第22話 これで終わりだ――
―1―
「な…‥なんだ、この力は?!」
その台詞は、僕のものであった。
自分自身でもどこにそんな力を隠していたのか分からないくらいに、強大な力が全身に溢れていたのだ。
膝をつきそうだった両足に、まるで山をも踏み抜くほどの力が漲り、僕は会長を肩に乗せたまま思い切り背を伸ばした。
そして、間接を完全に破壊されるくらいに曲げられた両腕には大地をえぐるくらいに強大な力が漲り、僕は肩に鬼ヶ島を乗せたまま、思い切り跳躍した。
「なにぃッ!?」
そして、僕は脳天から落下し、肩に乗せた鬼ヶ島を思い切りマットに叩きつけた。
「ぐべっつ!?」
脳天から地面に激突したらしく、鬼ヶ島は低い悲鳴を上げる。
鬼ヶ島に落下の衝撃を全て叩きつけた僕は、彼の腕を離してリングの上に立ち上がった。
「はぁはぁ…‥」
息を切らせながらも、僕はリングに倒れて血だらけの頭を抱えている鬼ヶ島を見下ろした。
「も、桃山…‥逸珂、なにをした――」
「僕に訊くな!」
完全に粉砕したと思っていたであろう僕が反撃に転じたため、鬼ヶ島は明らかに動揺していた。
それはそうだろう。
戦闘開始して、数秒経たずに関節技をかけて倒せる状況になったというのに、今、彼は脳天から大量の血を噴射させ、マットに這い蹲っているのだ、驚きもする。
だが、彼以上に、僕が一番驚いていた。
一度は完全に消えかけた力が今、僕の体に充満していくのを、感じる。
しかも、その力は止まることを知らず、まるで体を僕ではない別のものに変質させているようであった。
というか、本当に変身していた。
鬼ヶ島の脳天から噴出してマットに溜まった大量の血に映る僕の姿は、既に人間のそれではなかった。
僕の頭は 羊のもののように曲線を描いている灰色の角が側面に生え、剣道の防具にも似ている三つのスリットが刻まれた黒い殻で前面が覆われていた。
そして、その殻の三つのスリット(細く鋭い隙間)から、まるでナイフのような鋭い二つの眼が、赤い光を放っていた。
身に着けていた赤いTシャツも、胸の部分に黒い太字で『惡』と書き殴られており、まるでしま●らで売っているようなデザインになっている。
首から下は人間のままであったが、それでも、筋肉などの付き方が今までの僕と違い、まるで格闘ゲームのキャラのように筋骨隆々であった。
「ふっ…‥まるで悪の大幹部だな!」
そう吐き捨て、鬼ヶ島生徒会長はコーナーポストに突き刺していた日本刀を握りしめ、リング中央に立つ僕を血走った瞳で真っ直ぐに見つめながら、ゆっくりと近づいてくる。
おいおい、武器ありかよ。
さっきまでの格闘戦(と言えるほどの接戦じゃなかったが)はなんだったんだよ。
サービスタイムは終わったのかよ、あんたフリーザかおい。
「悪かったな!」
僕はそんな会長に向かって、一歩も引かずに両脚を開いてマットを踏み、拳を構える。
だが確かに、今の僕の顔面は悪の大幹部にしか見えない。
Tシャツはし●むらだが。
「お前が正義のヒーローなら、僕はそれでいい!」
そうだ、僕は悪でいい。
黒を守れるなら、それでいいのだ。
「よく言った!なら正義の刀の錆と消えるがいい!」
鬼ヶ島は顔面を流血させたまま満足げに笑い、日本刀を僕に向かって振り下ろす。
しかし、僕は顔面の側面にある曲がった角を真っ直ぐに伸ばし、まるで槍のように刀を迎撃する。
「ぐっ!?私のエクスかリバーが!」
刀はボロボロに砕け散り、その破片がマットに四散する。
というか、なんだその厨房くさいネーミングは、日本刀でエクスかリバーはないだろう。
「くっ…‥まさか、この力――『惡のカリスマ』、大姦獄なのか?!」
会長は驚きを隠せない様子で、狼狽しながら叫ぶ。
「だ…‥大姦獄だって?」
大姦獄。
それは、ダークモノリスに不完全な形で封印されている、悪魔。
確かに、今の僕の頭部は、ダークモノリスに刻まれた悪魔『大姦獄』そのものであった。
そして、この全身から溢れる力は、確かに人間のものではない。
今の僕なら、片手で新幹線を米粒サイズのスクラップに出来る。
右足だけで、富士山を平地に出来る。
それくらいに凄まじい力を、全身から感じていた。
僕は、惡のカリスマに、体を乗っ取られてしまったのか。
力を、欲したあまりに―
「そ…‥そうらしいな。よかったぜ、これであんたを倒せるよ」
そうだ、この力は、僕が欲したのだ。
今、僕たちの頭上でブラックモノリスに吸収されそうになっているいぬくろちゃんを、助けられる力を。
この眼前の鬼ヶ島を、倒せる力を。
それだけでいい、それだけのために力が欲しい。
だから『大姦獄』、お前の力を貸してくれ。
僕の体は、ボロボロになってもかまわない。
彼女と一度だけ、学校で手を繋いで、キスができればそれでいい。
それだけでいいから、今は、僕に力を貸してくれ――
「これで、終わりだ!」
僕は、鬼ヶ島を指差す。
しかし、満身創痍であるはずの彼は、血まみれの顔面で不敵な笑みを浮かべていた―
「ふっ…‥いいだろう!今から見せてやる――この私、生徒会長鬼ヶ島千草の最強のデストラグル能力を!!」
どうやら、彼はまだ奥の手を隠しているようであった。
それならば、それでいい。
僕は戦う。
僕の彼女を傷つける、お前と。
そして、絶対に勝つ―
今、史上最強の童貞と、天下無双の童貞の頂上決戦が始まった―
つづく