第7話
廊下に集まる事10名・・・
店の営業に支障きたさない人数達は各々不安な面持ちで互いに顔を見合わせ、ぼそぼそ小声で話したり、第一発見者を慰めたり、俯いたりしている。
それなりの幅広い廊下であってもこの人数は狭く感じてしまうため、恐怖の伝染は速く拡がり、状況を説明しますと淡々と話した青年、現場前で佇むガルドへ懐疑的な眼差しが集まっている。
連れが犯した罪を説明できるだと?
そんな罪逃れ的な話をするために私らを集めたの?
この殺人の片棒ついでいるだろう青年が今更何を?
そう言う風辺りの強い眼の面面を浴びる最中、ガルドは皆々の表情を撫でるように眺め沈黙をし続けていた。
一瞬測るような眼差しに何となく気付いたのだろう。
いつまでも始まらない胡散臭そうな青年にざわつく声が自然と収まり皆の注目が一身に集まった所で静かに口開いていく。
「えー皆様に先に申し上げます。連れが部屋を汚してしまいすみませんでした」
深々と頭を下げ謝る青年に皆の表情は困惑色に染まっていった。
えっ、この部屋で殺人事件、もとい殺人犯を養護する??・事件に私達を巻き込んだ事よりもそこに謝るの?!
連れが犯した罪など窓ガラス1枚割った程度以下の感覚なのと疑い始めた面々に平然とした態度でガルドは話を続ける。
「皆様もこんな話は聞いたことはあるはずです」
今にも反論の声が喉から出かかった店員達は自ずとガルドの言葉に反応し飲み込み、白けた目を向け始める。
「夜這い、強姦、誘拐するなら殺られる覚悟持て。加害者殺されても罪はない」
「んん?何処かで聞いたような聞かないよう」
「あっ!それっ、いやいやいや それは・・・」
ガルドの言葉にハッとしたのだろう、正気を疑う素振りを見せつつ脳をフル回転させ始めた男に皆の注目が集まる。
「店長、何か知ってんすか?」
「無駄に筋肉つけてるから~多分知らないんじゃない?」
「あーでもほらこんなかでは長く生きてるから」
「喧しいわお前ら!!」
ゆでダコヘッドになりつつ店員に嗜める店長。
陰鬱な雰囲気が若干薄れ始め場の流れが変わったのを知覚したガルドは落ち着いた表情をそのまま目線だけを全体を見渡す。
「大破壊後の暗黙の法だ」
「そんな法聞いたことないぜ、店長」
「店長の妄想じゃない?ほら、悩みすぎて頭の」
「知らないのも仕方ない、なんせ実際ここ数百年起きた事はないよう闇に葬った案件が多数あったとか眉唾な話ばかりな上、元々"男"を守るための法みたいなもんだしな」
えっ、男をと女性店員であるララを筆頭に聞き間違いでしょ?と詰め寄る店員達。
「大破壊終結後、世界全体の男は8割。圧倒的に損耗したんだよ。まぁ考えれば解る事だがな。無論、あの戦争最前線で生き残った豪運な男も少なくはなかったと言われてる」
「生き残った人類は子孫を残そうと女達、あー誤解すんなよ俺らの先祖的な意味だ」
「要は強い子孫を残そうとしたわけだ、腕っぷしなどの肉体的や頭脳的なのも含めてだがここでの強いってのは・・・」
少し言い含めてから聴衆を見渡す店長はガルドを一瞥すると深いため息溢し、重く口を開いた。
「"運"だ」
「うん?」「幸運??」「なんでそんな抽象的なのを??」
「ああ、運だ。それもとびきり上等な幸運を持ってる男だ。俺も人伝だからハッキリと解らんがPC同士の最前線、銃爆撃の最中、大八車一人で引っ張って何十往復も補給こなした青年がいるとか、大破壊後期の泥沼を生身でPCを強奪し基地を制圧した少年とかそんなヤバイ奴らだな」
