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東へ  作者: ハンティングキャット
2/21

第一話

車体から上半身を出す少女はある代物を取り出した。

1m30cmも満たない少女を優に超す全長2m30cm。


装甲車の車幅を優に超しさながら車高から飛び出す長い竿のようにも見えるソレを視界に捉えた巨人──XM23のパイロットは無意識につばを飲み込む音を知覚した。


対空機銃‥‥それも大破壊以前に無数あったと言われる戦艦クラスが備える高威力タイプ。

あの人類史上最終戦争とも呼ばれる“大破壊”が終わってから数百年。

遺跡を除き、現存物がないと言われる代物の一つであり、自分もコピー品や資料くらいしかお目にかかる事はなかった。

再現しようと各国が躍起になるが贋作しか製造できずしかも、贋作はすべて2発撃てばおしゃかになった程出来が悪すぎる上威力は本物よりかなり劣るほど・・・・


折りたためるとはいえ結構長く重い代物故あの車体だと数機も入れるスぺースがない。

つまり贋作もいいところだからこそ、アレは威嚇か偽物だと普段なら悪態付くはずだが……


彼のパイロットは別の答えにいきついていた。


アレは本物だ‥‥そうでなければ我が共和国最新鋭のこの機体を容易く破壊することなどない‥

我が共和国でも漸くレストアされ製造にかぎつけた段階の機銃を──少女はこちらに構えてきた。


まさか‥‥撃つ気、なのか‥‥


ヘルメットバイザー越しからでも判るよう、パイロットの表情は青ざめ、足が鉛のように重くっていくのを知覚した。

先程からの攻撃は彼女による単独と断定するには早計過ぎる。


此方の機動試験区域を把握し用意周到にジャミング弾を壁に埋め込み、外部との連絡および耳と目を塞ぐ手腕。

精確無比な狙撃により揺さぶりを仕掛け、渓谷内でも特に狭い通路に爆薬を仕掛けワザと躱せるように撃ち──ダッキングした硬直時に起爆させ、こちらの背部スラスターを損傷させる策略。


少なくとも複数で仕掛けていることに違いはない、あの銃自体も大の大人が3人がかりで撃たなければ一射事に大怪我は免れないと言われるほど反動が強すぎる代物。


あれは囮だ‥‥本命は別にいる!!


本能がガンガン訴え、緊迫した状況に体温が急上昇し始めたのだろう、パイロットスーツ内が蒸し暑く不快な汗と熱に思考がよどみかけてきたパイロットだったが…もう一つの声に聞き入ってしまい咄嗟に動けずにいた。


敵はあれだけだ、たった一機、しかもあの少女が今まで撃ってきたんだ!


そんな馬鹿な事があるかと、きつく奥歯を噛み締め否定はするのだが・・・

自分の感覚が段々と…時間と隔たりを持ち始め──“ズレ”てきているのを察し始めた。


ほんとうにそうか?本当に否定できるのか? 


我が国が過去、古い世界の技術を残す遺産とも呼べる遺跡からサルベージしてきた技術を製造は無理でも再生できれば・・・可能じゃないのか?


我々、現存する今の世界の技術は数十世代進んでいた古い世界の時代と比べれば石器時代と近代国家レベルの差。 


だからこそ我々は取り戻さねばならない


共和国軍事部に入ってから耳にたこができるほど言い聞かされた訓示をふと思い出し、後者である数多くの前線で培ってきた経験則に従うよう操縦桿を強く握りしめなおす。


指先から鈍い痛みが流れ、ようやくズレが戻った気がしたパイロットは、身を隠そうと上半身を反らしながら後方へ跳躍させようと機体を操作。


もし過程で彼女が撃ったとしよう‥‥彼女はアンドロイドか?

