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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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その他短編

ぬくもり

掲載日:2026/07/07

あれ、ぼくってなんのために生きてるんだっけ。

ふと、そんなことを思う。


「え〜っと、おれのため!」

そう言ってぼくの隣を歩くゆうは、ぼくの彼氏だ。


「ごめん、何の話してたっけ」

「そらが言ったんじゃん。なんのために生きてるんだろう、って」

ちなみにおれはそらのため〜!というゆう。


「ありがと、ゆう」

ぼくがそう言った途端に上機嫌になったゆうを横目に、ぼくは考える。

自分は一体、何がしたいんだろう、と。


高校に行って、遊び歩いて、挙げ句の果てには彼氏まで作った。

そのくせ、勉強をするわけでもない。

もう今のぼくは、希望も夢もすっかり失っていた。

……ついでに、生への執着も。


銀砂病。

身体が銀の砂に蝕まれて、最後には皮膚が破裂する病気。

その砂は、少量でも高く売れるらしい。


そのおかげか、両親はぼくの散財を見て見ぬふりをしていた。

家族以外は知らない、ぼくの病気。

限界を迎える前に、友達とも、ゆうともさよならをしようと思った。


そんなことを思いながら、電車に乗り込む。

瞬間、ゆうに手を取られる。


「…いい?」

ぼくが返事をする前に、ゆうが手をつないだ。

その手を、軽く握り返す。


ぼくより少しあたたかいゆうの体温が、手に流れ込む。

満員には程遠い、がら空きな電車。

席のほとんどが空いている。


それでも、ぼく達は立っていた。

ひっそりと、手をつなぎながら。


「そういえば、どこ行ってるの?」

そう、聞かれる。

「内緒って言ったでしょ。ついてからのお楽しみ」


そう言っているうちに、出発してから7つ目の駅に止まる。

人が少し増える。

ドアが閉まるころには、席のほとんどが埋まっていた。


「次で降りるよ」

ぼくの耳元に吐息がかかる。

わかった、と小声で言うゆうは、ぼくの耳に口元を寄せるためか少しだけかがんでいて。

それが少し、面白かった。


笑いそうになるのを必死に抑えて、電車が止まるのを待つ。

すいか、かもめ、めだか……かりんとう!


そんなふうに、ひとりしりとりをしていたそのとき、手を引かれた。

相手はもちろん、ゆう。


気づいたらもう、ドアは開いていて。

人だらけな電車から、抜け出していた。


「これからどこ行くの?体調悪いなら、行かなくても……」

心配させてしまっている。

そんなこと、思わせたくないのに。


「大丈夫だよ。行こう、ゆう」

ゆうは頷いて、手をつないだまま、ぼくの半歩後ろについて歩いた。

少しだけ重くなった空気をどうにかしようと、ゆうが話しかけてくる。


「ここから下りに一駅のところのイルミネーション、今度見に行こうよ」

何なら今日にでも!という勢いのゆう。


そんなゆうの願いを、ぼくは叶えてあげられない。

それでも、口をつくのは全然違う言葉。


「うん、わかった。でも、今度はゆうが計画立ててね?」

少しからかいたくなって、ゆうに言ってみる。


「そらとのデートのためなら頑張る!」

悲しくてたまらなくなって、思わず下唇を噛んだ。


そろそろ着きそうだな、と思っていたところで、ゆうが言った。

「ここ、あの海?」

「そうだよ」


考えるより先に、口が動いた。

そのまま、さよならの言葉も言えたらいいな。

なんて思っていると、再びゆうが話しかけてくる。


「そっか、今日でちょうど3ヶ月だっけ。そら、ロマンチストだね」

奇跡の海。

ぼくたちが出会った場所。


「そうなのかもね」

その言葉ひとつひとつが、悲しみに染まる。

完全に染まり切る前に、とぼくは口を開いた。


「ゆう、大事な話があるの。聞いて」

ゆうは頷きひとつを返して、ぼくの目を見つめる。


「別れてほしいの」

ぼくが続きを言うより先に、ゆうの声が聞こえた。

「なんで?おれは別れたくない。」


そんなのわかってる、と言おうとして、結局やめた。

そんなこと言ったって、どうにもならないから。


「……今日楽しそうにしてたのも、全部嘘だったの?」

「……」


そんなことない、と言ったら嘘になる。

けれど、ぼくはその嘘を突き通さなきゃいけない。


「そうだよ。だから、別れて?」

そう言うと、ゆうは笑った。

「嘘でしょ?ねえ、嘘だって言ってよ、そら」


「嘘だよ、って言ったらどうするの?」

無意識に、涙が頬をつたって落ちていく。

その様子を見たゆうは、「やっぱり嘘じゃん」と言った後、続けてこう言った。


「どうしてそんな嘘ついたの?教えて、そら」

教えてしまったら意味がない。

そう思い、こう言った。


「なんでだろうね?」


今、苦しそうにしてしまったら意味がない。

教えようとは思わなかったから。

そう思い、笑顔を作る。

そのぎこちないであろう笑顔には、何も言われずに済んだ。


代わりにゆうは、こう言った。

「理由なんて、なんでもいい」

だから、離れていかないで。


ぼくも、離れたくなんてない。

「ごめんね」


そう言った瞬間、視界が揺れた。

限界を感じたぼくは、完全に意識が途切れてしまう前に言った。


「ゆう、愛してるよ」

ゆうのあたたかさに包まれたまま、ぼくはゆっくりと目を閉じた。

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― 新着の感想 ―
感動しすぎてこれしか言えない。 いつのまにか上手くなったねぇ、小節 私は、お正月とかにしか合わないおばあちゃんの友達かよ....
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