「当時そう言う奴らの遺伝子を欲しがる奴は多かったそうだぞ? なんせ大破壊後は劣悪な環境に変えてしまった世界でまともな奴など殆んどいなかった。自分の子孫"だけ"が繁栄すりゃ後々自分が神様扱いに崇められ後の歴史名を残せると、な?」
なんせ人類の復興の礎を築いた始祖的な存在に慣れなら例え"殺してでも"その男達を手に入れると気まずそうに言い終え、紛らわそうと着ているジャケット内ポケットからタバコを取り出し一服しようとする店長。
絶句する店員達を他所に腕組みするガルドは事件現場入口側の壁に背に持たれ掛かると言葉を繋げた。
「折角生き残ったのに殺されるなんて、堪ったものじゃないと傭兵ギルドの前身達は大破壊後も耐えきった世界ネットワークを駆使し、ある法律を浸透させようと躍起になりつつ荒廃した環境適応可になるよう技術を放出したそうですね」
「その年でこの話を知るとは意外と博識だなお前さん、ええっとガルドさんだったけな?」
「ええ店長さん。それが"ネメシス法"だとか。なんでこの名前にしたのかは不明らしいですが、多くの男は助かったそうです。今に進むにつれ、女性も適用となりましてね。あっ適用外だと加害者を殺めた被害者が普通に処罰されますよ」
「じゃ、じゃあお連れの少女さんは・・・」
「はい"いつも"の事ですので」
慣れましたと全身からにじみ出すようなため息を1つはき、深々と頭を垂れるガルド。
「嬢ちゃん、肌が白く女の私でも羨む程綺麗な銀の髪をした綺麗な姿ですものね・・・成長しても相当な美女になるから欲しがる男が多いってわけね」
「はい、久し振りに野郎共だったので荷が軽いですね。気が滅入るのは変わりませんが」
「ガルドさん、本当に苦労してるのですね・・・部屋に案内した時すれ違ったけど、眠そうな顔してても凄く魅力的だったわ・・・女神みたいな美少女、欲しくなりそう(ぼそり」
それなりの美女の呟きを流しつつ、各々理解し始めたギャラリーを一瞥し頭だけ後ろを向き半開きの扉を覗き見るガルド。
死体が床に転がる部屋で今だベッド上で不機嫌に眠るラーミアが、丸くうずくまっている姿を目にした瞬間、心臓を直に撫でられたような寒気がガルドを襲い、滝のような汗が全身から汗が噴き流れる。
「だ、大丈夫ですかガルドさん?!突然汗が噴き出したようですし呼吸も荒そうに」
「大丈夫です、ララさんええ。大丈夫です。部屋から"ゴミ"を出すのは私がやりますので後始末はお願いいたします」
「いや、部屋のクリーニングやら後始末は儂らがやる決まりだぞ法でそうなってるし」
「あれ片付けるのうちらですか店長ぉ?!」
「わかったわかった、そんな吐きそうな顔するなケミダイン村傭兵ギルド支部の儂自らやるから仕事サボるなよ?」
「後始末はお願い致します店長さん、ですがゴミを出すのは私がやらないといけないのです」
「何故だ?起こして事情を」
「殺されますよ?見たところそれなりのプロ、それも大の男3人を周囲に気付かれる事もなく、静かに 迅速に 装備を奪い処理した美少女に」
睡眠中と寝起きが最悪な程に危険なラーミアに自分意外近づけたくないと力強く訴える紅い眼に気圧されたのだろう。
大きく縦に首降る店長を廊下に残し、そそくさと各々が持ち場へと戻っていった
強風吹き荒ぶ高層ビル同士を繋ぐ1本だけかつ横幅20センチ鉄骨。
その上を綱渡りで数百メートル渡るような感覚でガルドは神経を石臼に挽かれるような痛みに災なわれつつ、細心の注意を払いながら慎重に部屋に入っていった。