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東へ  作者: ハンティングキャット
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第5話

取り得ず予定の半分まで

飾り気のない真四角で入り口が一つと裏口が一つ、所謂箱物状に赤茶けた煉瓦で積み上げたような形で造られた建物。


内装は真っ白く綺麗に研磨したであろう岩床は、喧噪で飛び交った酒や料理の汁にナニカの血がこびりつき、いくら磨いても落ちない汚れとなって積み重なったシミがこの店の歴史を物語るかのよう静かに映しだしている。


荒野ばかり続くこの地方では珍しい、木製のテーブルや椅子にジョッキは何度も修理したり廃材を再利用したりとくたびれており、その機能一点においてはまだまだ使える事を示唆している。

その一つである足の長い椅子にギシリと鈍い軋む音を立て、漸く安心して座れることに安堵を浮かべる青年──ガルドの姿がそこにあった。


依頼遂行時も何度も何度もアクセルとブレーキを駆使し、狩場にした地点から一番近くの村にまで40km。

死と隣り合わせの緊張から8時間・・・ようやく解放され愛車を走らせた疲れもあってか、宙ぶらりんとする棒になりかけの己の脚の気楽さに自然と頬が緩む。


店の中はちらほらと胡散臭いものが4割、危険な臭いがするものが2割、うまそうに飯を食うものが1割とカモられそうなものが2割。ぽつりぽつりと各々の思惑に従い動いている。


ここは ケミダイン村 傭兵ギルド


世界多くの国や町や村に“必ず”存在する数少ない 全世界共通組織の1つ。

大破壊により世界とつながる、所謂ネットワークは9割近くが消失。

そのため民間のごく普通の家庭にまで普及していたネットワークは失せ、代わりに復興及び急先鋒で力を付けてきた当時の自治体が無用な混乱を防ぐため情報統制化し、人々は今世界で何が起きているのか、気軽に知る事が出来なくなった。


その為今日に至るまで、これを除けば情報伝達手段と言えば、太古の昔に行われていた伝書鳩(今はガチョウレベルに巨大化した鳩しかいない)か手紙による郵便、短距離による無線通信機くらいしかないが、それでも人々の役には立ち気軽に遠くの者へ連絡できるようになっている。


話は戻り、それから時がたち当時自治体だったものがやがて町や国となり、ある程度の各々の裁量により統制下が緩和、今では大破壊前とは到底言えないがある程度そこに住む人々にも知る事が出来る様になった。

そんな中、何故傭兵ギルドだけが存在できたのか?


それは傭兵ギルドの前身である 名もなき者の為に が各大陸に散らばっていた同士との通信手段を持っていたことに始まる。

大破壊後の混乱の最中、情報を制する者は世界を手にする‥!とその通信手段である機械を強引に摂取する国・欲に眼がくらみ組織員であるにも拘らず手を出したもの・黒棺と呼ばれるメインサーバー本体を探そうとしたものは混乱期の最中あっという間に滅亡してしまった事数十回。


それ以来、“アレ”には手を出すなと暗黙の了解がひかれ、扱うものや情報で取引をするものが多大なる犠牲を負いながらもボーダーラインを把握し今日までによる復興に大いに役立ってもらったに至る。


云わば陰の立役者でもあり、監視者でもあるこの組織にガルドはなんのようがあるのか?


「これを」

店内の客に眼もくれず、ジョッキ一杯に注がれたビールを飲み干したガルドはスキンヘッドの似合う自分と同じ褐色肌を持つ店主のおやじへマグノリア・メシアから貰ったICチップを木製カウンターにそっと置く。

言葉短い説明におやじの紅い眼が僅かに鋭くなり、ふてぶてしい態度をとるガルドを一瞬眺めると…何も言わずカウンター上に置かれた2cm程のICチップの手の平で覆うように被せそのまま手の平に収める。


少し待て‥とガルドの注文のビールを出し終えたおやじは店奥に向かいつつ従業員に二言三言伝え指示終えるとその屈強な身体を細い扉にねじ込ませるように入っていった。



店内に一人残ったガルドは喧噪する店内を他所に腰のポーチから取り出したポータルデバイスを開きコンソールを叩き…そこに映し出された文字に深い溜息を零した。


「今回の報酬が750c、んであの破損状況から悪くて4割減るとして450c」

「んで弾薬やらワームバイト地中地雷などを差し引いて……切り上げてっとマイナス約120c」

今月は赤字かと打ちひしがれるようがっくしカウンターにうつぶせるよう頭を乗せうな垂れていく。

1c一家族半年に匹敵するのにそれが120倍の負債ともなれば落ち込むのも無理がない。


「そりゃ情報料多少ケチったから地雷やECM発生器を少し多めに購入したよ。あいつ、ラーミアの腕を過信しすぎたとしてもあと一割は削れたろ俺」

今日七度目のため息零しビールを飲みながら先にこのギルドの上が宿屋になっていると聞き、早速仮眠をとると先に部屋に入ったラーミアを思い浮かべる。


「思えば“あの悪夢”から半年か……慣れ、‥てきたのかな」

「はいはーい、お水はいかがでしょうか~」

とんっと気前よくガルドの空いた手の側に水入りのガラスコップを置いた少女。

この店の従業員なのだろうか、チェック柄のスカートに半袖のシャツに短めのエプロンつけた10代後半の少女がにっこり偉業スマイルしながら話しかけてくる。


「普通はIkですが、お仕事っぽい帰りですしサービスしておきますよ~?」

「そうか?なら俺の愛車にもサービスしてくんないか‥? あれ、水素電池のハイブリットだけど結構水食うんだよ」

「えーそりゃ店長に行ってくださいよ~」

流石に10L近くも食べそうな車はサービス外ですと言いたそうな顔する褐色肌のウエイターにおどけて見せるガルド。


「そうでもないぜ?ココに仕事の結果報告を卸すんだ、仲介料的なのいくらかギルドで支払れるんだし、儲けも出るんだろ?」

「持ちつ持たれつって言いたいんでしょお客様?でもそれはないわ」

「なぜ?」

「だって私ララの給料に還元されないんですもん!」

ぷぅっとすねた顔も愛嬌があって可愛いらしいと目線に入った男どもがにやつく視線を背中越しで感じながらウエイターが持っているお盆の上にあるある物に眼を向け指をさす。



「これですか?これはですね~ガンヤクですよ」

「あーそれかぁ~‥‥で、味のベースは?」

「魚とジャガイモですね、酒のつまみ以下です」

1cmにもみたないキューブ状の固形物が小山に載った小皿をことりと置き、ニッコリ笑顔を向ける

サービスですよと顔に描く少女にひどくいやそうな顔するガルドはこの日八度目のため息を零した。


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