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東へ  作者: ハンティングキャット
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第4話

ブェレネンダァ・アブフォウル

大破壊開戦前後辺りに製造され、民間にまで普及されていたパーソナルコアの一つ。

全高3m全幅3mの球体状、世界基準のパーソナルコアのコクピットブロックに手足をくっつけただけのPCである。


搭乗式多目的作業用として開発された機体故に、いたってシンプルに造られたタイプであり、パーソナルコアの名をより多く広めるキッカケになったと言われている。


パーソナル


つまり各々個人の裁量で“なんにでもなる”ことを証明し世に知らしめ証明したことから始まる。


手足のアタッチメントの接続部分はどんな些細な事も許さぬほど徹底的に規格統一する事で容易な整備とパーツの供給面の保証。

キャタピラやシャベルを施すことで簡易的なユンボになり、時間はかかるが人力でフォークリフトや輸送車両に換装可能な程のパーツ類が比較的軽量でそこそこ頑丈な事。

専用に作られた現存する土木機械に一歩劣るが、必要数のプロペラと四脚付ける事で簡易的なヘリに潜水ユニットを付ければ潜水艇と‥‥


各々が“望む”形へ変化できると、可能性の塊を世にしらしめ、同時に軍事利用にも使われたパンドラBOX的な発明品でもある


そうなった言われともいえるのがあらゆる存在の核でもあり、心臓でもある操縦席‥‥コア


より高度な新開発に異質な新技術を組み込んでも殆ど障害が起きぬほど軽く、そして異常な頑丈と弾力性に優れ高次元に纏められたコア


通常、どんな機体でも形を変えればそれ専用の操縦席でないと真価を発揮できず不具合を起こすどころか、設計に合致させるまたは変更するのに尋常でない開発資金と時間を要する。


例えば、車のハンドルとサイドレバーなどで飛行機・それも最新鋭戦闘機を操縦してみろと言われれば非常に困難な事が想像できるだろう。

このコアと呼ばれる操縦席は左右一対のコマンドモジュール施した操縦桿とフットペダルでほぼ、PCに基準する物ならモニターやら計器類など細かい変更で操縦が可能となっている。

無論それ相応の訓練は必須になるが教育型CPUや専用補助システムをインストールしていれば普通の人でなら1週間くらいで大方操縦ができるようになる。


通常装甲自体も軽い癖に頑丈に造られており、火砕流に巻き込まれても中のパイロットは軽い脱水症状で済んだとか、海底5km地点で水没し生命維持装置作動させて2週間生存し無事救出、

はてまた宇宙空間に6日漂流し中度の酸素欠乏で命に別状なかったと異様なほどパイロットの生存確率が高い事例が大破壊前から知られていた。


無論、その頑丈な外郭を打ち破られれば忽ち“中が無事で済むわけがなく”必然的にコアを覆うような装甲やパーツが産まれていくのは時間の問題だった。


それが、偏狭な場所にでも難なく普及するほど世界に蔓延していたのも相まり、人類滅亡寸前にまで陥った“大破壊”の引き金に指を掛けることも知らずに・・・・



眼を付けた当時野心国はこれを開発した科学者達を軟禁・技術奪取し、軍事開発に走った。

規格統一した接続ユニットを覆う膜を作る事で、コアそのものを一個の大型コクピットモジュールに作り替えることで敵国に奪取されても自国で開発した軍機を扱えぬよう各々が独自に走ることで次々生み出されていった。

やがて大型の人型機械にコアを埋め込むことでより強力なパーソナルコアが誕生し戦場を一変することになっていく……


人々の幸福やより人類や自然と共存できた未来を願って生み出されたツールがくだらない願いにより歪んだのは皮肉以外言葉がない。


ばらばらにした状態で敵国に潜入し、現地で組み立て奇襲する作戦やら現地のコアを調達及び強奪することで、パイロットの技量と現地へ補給パーツを供給次第で長期間戦闘可能な事例があったくらいPCの可能性が優秀すぎたのもいけなかった。


話は戻り、PCの生みの親である6人の博士のうち最も優秀だった然る博士は良い感じで狂った博士の様で、コアに手足をくっつけたこの機体の事をなぜ“燃えカス”と名付けたのか?


