第一話 ―1―
リメイクですが、設定とか別物(作者の脳内にあったものがほとんどですが)です。
キャラとかも色々設定が変わったり増えたりしていますがご容赦ください。
では、どうぞ。
「―――ひぃっ、化物!?」
「く、来るな。早く出て行け!!」
それが、俺の両親の最期の言葉になった。
いや、俺と両親が交わした最後の会話、というべきだろうか。
別に両親が死んだわけでも、ましてや俺が死んだわけでもない。単に、親子の縁が切れた。それだけの話だ。
無論、両親に思うところはある。が、それも詮無いこと。
彼らの反応はある意味人間としては当然で、一方的に責め立てることは出来ない。
何故なら、彼らの言葉は比喩でも何でもなく、ただ只管に真実なのだ。
俺を化物と呼んだその声に、何ら偽りも誇張も無い。
そう、俺は化物―――――――妖怪なのだから。
「こら起きろ、愚か者めが」
「痛った!?」
果てしなく理不尽な痛みが頭部を突き抜ける。
若干涙目になりながら恐る恐る目を開けてみると、そこには見慣れた教室の風景があった。薄暗い室内と、雑然と並べられた机の数々。
いつもと同じ光景、変わってしまった俺の、今の学び舎だ。
先の痛みといい、ぼんやりする意識といい、どうやら俺は授業中に居眠りをしていたらしい。
そういえば、つまらない夢を見ていた気もする。今となってはどうしようもない、くだらない内容の夢を。
「良く眠れたか、春園 鏡?」
「え?」
頭上から降ってくる声に反射的に上を見上げると、握り拳を掲げ形容し難い表情で俺を見下ろす鬼が居た。
鬼、その名を七宮 剣という。
艶やかな長く美しい黒髪に、切れ長の翡翠色の瞳を持つ絶世の和風美人――――――の皮を被った正真正銘の鬼である。
鬼の特徴とも言える角はまだ目にした事は無いが、鬼のように強く、鬼のように冷酷で、鬼のように容赦がない。これを鬼といわずして何とする。
とまあ、そんな冗談は置いておいても、確かに種族としての鬼と性格上の鬼。その二つの鬼を併せ持つ本物の鬼である。
で、この場合問題になるのは性格上の鬼なわけで。
何せ、七宮はこの学び舎の講師。俺は今まで居眠りをしていた。その俺を起こしたのは七宮。
つまりは、そういうことだ。
「あー・・・・・・お早うございます?」
「ああ、お早う。そして―――御休み」
「っのわ!?」
顔面目掛けて繰り出される鬼の拳を、寸での所で両手で受け止める。
風切り音を発するその拳は重く、受け止めた両手は痺れや痛みを通り越して感覚がない。
これ、顔面にもろに喰らってたら福笑い状態になってたかもしれない。
や、冗談ではなく本気で。全く笑い話とかではなく。
っていうか
「何しやがるっ!?」
「体罰だが?」
「いや、そんな然も当然だろ?っみたいな顔をされても!?」
「体罰上等!!」
「だから何だっ!!」
「そもそも、貴様が私の講義中に寝ているからだろうが」
「ぐ、ここに来て正論を・・・・・・じゃないから。いくら何でもアレは死ぬって。いや本気で」
「知らんわ。私に逆らう者は死ね」
「何という横暴!?」
「ええいっ、生きているんだからぐだぐだ抜かすな。戯けが」
寧ろ生きているから色々言ってるんですがね?
・・・なんて言った日には本気で殺されるだろう。それも多分、瞬殺で。きっと、一片の肉片すら残さずに。
冗談を言うのも命がけなんて、本当に洒落になっていない。
「・・・・・・はぁ。まあいい・・・・・・では試しにココの説明をしてみろ」
そう言うと、七宮は机の上の資料のある一部分を指し示す。
というか、俺のツッコミは無視かい。溜息吐きたいのはこっちだよっ。
などと言う訳にもいかず、俺は渋々七宮の指先を目で追った。
「っ・・・あー・・・えーと、それは――――――」
説明自体は何も難しいことは無い。
別に勉強が好きだとか、そういう特異な性質を持っている訳ではないが、俺は自分が妖怪に成ってしまうという事態に対して、無頓着無関心を貫けるほど面の皮が厚くなければ肝も据わっていない。
要するに、渡された資料には一応粗方目を通しているのである。
「チッ、正解だ。何だ、予習でもして来たのか?睡眠学習か?この畜生が」
「え、いや俺何で今罵られたの」
「まあいい。次からは気をつけろよ」
そう言って、足早に黒板へ向かう七宮。
何もかも納得いかないが、ここで食って掛かっても仕方ない。
余計な事を言ってむざむざ殺されるのはご免だ。
「・・・・・・やれやれ、酷い目にあった」
「何言ってるの、自業自得でしょ」
七宮に聞こえないよう小声で一人ごちると、それに返る声があった。
「や、そりゃそうなんだけど・・・ってか起こしてくれても良かったんじゃないか、真雪」
「嫌よ。とばっちりはごめんだもの」
白河真雪。
ツーサイドアップにした白髪に、白と藍を基調とした着物に身を包んだ若干童顔の美少女。
雪国に伝わる伝統的且つ有名な妖怪の一つ――――――雪女である。
「バッサリっすね。流石雪女、くーるだな」
「ねえ、何か今ニュアンス可笑しくなかった?」
「別に?」
嘘偽り無い、俺の真雪に対するイメージを的確に表現しただけなのだが、何か?
