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兄と妹

 先代領主様が私の祖父に似ているという話をしたと思うが、その逆もあるらしい。


 私は、アンディさんの従妹とそっくりなのだそうだ。といってもその従妹は五歳で既に亡くなっている。もし生きていたら、が枕詞でつくが、彼曰くそっくりらしい。

 名前もリリーといったそうで、その名前の類似も彼の気持ちを揺さぶるのには丁度良かったようだ。


 リリーは池に落ちて亡くなった。男兄弟しかいなかったアンディさんは二つ下の従妹を溺愛していたそうだ。

 その日も彼はリリーと一緒に居た。大人たちも一緒に池の畔にピクニックに来たのだ。天気の良い日で、最初は二人で遊んでいたが、いつしか眠くなり二人で昼寝をすることにした。この日が楽しみで昨晩良く眠れなかったアンディ少年はぐっすりと眠ってしまった。

 そして、次に目が覚めて見えた光景の中に、リリーの姿は何処にもなかった。

 大人たちは、静かに昼寝する二人を微笑ましそうに眺め、つい大丈夫だろうと少し離れたところで話に花を咲かせていた。だから異変に気付いたのは、彼が悲鳴のように母親を呼ぶ声が聞こえてからだった。

 きっと先に起きたリリーは一人で何処かへ行ってしまったのだろう、そう考えて辺りを捜索し始めた大人たちは、すぐに見つけてしまった。池の縁にある、滑ったような小さな足跡に。


『僕がリリーが起きた気配に気付いていたら、きっとあの子は今も生きていた』


 そんなリリーと似ている私を見つけた彼は、今度こそ兄として私を守りたいのだという。

 君が来てくれて嬉しい、何でも言ってくれ、どんなことでも力になるから。

 腰を痛めた父に代わって執事として勤めだしてまだ年数の浅い彼。補佐がついているとはいえ、自分の事だけでも大変だろうに私の事をよく気にかけてくれた。


『あの人ね、ずっと従妹が死んだのは自分の所為だって思ってるの。だから貴女の役に立って贖罪にしたいのね、きっと。……ごめんなさいね、貴女には何の関係もないのに。でも少しだけあの人の自己満足に付き合ってもらえる? 宿代の代わりとでも思って、ね?』


 そう言ってきたのは彼の愛妻である。

 なので私は、アンディさんの妹役を務めることにしたのだ。



「……アンディ兄さん。大丈夫、何も無かったから。ルカさんたちも居たし、アンディ兄さんだってこうしてすぐに気付いてやってきてくれたのだから」


 妹を守りたかった彼としては、屋敷を出る原因となった騒動も今回の事もひどく辛いことなのだろう。


「大丈夫だよ、アンディ兄さん。貴方はちゃんと、妹を守っているよ」


 とんだ茶番だ。けれどそれに付き合うのを選んだのは自分だ。

 私と出会い、仮の妹とすることで贖罪の代わりとする。それだけなら良かった。けれど、私に何かあった時、また守りきれなかったと情緒を不安定にするようになってしまったのだ。

 私が館を出たのは馬鹿息子が原因ではあるが、離れた所へ行こうと決めたのは、実はこの人の存在も理由であったりする。見えない所に住み、時折幸せそうな手紙が届けば、彼も心穏やかに過ごせるだろうと思ったのだ。あとは愛妻がなんとかしてくれる。

 ……とりあえず、この人を厄介な状態にしやがった馬鹿息子は呪われればいいと思う。


 軽く背を擦り、大丈夫だとなだめれば、彼は数回頷いて、取り乱したシスコン兄から優秀な使用人へと姿を戻した。


「改めて、村の皆様にはお騒がせしたこと、領主様に代わってお詫び申し上げます」

「そういうのは村長に言ってくれ」

「ええ、勿論。ですがまずは、エリーに一番近しい人々へと思って」


 頭を下げ、御礼を言った後、アンディ兄さんは私へと振り返る。その顔はやや険しい。


「ちょっと辛いかもしれないけれど、急いで戻りたい。ウィリアムズの件を聞いて、ティツィアーノ様の血圧が上がって倒れてしまったんだ。早く安心させたいから強行軍になるけれど……」

「構いません。先代様の為ならば」


 殴りたい。あの馬鹿息子、先代様のお身体に障るような真似をしでかしやがって。本当に殴りたい。


「明日、夜明け頃には出立する。用意しておいてくれ」

「分かりました」

「ウィリアムズを連行するのに馬車を使うから、二人乗りで駆ける事になるけども……」

「私は構わないけれど……二人乗りで長距離を駆けるって、馬は大丈夫なんですか?」


 二人乗りと聞いて、ルカさんが若干ソワソワしている。そんな事を気にするんじゃない。ほら見てくださいよルカさん、テレジアが呆れた顔をしていますよ。大人の余裕はどこへ行ったんですか。


「いや、馬じゃない。領主様が地走りの許可をくれて」

「えっ」


 その言葉に私だけでなく、ルカさんとテレジアも目を見張る。

 地走り、というのはジバシリトカゲの事である。二足歩行の恐竜みたいなものだ。おおよそ、ジュラシックパークに出てきそうな奴、と思ってもらえればいい。

 竜の亜種でもあるジバシリトカゲは、貴族でないと飼育が出来ない。性格は温厚だが肉食で、つまりは餌代が高価なために貴族階級でもなければ賄えないのだ。

 彼らは速い。だが乗り手を選ぶ。トカゲたちに気に入って貰えなければ乗せてもらえない。……アンディ兄さんが乗り手だということにまず驚きである。


「私、一緒に乗れるんですかね?」

「エリーならば問題ないと思うよ。ルリちゃんですら懐かせたんだから」

「そうですかね……?」

「大猫も蜘蛛も懐くぐらいだし、大丈夫だと思う。トカゲくらい楽勝だって」

「えっ、そっちのほうが難しいの……?」


 ちなみにルリちゃんというのは領主様の飼っているルリオオワシの事だ。

 ルリちゃんは元気でいるだろうか。戻ったらまた巣に運ばれそうになるのだろうか……。


「そういうわけだからエリー、準備しておくんだよ。これから村長さんの所に行って謝罪してくるから。明日朝、迎えに来るよ」

「分かりました」


 なら、今日は早めに寝て備えるべきだろう。

 部屋を出て行くアンディ兄さんを見送りながら、仕度の算段をする。


「そんなわけで、ちょっと行ってきますね。ルカさん、テレジア」

「ああ、いってらっしゃい」

「気をつけて」


 そんな会話を交わして、二人も送り出す。

 さて、明日はどうなることやら。無事に出立となればよいが、はてさて。

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