「ああん?んな判り切ったこと言うんじゃねぇ! こいつはミニバンくらいの値段で造れる安さとパーツもそんな強度なくても動かせんだぞ?それこそスクラップ同然でも辛うじて仕事できんだし燃えカスみたいな扱いでも役に立てた、しかもこのくだらない戦争が終わっても動けるような簡略した初期機体だぞ? 整備も簡略化しても充分動かせるようしたせいで、バカみてえに増やすこともできる」


まるでゴブリンみたいな存在じゃねえかとやけ酒呑みながら話していたエピソードが大破壊後サルベージしたあるメモリーに残っていた。

実際大破壊終結後ある程度の文明の復興に大いに貢献した機種であるこの機体をそのように呼ぶのはたいていの人にとっては気が引けるらしく、親しみ込め ゴブリン と呼ばれるようになったのは言うまでもない。


そのゴブリン達がガルド達が沈黙させた中破状態のXM23を、本体は10機 破片や欠損したXM23の腕などは1~2機辺りで運んで戻ってきており、各々がフレースヴェルク級アエロフロート輸送機後部ハッチへ次々運んでいく。


鋼鉄の巨人の亡骸を指揮下に置く鉄の小人たちが船に運んでいく光景を眺めつつ社長と呼ばれたマグノリア・メシアは朗らかに微笑んだ。


「依頼の品を運ぶのを確認するのも社長の役目でしょ?運ぶ前から破損酷いんだから余計心配事になるんだしぃ~」

「そんな口上述べるためにわざわざ、こんな辺境の場所にまで赴くわけないだろう?」

世界で今注目の、躍進的に成長し続ける新企業様なのだからと怒り狂ったような眼つき含め大急ぎでタラップから降りてくる彼女の秘書達に眼を向けるガルド‥‥


「いやぁん~ラーミアちゃん助けて~ 怖いお姉さんたちが襲ってくるのぉ~」

「‥‥拒否」

ぎゅぅっと強く抱擁し頬ずりしてくる残念な美人に後ろから羽交い絞めしてくるコイツに心底いやそうな顔つきで明確に拒絶するラーミア。


大方、相棒に会いたいが為に重要な会議すっぽかし、態々下の社員数名で出来る+重要度と費用対効果が低い低ランク輸送仕事に密航してきたんだろうな


息を切らし肩で呼吸する秘書達がガルド達の目の前にまで迫り一息つく姿に哀愁の眼を向ける中、

今時珍しいスーツ姿をした赤茶色の髪を一束にした女性が静かな声で語り掛けてくる。


「マグノリア社長」

ハープのような美しい声に似つかわしくない怒気を孕んだ声量にマグノリアは楽しそうに微笑む。


いつものこととはいえこの秘書達ほんと苦労してそうだなと憐れんだ目で見つめる二人を他所にICチップを胸元から二つ取り出す彼女は──1つを秘書達へ放り投げ、もう一つを面倒くさそうに交差する腕から滑り抜けたラーミアへ丁寧に手渡す。


「はい、これが収支決算。後で確認してね。秘書達に渡したのは先日の会議の決算やら認可もろもろ♪」

「社長‥キサラ帝国への輸送及び販路許可書の足掛かりに?」

「やーよ、マリちゃん♪そんな安っぽいのでラーミアちゃんを利用するなんて~え~」

にっこりとどす黒い笑顔で自分の秘書に顔を向けると…マリちゃんと呼ばれた女性の表情が怒りから反転、ひきつった顔でその場で立ち尽くし始めた。


眼が泳ぎ滝のように流れ始めた汗を拭う事無く硬直する女性にガルドは隣にいる女性に顔向けることなく、恐れからか自分も身震いしてしまった。


ああそうだった、マグノリアは自分が大切にすることを少しでも穢すと尋常でない報復するんだったっけ?