「・・・・・・・・・ふーん、ならいいけど」
胡乱げに俺を流し見る真雪の視線は、まだ自分は納得していないぞと語っていたが、それ以上追求してこなかった。
そういう所が"くーる"なんだと思うのだが、それを言ったら最後、確実に氷漬けにされる。
この仏頂面がデフォルトの白髪美少女は、あまり冗談が通じない所があるのだ。
「ったくよー、いいよなぁ。七ちゃんとのスキンシップ。羨ましすぎるぜ」
真雪との会話もそこそこに七宮の講義を聞き流していると、右隣から暢気な声。
俺は、意外と綺麗な文字が綴られる黒板に目を向けたまま、呆れ気味に返答する。
「馬鹿か。あんなの羨ましがるのはお前だけだ。ホント、変態だな」
「・・・・・・銀司、マゾ?」
露骨に嫌悪を表情に浮かべる真雪。
その視線の先にいるのは、犬耳を頭に生やした男。
名は銀司。通称、駄犬。
その正体は、吸血鬼に並ぶ西洋の有名モンスター、狼男。より細かく言えば"人狼"である。
「違うわっ!?」
「「え、違うの?」」
「二人揃ってなんだその意外そうな顔!?え、マジで俺そんなイメージ?」
この銀司については、あまり語るべきことは無い。
強いて言えば、弄りやすい愛すべき阿呆といった所か。いい意味で。
「だってお前、七宮とああやって触れ合いたいんだろ?」
「ああ」
即答だった。
その答えを聞いて、真雪などは顰め面でドン引きしている。
まあ、うん。気持ちはわかる。
あの鬼、七宮の体罰を進んで受けたがるなど気が触れているしか思えない。
「痛いじゃ済まないぞ」
っというか、普通に死ねる。
「望むところ。いや、むしろご褒美です!」
「野垂れ死ね」
「ちょ、聞こえてるんスけど真雪ちゃん!?」
「自重死ね――――――あ、間違った。いや、でも合ってるか」
「鏡お前っ、何混ぜちゃってんの!?っつか間違ってるから!?いや間違っていると思わせてくださいお願いします!!!」
「そこ、五月蝿いぞ」
銀司の力の篭った台詞と被さる様に、七宮の声が響く。そして、僅かな殺気。
が、その殺気は俺や真雪に向けられたものではない。
だとすれば、対象は限られている。
「はべらっ!?」
突如、謎の雄叫びをあげ椅子ごと後ろに倒れる銀司。
徐に覗き込んでみると、銀司は妙に幸せそうな顔をしながら気絶していた。
その額は赤く腫れ上がっており、それが銀司を気絶させた原因なのは明らかだった。
「おお、凄いな。チョーク投げとか初めて見た」
「綺麗な音したわね。具体的に言うと、チョークが当たっただけとは思えないくらい高い音が鳴り響いたわね」
「ああ、何せチョーク砕け散ったからな」
額の傷の具合を見るに、それがどれ程の威力だったかと考えるだけで恐ろしい。
人間なら死んでるかもな、アレ。
「おーい、生きてるかー」
まあ、何だかんだで銀司は俺の友人だ。
流石にこのまま放置という訳にはいかないし、休憩所に連れて行くぐらいの事はしてやらねばなるまい。それに、あわゆくば講義を抜け出す口実にもなるし。
と、そう思ったのも束の間。
「ふ、ふふ。我が人生に一生の悔い・・・なし・・・・・・っ」
仰向けに倒れたまま、天井に向け伸ばした手をグッと握り締める銀司。
あ、やっぱやめた。
つか意識あったんかい。心配して損した。
馬鹿は死ななきゃ直らないというが、多分コイツは死んでも絶対直らない。寧ろ悪化しそうだ。
「チッ、まだ意識があったか。そら、止めだ」
「へヴんっ!?」
鬼の投擲再び。
白き弾丸は空中で角度を変え銀司に直撃し、今度こそ意識を刈り取った。
「正に鬼の所業、ね」
「ま、擁護する気にはならんがな」
変態はほどほどに。
何でもかんでも全力で望めばいいってもんじゃないのである。
当たって砕けてばかりでは意味が無い。
とまあ、そんなこんなで気絶した銀司を置き去りにしたまま、学び舎での時間はあっという間に過ぎていったのだった。
とりあえず、次の更新は未定です。下手したら半年空くかも・・・。
以前書いたものは見切り発車でとりあえず何か完結させよう、としか考えていなかったので、出来はもう・・・ね。
だから、って訳じゃないですが、ちゃんとしたものを新たに書いてみたいなと思いまして、この作品を書くことにしました。
まあ、長々と書いても仕方ないのでこの辺で。ある程度の世界設定とかは後で投稿します。
では、また次回。