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夢見城の怪  作者: イガラシイズモ
3/4

在宅者、有り

次々に起きるアクシデントと共にドリームキャッスルの怪が明らかに……

 目の前には鳩尾から下腹部までを真一文字に切り裂かれ、その穴から大量の血や内臓が飛び出した萌音の遺体がある。ロープのように伸びているのは腸だろうか。みんな口を押さえていてもその場から動けず、放心状態だった。

 その中で冷静に口を開く美子。


「陸君……。 そっちの部屋にずっと居たの……?」

「な、何だよ⁉︎ 俺を疑ってんのか!」


 陸は今にも掴みかかりそうな勢いで声を荒げる。


「だってこの中で誰にも気付かれずにこんなことができるのはあなたしか居ないはずよ?」

「このクソアマぁ……。 証拠すらねぇくせに黙ってりゃあ有る事無い事喋りやがって……」


 陸が問い詰められていても僕は陸が犯人ではないことを知っていた。彼が犯人でない理由としてあげられるのは、彼が返り血を浴びていないところだ。こんな酷い殺し方をして、例え着替えて返り血を隠したとしても、手から顔から血で濡れてしまいすぐにバレるだろう。けど、そうなると一体誰が。その時、頭の中でふとさっきの陸の言葉を思い出した。

『いやぁよ、ここ遊園地だよな。 まるで誰かが住んでるみてぇなんだよな。 生活感があるっつーか』

 誰かが住んでいるみたい、生活感がある。

 まさかな。まさかそんなことってあるわけ…………。


「みんな!」


 僕は握りこぶしを作って震える膝を伸ばした。


「ここから出て、警察を呼ぼう」

「そうね、それがいいわ。 誰が犯人かもすぐに分かることでしょうし」


 陸が美子をきっと睨み付けるが、美子はそれをスルーした。

 萌音のことを放置して玄関まで早足で移動する。早くこの場から出ようとドアノブに手をかけた。が、回らない。右に回しても左に回してもノブがビクともしないのである。


「あ、開かない」

「え? 開かない?」

「うん。 開かないんだ。 ノブ自体がビクともしない」


 そもそもとても古い建物だ。金属のノブぐらい錆びていてもおかしくはない


「ちょっと退け! 俺が今開けてやる!」


 陸が勢いよくドアに当たり何度も打ち破ろうとするも、その努力も空しく結局肩を痛めて終わりだった。


「どうする? こっからは出られそうにねぇぜ」

「どうするって、他に出口探すとか? バールみたいなのあれば簡単に開けられそうだけど……」

「どうだ? 一階にはなんか気になるものとかあったか?」

「何にもなかったわ」

「ええ……。こちらも……」

「そうなると、二階に上がって探索続けるしかないって事だね」

「ああ、そういう事だ」


 二階に上がるために階段を登る。ギシギシと一歩踏み出すごとに軋む床板がさらに恐怖を煽る。

 何とか二階にまで上がったものの、未だ陸の疑いは掛かったままだ。

 グループは先ほどのメンバーと、陸の単独行動に決まった。

 二階の構図はほぼ一階と変わらず、両サイドにドアがあって、奥にもう1つ部屋があった。探索する部屋も変えずに、それぞれ工具や出口のヒント探しを始めた。

 僕たちの部屋は夏場というのにとても涼しく、もう一枚着たいくらいだった。一階の部屋には無かったクローゼットの中身を確認する。特に中には何もなさそうだ。

 部屋の隅にポツリと置かれた机の上を見ると、謎のノートが置いてあった。

 パラパラパラとめくり、内容を確認するにこれは日記である。これでここに誰かが住んでるという予想は明らかになってしまった。


〈6月7日 ようやくいい家が見つかった。きっとこれで趣味に没頭できる時間が来るな〉


 かなりページを飛ばして適当に開いた。


〈7月3日 最近目が見えづらくなってきている。心なしか薬の効き目も落ちているような気がしてならない〉


 そしてもう3ページめくり、僕はギョッとした。そこには赤く血塗られた文字で


〈殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す〉


 ページの端から端までびっちりと殺すの字で埋められていた。


「何それ?」


 後ろから八重が日記をのぞいてきて反射的に日記を隠した。

 見せてしまおうか。この日記を。そうすれば陸の疑いは晴れる。けど、そうなるとみんなどうなるんだろう?由鶴はパニックに陥る事間違いなしだし……。


「もー! 出し惜しみしてないで早く見せてよ!」

「あ!」


 僕の中で答えが出る前に、日記は強制的に取り上げられた


