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波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第7章 首里組と教室
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第103話

「……馬鹿野郎」

 無言の静寂を切り裂くように、白石が呟いた。


 死んだ松山に対して。

 躍らせれ死んでいった松山に。

 死ぬ必要のなかった松山に。


 それでも死ななければいけなかった松山に、向って。


「終ったっすね」と、犬山。


「……」

 誰も返事はしなかった。

 もちろん私もだ。


 素直に終わりを喜ぶ事はできなかった。

 食事の最後を脂身で終えたときのような後味の悪さを感じた。


 この松山の死さえも誰かの思惑通りの結末なのだとしたら、ほくそえんでいるやつがいると思うと、反吐が出る。


 最初に口を開いたのは鶴賀だった。

「……来流になるなって俺は言ったよな?」


「ああ」

 白石が珍しく神妙な面持ちをした。


 彼には鶴賀が何を言いたいのか分かったようだった。


「介錯をしなかったのはもういい。お前の考えに反するからな。だがよ、そんなお前が来流になてんじゃねえよ」


「……悪い」


「悪いじゃねえよ。お前の力は……来流は人を殺す事を忘れるんじゃねえぞ」


「……あぁ」


 鶴賀は来流を別な人物のように扱った。

 どういう事なんだろうか?


 その事を聞きたかったが、今の二人の雰囲気では聞きだすことが憚られた。

 けれど、一つだけはっきりした。


 鶴賀が来流は人を殺すと明言し、白石がそれを否定しなかったことだ。

 私の頭の中で来流=殺人鬼ハイドという数式が出来上がりつつあった。


 脳内麻薬が、本当に麻薬と同様のものならば、自制心など軽く吹き飛ぶように思われた。


 彼が殺人鬼ハイドなのか? 


 そう思っていると、犬山が二人の間に割って入った。


「まぁまぁ、いがみ合うのは後にして、まずはアヤちんとシラちんの傷の具合をアオちんに見てもらうのが先っすよ」


 そうだった。

 まずは二人の怪我の治療が必要だ。


 亜弥は脹脛に胸元を裂かれ、腕にはドスを突きたてられた。

 軽症とは言えない。


 白石に関しては死んでも可笑しくないほどの大怪我だ、一刻も早い治療が必要だった。


 しかし当の白石は、「おれも?」と、だらだら血が垂れている腕で自分を指差した。


 どう考えても一番の重傷だ。


「そうだね。とりあえずここで治療するのもあれだから、隣の部屋に移ろうか」と、青葉が提示した。


「俺はこのくらいの傷なら肉喰えば治るぞ」


 肉を食べて治るような怪我には見えない。

 そもそも肉を食べて怪我が治るなら医者は必要ない。


「ダメだよ。腕の怪我はそのまま放置しても二、三時間は死なないけれど、お腹の怪我は即縫合が必要だよ」


「マジか! じゃあ縫ってもらうか。その前に腹減ったから、何か血になる食い物ないか?」


 この状態でも食事を要求するなんて……。


「僕は持ってないけど……亜弥さんたちは何か持っている?」


「いいえ。持ってませんわ」


 亜弥が答えると、沙弥も、「私も持っていませんわ」と、答えた。


「……キャラチェンっすか?」

と、犬山がキョトンとした顔で沙弥に言った。


 そうだった、沙弥が次女の振りをする必要ないと言う事実を知っているのは私だけだった。

 犬山達からすると、急に沙弥が変わったように感じるだろう。


「いいえ。私は何も変っていませんわ。ただ化けの皮が剥がされただけ。それだけの事ですわ」


「化けの皮ってなんすか?」


「あら、それは亜弥の治療をするよりも優先することではありませんわよ」


「気になるっすけど、後のお楽しみにするっすかね。あっ、シラちん茎わかめあるっすけど、食べるっすか?」


 カーディガンのポケットをまさぐり取り出すが、「それはイラねー」と、拒否された。

 まあ、茎わかめは美味しいけど、血にはならなそうだな。


「私どものお弁当も、犬山様が食べてしまったので、何もありませんわね」


 沙弥が答えると、「徳人は何かないか?」と、鶴賀に聞く。

 いがみ合ったばかりだというのに、自然な口調だった。


「持ってねえよ。昼に全部食っただろ」

 鶴賀も自然と返した。


「あのー。私のお弁当の残りでいいなら、ありますよ。ベーコンくらいしか入っていないんですが良いですか?」


「おっ、いいね。昨日からベーコンを無性に食いたくなってたんだよな」


 無性にベーコンを食べたくなる時とはどんな時だろうと思いいつつ、バックのかかった自身の机を探す。


 散乱した机の中でも私の机だけは奇跡的に倒れる事無く同じ場所に残っていた。

 バックを手に取り、血がついていないか見てみる。良かったどこも汚れていなさそうだ。

「えっと、少し手を付けたので、私の食べかけになるんですが、大丈夫ですか?」


「おっサンキュー。俺は落ちた食いもんでも、食べれるから問題ないな」


 少女の食べ残しと、落ちた食べ物を一緒に語るのは失礼だと思いつつも、私はお弁当袋を手渡した。


「さて、そろそろ亜弥の治療に移りませんか?」


「そうだね。もし首里組の生き残りがいるかもしれないから、下手に動くのも危ないし、とりあえず治療するのは隣の学習室で良いかな?」

 青葉の提案に従い、私達は部屋を移ることにした。


 犬山を先頭に隣の学習室に向うが、私だけはどうしても確認したいことがあったので、ちょっと落し物をしたので探してから行きますと、一人教室に残った。

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