そうでなければあの銃は反動が強く大の大人三人がかりで抑えるのが二人、構えるのが一人必須であり、例え引けたとしても彼女の肩は酷いことになること間違いないのだが──


「まてっ、強化人間!? 現存する人類以外、古い世界の、生き残り──」

んなバカなと白黒させつつ、確かめるためにも飛び道具が現状ないことに歯がゆさがましていく


この機体の正式銃であるアックスライフルを奴らに破壊されなければ、わざわざ近づかなくても確かめられたのに・・・


亜音速に飛来する弾丸すら目で捉え反応出来ると、過去の戦史本で学んだ事を確かめられないが、まだ調べる手はある


モニターに捉えた少女をサーチ…サーモグラフィーから出される熱量は人間と同じ──多少外気温で上がっているとはいえ“10℃以下に”下回っていない体温を発している。

今の世界技術だったら再現することが不可能。


つまり自分と同じならば、絶対にアンドロイドでないと断言でき、同時にもう一つの可能性が高まった最中───再びそれが放たれた


巨人が後ろにたじろぎ後方へ跳び隠れようと動く隙を──少女は何らためらいなく引き金を引いた。

マズルフラッシュを抑えた小規模な光を発した砲口僅か手前の溝から漏れるとほぼ同時──亜音速の弾丸が巨人へ向け突き抜けていった。


反動は凄まじさを物語るよう、装甲車の片側が楽々と天高く上がり自ら横転しかけていた。

運転手は即座に行動起こしたのだろう、装甲車側面の装甲の一部からアンカーが射出され近場の転がった岩や壁に突き刺し車を固定化させ踏ん張り切っていた。


亜音速で飛来する弾丸は──咄嗟に左腕を前へせり出したのだろう・・・

中破していた左腕をラージシールドの代わりにしたXM23はその衝撃と弾丸による爆発で左肩を脱落させ欠損状態に陥り、辛うじてコクピット直撃だけは避けた。


先のダメージで骨格にあたるフレームが逝っており、あと数発受けたら使い物にならなかった事。

腕だけで見れば所々装甲がめくれあげ、中のフレームやらバイパスが外部から見える程中破状態であり、切り捨ても問題ないと反射的に判断し実行。


そのうえで、倒れまいと伸ばした右腕を岩壁に突き刺しふんばりつつ、岩盤を削り取り、抉った直径1mはくだらない手頃な岩を掴み、投擲に移ろうと操作するパイロットの技量の高さが垣間見える。


そんな中───片輪走行になりかけの車体天板から身を乗り出す少女は至極不満そうな顔でぽつりとつぶやいていた。


「外した‥‥」

ドズンっと片輪から平常に戻し、壁や岩に刺したアンカーを外し巻き上げる最中、少女は1mmもバランス崩すこともなく再び機銃を構えなおす。

不満交じりの言葉を漏らした少女は足場にするソファから片足は外し…前部運転座席ソファ──左肩を2度足蹴にする


空爆や爆音など爆発音鳴り響く状況下では例え至近距離で大声を出したとしても全く聞こえない事が多く、予めサインを決めておくことで意思伝達が最小最短で行える。


強めに蹴りつけつつ即時薬莢を手動排出次弾装填へ努める少女。

少女の意図を把握し、2秒かからず複雑な装填手順を終えた相棒に応える為、運転手…灰褐色の肌を持つ青年はハンドルを左にきりつつアクセルペダルを全開にさせる為、踏み込んだ。


左大回り、急発進させた装甲車から投げ出されることはなく、着弾から僅か6秒で立て直し──こちら目掛け小岩を投擲しようと投擲モーションに入る巨人へ銃口を定める


巨人とドブネズミくらいの差があり、事前に調査した記憶で、例え中破レベルでも1m程の岩を剛速球で数百メートル以内なら精確無比に投げれるスペック持つことを知っているのだろう。


身体が強張り、本能があんなもんひとたまりもない今すぐここから逃げろと訴えてくる。

険しい顔をし、今にもハンドルをきりかける青年にゲシゲシと蹴りつつ前進全速を促す少女。


充分に近づいたのだろう、ぎこちない動きで投擲モーションが佳境に差し掛かった巨人目掛け、ハンドルを進行と逆の右へきり急ブレーキを仕掛けた


車体天板から身を乗り出す少女を放り投げださんと言わんばかりに後部座席が天高く跳ね上げ、華奢な身体に急激なGが掛かる中──その澄んだ青い瞳と砲口をただ真直ぐ


ぶれることもなくただ一点…狙いを研ぎ澄ませていた。


うつくしい……

暴れ馬に流されることもましてや放り出されることもない体捌き

動きにそいながれ動く銀の長き髪。

華奢な手と体に似合わぬ鉄の筒を構えつつ、ただまっすぐ‥‥

あらゆる感情を昇華し、刹那に来る瞬間を、過ぎれば二度とこないタイミングを注ぐ姿勢


メインモニターに映る青い瞳を魅入ってしまった刹那の時間


その少女を脳に焼き付かせたのを最後にパイロットの意識は消えていった。


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