「ちょ……。 これ……」

「ああ、正直、黙っていようか迷ってたんだけど……」

「何で黙ってるの⁉︎ これが、これがあるって事は……。 この家の中に私たち以外に誰かが」


 バンッと勢いよく部屋のドアが開かれ、向こう側から大柄の男が出てきた。背が高くてとても太っていて……なんかすごく臭くて汚い。

 男は壁伝いに部屋に入ってきた。目が見えないからであろう。

 僕は八重の手を取ってゆっくりと部屋の出口まで向かった。

 ギシッ床板が軋む。男が勢いよく振り向き、こっちに向かって歩き始めた。捕まったら萌音の様な悲惨な目に合わせられることは目に見えて分かっていた。

 人外で外道な殺人者に殺されてたまるか。

 ドアの取っ手を勢いよく引き、スタートダッシュを決めた。後ろなど振り返る余裕すらなかったが、床の軋む音でだいたい分かる。奴は追いかけてきている。

 急いで階段を下り、一回の突き当たりの部屋に入ってクローゼットに身を潜めた。


「何なの? アレ⁉︎」


「しぃーっ」僕は唇に人差し指を当てた。

 ドアが開く音が聞こえた。ミシミシと音を立てる床が緊張を増幅させる。

 ドンッドンッドンッドンッ‼︎‼︎‼︎‼︎

 男は急に壁を殴り始めた。音の反響を利用して僕たちのいる場所を特定しようとしているのだろうか。

 奴は数回殴った後、辺りを見回して部屋を出て行く。

 ひとまずホッとはしたものの、しばらくその場から動けずにいた。

 奴が出て行ってすぐ、ロビーから声が聞こえてきた。


「…………くーん! 義明くーん!」


 この声は由鶴だ!止めろ!声を出すな!

 由鶴の元へ向かおうにも膝が震えて立ち上がることができない。


「よしあ…………! キャーッ!」


 ああ……もうダメだな……

 無情ではあるが、彼の事は見捨てる他なかった。

 後は由鶴の悲鳴を聞いて誰かが見にこなければいいのだが。

 悲鳴が止んで数分経った。もう、僕と八重の間には言葉を交わす心の余裕なんて無かった。


 ずる……ずるずる…………。

 何かが引きずられる音が聞こえ、隣の部屋に入って行った。

 此処を出るなら今だ!今しかない!

 膝を震わせながら立ち上がり、八重の手を取ったしかし八重は僕の顔を見て首を横に振った。

 僕は幾分声を抑え、


「どうしたの?」


 僕の問いには答えず、ただ顔を赤くするだけだった。

 ふと下を懐中電灯で照らしてみると、謎の液体で濡れているのが分かる。


「も、もしかして……」

「っっっっっっっっっ‼︎‼︎‼︎」


 八重の顔が更に赤くなる。


「漏らしちゃっったぁ…………」


 八重は涙目で訴えてくる。


「大丈夫? 立てる?」

「うん……。 立てる」

「それじゃあゆっくり歩こうか」


 そっとドアを開けて、左右を確認。 どうやら奴はいない様だ。

 忍び足で歩き、階段をまた登る。

 今まで由鶴の遺体を見つけられなかったことと、さっきの何かが引きずられる音のから、その後どうなったのかは嫌でも知れた。

 二階フロアで陸とばったり出くわした。


「おおっ! 義明! おまえのとこ何かあったか?」

「バカッ! シーッ!」


 流石の陸も空気を読んだ様で、ひそひそ声で話した。


「オイ! どうしたんだ?」

「説明は後でするからこれ読んで」


 僕は陸にさっき拾った日記を手渡した。

 陸がペンライトを口に咥えてパラパラとページをめくる。途中でその口からポロリとペンライトが落ちた。音を立ててはいけないと、僕はそれをキャッチして胸をなでおろす。


「お前本当気をつけろよな!」

「そんなことどうでもいいんだよ! それより

 今はこれだろ! これがあるってことは此処に誰かいるってことになるよな!」

「ああ、そういうことだ。 そしてその今開かれている 『殺す』 で埋め尽くされているページ。 そこから察せられる様に、萌音を殺したのも由鶴を殺したのもこいつ。現に僕と八重はさっき奴の事をを見た」


 八重も頷くが、陸はそれどころではない様だ。


「待て、由鶴が……。 死んだのか……?」

「俺を探して大声出したら……。 悲鳴聞こえなかった?」

「全く。 クッソあのヤロー! 俺の大事なダチと恋人候補を殺しやがって……」


 それでも目に涙などない陸の精神に圧巻される。


「取り敢えずみんな集まろう。 安否確認と何か手掛かりがあったかの情報交換をしようぜ」


今回も読んでいただきありがとうございます

萌音ちゃんに続き、今度は由鶴くんですか。次は一体誰が標的にされるのか?

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