をする時間がなかったのか?


 自問自答をすると、不意にパズルのピースが重なった。


「……ッ! 嘘でしょ?」

 頭に浮かんだ犯人像に私は声を出してしまった。


 犬山が言ったとおりだ、犯人は――二人いる。

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