表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
波原刑と私の関係  作者: 也麻田麻也
第7章 首里組と教室
102/153

第101話

 射殺す。


 白石を睨みつける松山の目を例えるなら、この言葉しか私の頭には浮かんでこなかった。


 松山は敬愛してやまない首里悠一郎を殺された。

 その敵をとるために指を落とし、この学園に復讐しに来た。


 自分が返り討ちにあい殺されることも覚悟して。

 復讐を果たしても自害し死ぬ事を覚悟してやってきた。


 その死ぬ覚悟をした人間に、白石は殺す気はないと答えた。


 その覚悟を踏み躙った。


 命を懸けてでも首里悠一郎の敵を取りたいという思いを踏み躙った。


「ふざけてねえよ。俺は誰も殺さないし……誰も殺させたくないんだよ」


「……ふざけんな!」

 松山は怒りを露にし、側にあった椅子を蹴り飛ばした。

 日ごろの行いが悪いのか、椅子は私に向かい一直線に私に向ってきた。


「……ッ!」

 顔を手で覆い庇うと、隣の鶴賀が手を伸ばし、椅子を受け止めてくれた。

「ありがとうございます」


「さっきの借りを返しただけだ」

 さっきの借りと言うと私が何をしたかな? 

 

 鶴賀にした事といえば……背中を支えたくらいだが。意外と律儀だな。


「おい坊主。もう良い。お前の底は見えた。殺す気がないんなら、それで良い。俺がお前を殺す」

 また両手をだらんと垂らすと、今度は白石から二メートルほど離れた距離でサイドステップを繰り返し、後ろに回り込む動きを見せた。


 さっきまでの真っ向勝負とは違い、この動きは殺しの動きだ。


「これはシラちんの負けっすね」

 ぼそりと犬山が呟いた。


「どういう事ですか?」


「さっきまでおっちゃんはシラちんが力だけの男だと思って、距離を詰めて、致命的な一撃を放とうとしてたっすけど、今のおっちゃんは最終的に殺すつもりで挑んでいるっす。とうとう赤鬼が目覚めたっすね」


 会話中に松山が動き出した。


 後ろを取ろうとする松山の動きを、白石がすり足で対応していると、不意に右に回りこむ動きから、左にステップした。

 白石も対応しようとするが、それよりも松山の二手目が早かった。


 鞭のように腕をしならせ、首目掛けナイフを走らせる。

 白石も持ち前の反射神経でガードするが、皮膚対ナイフだ。結果はナイフの勝ちだった。


 白石の右腕から鮮血が飛ぶ。


「くっ!」

 痛みが走ったのか顔を歪めながらも、左のフックで追撃する。

 しかし、その追撃すら松山の予想の範囲内だったのだろう。


 後ろに飛び避けながらも拳を斬り付けた。

 二箇所目の出血だった。一撃目は右の肘付近だったが、二撃目は左の手首からだった。


「あぁっ」

 手首から血がどくどくと滴り、出血量に焦ったのか白石は手で圧迫し止血した――戦闘中に。


「坊主を殺したら直ぐに……全員あの世に送ってやりますよ」と言うと、松山は匕首を振るった


「避けろぉ!」

 鶴賀から避けてくれと言う願いがこもった声が飛んだ!


 白石の耳にも届いただろう。

 松山の匕首が腹を割くまでは。

 手首を押さえ足が止まった瞬間、松山は一歩踏み込み、薙ぎ払うかのように匕首を振るった。


 匕首で人間を切断する事はできないが、腹を割き内臓を露出させる事刃出来る。

 即死と行かないだろうが、それでも、立ち上がって戦うことは出来ない。


 床に寝る運命だ。


 今の状態の白石には避けることが出来そうにない、運命を受け入れるしかなかった。


 凶刃が迫り、腹を切り裂き匕首が振り切られた。


 間違いなく振り切られたが、床に寝たのは――松山だった。


 松山は車に跳ねられたように、辛うじて倒れていなかった机と椅子を巻き込みながら教室の端まで飛んでいった。


 刃が迫る時、その瞬間まで間違いなく白石は手首を抑えていた。

 それは間違いなかった。


 けれど、刃が脇腹に触れだす時には、白石は抑えた手を放し、松山の顔に拳を突き立てていた。


 その速度は私の目で捉える事も出来ないほどの速度であった。


 いつ放したのか。

 いつ拳を繰り出したのか。


 私に分かったのは拳が顔面をとらえ、松山が飛ばされたことだけだった。


 白石は右拳を前に突き出し、ワイシャツに赤い線を作りながら固まっていた。


 刃が触れたわき腹からは血が滴っていた。出血量を見ると傷は軽いとは言えないが、致命傷には至っていないようだ。


 けれど、傷以上に眼を引いたことがあった。


 それは白石の目だった。


 数メートル離れたこの位置からでも、白石の目が――瞳孔が開いているのが分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