零話-最後の記憶
初の書き物となります。
何分未熟ですので文章やストーリーにおかしな部分があるかもしれませんが、読んでくださる方を楽しませられるように頑張りますのでどうぞ宜しくお願いいたします。
少し乾いた肌寒い風が肩まで伸ばした私の髪を持ち上げる。秋に入ったばかりだというのに辺りは色とりどりの葉っぱが木々包んでいてとても綺麗だ。そんな町外れの景色の中で小さな川にかかる林檎のような赤色の橋の上で私は少し休憩していた。いつもならすぐに帰ってしまうのだけど、夕日に照らされた川が綺麗でつい見惚れてしまったのだ。携帯電話で写真でも撮っておこうか。
「綺麗だねー風太郎」
私はそう問いかけたが隣に座っているクリーム色のゴールデンレトリバーは無言を返してきた。ずっと川の方を向いているから夕日が気に入ったのかもしれない。私は普段風太郎の散歩に行くことはほとんどない。近所に住んでいる幼馴染が毎日のように連れていってくれるのだ。決して私が強制しているわけではないのでそこだけは理解して欲しい。
「ワウ」
軽く吠えた風太郎に視線を向けると私が来た道と反対側、要するに町外れの方向を向いていた。一向にこちらを向かない彼は、気付けば歯を剥き出しにしていた。なんだろうと疑問に思った私が顔を上げてすぐに目に入ったのは黒いロングコートと黒いニット帽、そして顔を隠すサングラスやマフラーを身に付けた真っ黒な人だった。夏が終わりを迎え肌寒くなってきたとはいえさすがに厚着すぎる、というかそんなことを通り越して怪しすぎる。これでは風太郎が視線を外さないのも納得だ。だけどお父さんとお母さんも言っていた。人を見た目で判断しちゃいけないと。しかし私の思いもなんのその、黒装束の人は酔っ払っているかのようなふらふらした足取りでこちらへ近づいてきた。
「種族、性別と…件クリア…干渉魂…分無し…」
おまけに何か呟いている。風が吹いていることもあって所々聞き取れないが女性の声だということだけはわかった。それと同時に嫌なことを思い出してしまった。私が家を出る直前に母が言っていたことだ。
『最近隣の市で不審者がでてるらしいから早く帰ってくるのよ』
しかもこの不審者、昼にニュースにも出ていた。被害者は4名でいずれも正面から胸をアイスピックのような鋭利なもので一突き、全員死亡している。そう、俗に言われる通り魔と呼ばれる不審者だ。もしかしてまずいかも、そう思ってリードを引いたときには黒装束が腰を落として地面を蹴っていた。先程のふらふらとした足取りとはうって変わって、ものすごい勢いで真っ直ぐこちらに向かってくる。恐怖なのか不安なのか、手足がえらく冷たく感じられたうえ、竦んで動けない。風太郎はいつの間にか立ち上がって姿勢を低くしていた。そして風太郎が飛び上がると同時に黒装束は私の目の前に、そして胸に痛みを感じていた。視線を下げる目に入ったのが左胸に突き刺さっている柄の付いている細い鉄の棒、ニュースでも言われていた揉錐のようなものだった。
「あなたに恨みはないけど許して頂戴」
密着している黒装束が耳元で呟いたその言葉の意味を理解することはできず仰向けに倒れる私。目の前では黒装束が風太郎に押し倒されていた。そんな状況を横目にもしかして死ぬのかな、と考えたが涙も出てこなかった。いつものように電話をすればきっと彼が、幼馴染が助けに来てくれると思ったからだ。遠のく意識の中、紅く染まり出した上着のポケットから携帯電話を取り出し電話帳を開く。選択した電話番号の名前は野上玲人。あと一度決定ボタンを押せばかかる電話。しかし急に力が抜けてしまい、携帯電話が手から逃げる。すぐ脇にあるのに手が届かない。このとき、本当に死というものを悟った。寒く、恐い、涙が止まらない。
「助けて…玲人…!」
その言葉を最後に私の意識は途切れ、風太郎の吠える声が当たり一帯にこだましたのだった。
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