表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠片の話  作者: 空色
1/8

ある運び屋コンビの話






「……は!?」


見慣れた柔和な丸顔が、颯太の目の前で突然歪んだ。

あまりの豹変振りに唖然としていると、何かがものすごい速さで自分の顔すれすれを通り過ぎた。

直後に響いた破壊音に、半ば拒否をする己の首を何とか動かして横を見る。

崩れた壁が、パラパラと破片になって床に零れた。

血の気が下がり、自分の顔が真っ青になっているだろうことが分かる。

引き攣った笑みを浮かべると、颯太はくるりと方向転換し、脱兎のごとく逃げ出した。

彼が転がるように建物を飛び出した直後、轟音をたててビルが崩れる。

土煙の中から、丸い影が自分に向かってくるのを確認し、颯太は全力疾走した。


(いやいやいや、ないないない、これはない。マジないって)


本来なら、あの丸顔に似合うのは、明るく元気な曲だろう。

だが、自分の脳裏に響くのは、彼の有名なサメ映画のBGMだった。

迫り来る恐怖に、冷や汗が吹き出る。

かつて運動会ですらしたことの無い、本気の走りを続ける颯太の横を、一台のワゴン車が物凄いスピードで走りぬけた。

そして、映画並みのドリフトを決めて停止すると、助手席のドアが開かれる。


「ソウタ!」

「先輩!」


颯太が走っていた勢いのままで滑り込むと、ワゴン車は唸りを上げて急発進する。


「だ! 痛った、痛った! 顔面打った」

「ふざけてないで、あれ、ついて来てないか確認して」


強打した鼻を押さえて転げまわる颯太だったが、投げかけられた冷たい言葉に両方の意味で涙目になる。

押さえる手はそのままに後ろを振り返ると、後ろの方にマントをなびかせたあいつが車を追ってきていた。


「うわ、追ってきてるよ。つーか、何なんだよ、あのダークネス・ア○パンマンは」

「アン○ンマンってなに」


背筋を這う寒気に体を震わせ、思わず呟いた颯太に、アルスが問いかけてきた。


「いやー、俺の世界の有名人っていうか……」


人ではなく、正確にはパンなのかもしれないが、老若男女殆どの人が彼を知っているだろう。


「愛と勇気が友達で、腹を減らした子供には自分の顔を分け与える、自己犠牲のヒーローっすかね」

「そのヒーローが何で僕らを追ってくるの」

「いや、それは俺の方が知りたいですって!」


話を続けている間にも、凶悪面のパン男は少しずつ車に近づいていた。

バックミラーでそれをちらりと確認したアルスは、深く溜め息をつく。


「とにかく、一度本部に戻るから。あんな物騒なの連れて、お客様に届け物なんてできないし」

「いや、そもそもこのままじゃ本部にだって帰れないですよね」

「はぁ? 適当に撒くに決まってるだろ」

「でも、相手は飛べるんだし、こっちが不利ですよ?」


思わず振り返ると、いつも通りの冷たい視線が飛んでくる。

日常を感じて、何故か安堵してしまった自分は、決してマゾではないと声を大にして主張したい!

だって、滅茶苦茶な中で通常通りのものがあったら、安心するじゃん、俺は間違ってない!はずだ。

己の中の疑惑に、首を振って否定していると、隣から盛大な溜め息が聞こえた。


「シートベルト」

「はい!」

「舌噛みたくなければ、口閉じて黙ってなよ」

「は……うお!?」


颯太が条件反射で姿勢を正し、シートベルトを締めた途端、アルスは急ハンドルをきって裏道に突っ込んだ。

ゴミ箱を倒した気がしたが、正直それを目で追う余裕はない。

人一人すれ違う隙間も無いような道を、ワゴン車が猛スピードで駆け抜けていく。


「は……ははは、随分過激なドライビングテクっすね」


普段、ハンドルを握るのが自分で良かった。

引き攣った笑みのまま、すごい勢いで流れていく壁を眺めていると、隣から小さく笑い声が聞こえてきた。


「アンまんだか、肉まんだか知らないけど、ほんとふざけてるよ」

「せ……先輩? あの、アルスさん?」


本人は不本意らしいが、中性的で綺麗だと良く言われる顔が、凶悪な笑みを浮かべている。

何故かデジャヴュを感じて、颯太の背に汗が伝った。


「ぜってー、後悔させる」

(あ、俺の人生オワタ)


助手席に深く背を預け、颯太は遠い目で天を仰いだ。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