いつだったか…マリちゃんの後ろにいる、眼鏡かけた秘書4の少女……

孤児で下っぱ組織の使い捨てとして扱われていた彼女のある事に気に入ったマグノリアが、その組織が彼女をパーツとしてしか見ていなく処分まじかだったのを助け、当時町を牛耳っていた組織まるごと自作の中性子爆弾で壊滅させたんだっけ…


一体何の材料をと運んでいた当時の俺をぶん殴りたい‥‥まさかその場で自作するなんて思うはずがないじゃないか! なんだ!──この無駄に行動力ある社長は!?


犯罪の片棒じゃないかと言い返したら「あら?彼らに虐げられまっとうな発展も復興も間々ならぬ状況から解放の手助けしただけですわ♡」と言い返されたときはドン引きもいいところだった・・・


「ああん、ラーミアちゃん!」

「五月蠅い邪魔暑苦しい‥‥大変だな、マリ」

ぐふぅっと精神攻撃を至近距離で喰らった社長はたたら踏みながらよろめき、その隙に抜け出したラーミアが睨まれ続けたマリにねぎらいの言葉を投げかける。


「マグノリア・メシアさま、あ、あの!そろそろ向かわないと…」

ちらちらと後方に眼を向ける秘書4の言葉に続き輸送機に眼を向ける彼女ら。

どうやら茶番をしている合間にXM23事 注文の品を運び、積み込みが完了しつつあるゴブリン達が映る。

と、その後方で脚部の一部が丁度はじけ飛び、破損したゴブリンが前のめりに倒れ込む。


耐用年数超えての酷使か整備不良か品の重量顧みないオーバーワークだろうなとガルドが見極める中、かぱっと球体上のコア上半部が開き中からパイロットが機体から下りた。


そそくさとインカムに手を当て何やら通信。すぐさまゴブリン背部に備えた大型トラクター用の車輪を取り外し、破損した左足脚部の接続部事切り離すとすぐに取り付け作業を開始。


日曜大工感覚で整備する女性社員はものの数分で脚部の換装を終え、機体に乗り込む。

片足が車輪とぶかっこうな姿ながらもゆっくりと立ち上がると心配で駆け付けた仲間のゴブリン達にサポートしてもらいながら輸送機に乗り込む。


「…メシア社長、今通信が入り積み込むが完了しました‥‥‥名残惜しいでしょうが、ラーミア様とここで別れ向かいましょう、次に会う機会もございますし」


今が今生の別れでもありますまいと釘をさす老齢な秘書3に促され渋々ラーミアから離れ秘書達の元へ連行されていく社長


「マグノリア、とりあえずまた会えるんだからさ・・ほら、衛星なんてほとんど機能してないから俺らは傭兵の依頼完了手続きする為近くの村場、紹介してくんないか?」


「仕方ないわねガルド、ほらこの周辺の大まかな地図入りのデバイス貸すわ。いいわね、ラーミアちゃんの安全が」

「礼は言うが姉でも妹でもないお前に指図される言われはない」


ボディを抉る少女の言葉にがっくりうな垂れる社長をしり目に秘書マリから黒くごつい筆箱のようなポータルデバイス(PD)を受け取るガルド


「ケミダインか……そう遠くない場所だな、積み荷の運送よろしくお願いいたしますメシア輸送企業さん」


お任せ下さいとにっこり微笑む秘書達と彼女らに連行される社長たちを見送り、フレースヴェルク輸送機アエロフロートが離陸し飛び去ったのを確認したガルドは既に車に乗り込んでいたラーミアに苦笑いしながら自分も運転席へあゆみ戻っていった

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