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第18話 私は、いつくんのカノジョになるんだから!


 ―1―


 僕が、幼稚園に通っていたときのことである。



 他人の体に触れたがる僕は保育園の先生や周囲の人間から嫌われていた問題児であったが、唯一、仲良くしてくれる女の子がいた。

 いや、正確には、僕が一方的に仲良くしようとして、彼女はそれを拒まなかった、というのが正しいのだが。

 僕は、その子が、いつも気になっていた。

 その子は、普通の子とは、少し違った雰囲気を出していたー 


 彼女は、いつも汚れた服を着ており、他の女の子よりも、明らかに痩せていたのだ。


 感動も喜びもしない瞳で彼女は周囲を見つめていた。まるで、目に映る物が全て自分には関係ない、とでも言うかのように。

 そんな、不思議な雰囲気の少女であった。

 彼女は普通の幼稚園児からしてみたら、かなり近寄りがたい雰囲気をしていたのだ、今思えば。

 しかし、当時の僕は愛に飢え、他人が自分に対してどう思っているかお構いなしであったため、彼女と関わることに抵抗はなかった。

「なんで、そんなにひっつくの?」

 僕が手を繋ぐと、そう彼女は言い、不思議そうに首を傾げる。

「ん…‥あったかいから、かなぁ」

 幼い僕は自分が満たされていないことを、全く自覚できていなかった。

 寂しい、という感覚は毎日、雑然と感じていたが。

「そうなんだ」

 彼女は、ただただ不思議そうに、首を傾げる。


 いつも、こんな感じのコミュニケーションを僕たちはとっていた。


 かみ合わない二人であったが、なぜか、僕は彼女のことが気になって仕方なかった。

 僕が、一方的に彼女と共にいようとする。

 彼女は、それを拒むわけでも、受け入れるわけでもなく、ただ、受け流していた。

 両親のお迎えの時間に、僕と彼女は最後まで残るので、一緒にいる時間は自然と多かった。

 祖父が僕を迎えきたのと同時くらいに、彼女の母はやってくる。

 僕の通っていた幼稚園は保育園に入れなかった子供の受け入れも行っていて、かなり遅い時間まで、先生達が面倒を見てくれていた。

 僕も彼女も、その保育園に入れなかった部類の子供だった。

 どうやら、少女には父親がいないらしく、母に育てられているらしい。

 彼女の母は、薄幸そうな感じのやせ細った人で、髪はぼさぼさ、顔はノーメイク、服はくたびれたジャージ、という風貌であった。

 そんな母を見て、僕は彼女のことを、僕と同じで寂しいのかな、と思った。 

 だから、僕は、彼女と更に共にいた。

 そうすることで、彼女も楽しくなるのでは、寂しくないのでは、と思ったから。 


 しかし、事件は起こった。

  

 彼女はある日、見通しの悪い道路の横断歩道から、左右を確認して飛び出したのだ。

 乗用車が横断歩道に迫るその刹那、偶然その場に居合わせた僕は『デストラグル能力』を初めて使い、彼女を助けた。

 車に乗った男性と、その娘も無事だったが、そこは、よく覚えていない。

 僕は自らの力に恐怖しながらも、彼女に問いただした。

 なぜ、飛び出したのかを。

 すると、彼女の口から信じられない言葉が飛び出した――

 


「お母さんが、私がここで轢かれればお金になるからって…‥」



 少女はぐしゃぐしゃに泣きながら、そう言った。

 僕は、彼女の涙を始めて見た。

 彼女は、母親に虐待されていたのだ。

 必要最低限か、それ以下の食事、日常的な暴力、ネグレクト、それに類する扱いを受けていることを、彼女は告白した。

 そして、彼女は保険金をかけられていたのだ。

 金のために、母親は彼女を殺そうとしたのだ。

 僕は守りたい一心で、彼女を連れて交番に駆け込んだ。

 彼女は親が捕まるのを嫌がったが、それでも僕は彼女を引っ張って、お巡りさんに動いてもらうように懇願した。 


 そして翌日、少女の母は児童虐待の罪により逮捕され、彼女は施設に入ることになった――



 ―3―



「ありがとう、逸くん…‥」 


 お別れの日、僕の家の玄関の前で、彼女はそう言って頭を下げた。

 僕は、彼女の母を逮捕させてしまい、恨まれているかと思ったから、その行動が意外であった。

「ごめんね…‥僕のせいで」

 僕は、お礼に対して謝罪の言葉を口にしていた。

「ううん、いつくんのおかげで、今、生きてる。だから―」

 彼女は、僕とキスをしていた。

 小さな僕は、普段はおとなしい彼女だけに驚いた。


「いつか、同じ『がっこう』に行けるようになったら、私がいつくんのカノジョになってあげる!」


 そして、彼女は僕の手を握りながら宣言する。

 僕のために、彼女になってくれる、と。

 一緒の学校に、行く、と。


「いつくんが自慢できるくらい完璧なカノジョになって、私の全部をあげる!ずっと一緒にいてあげる!」


 そして、これからも頑張り続けることを。

 彼女がとんでもない逆境の中にいることは、幼い僕でも分かった。 

 だから、僕は彼女の約束が嬉しかった。

 彼女が前向きに生きていこうと思ってくれていることが、嬉しかった。

 この上なく、嬉しかった。


「じゃ、じゃあ、『がっこう』でも、手をつないでくれる?僕と、キスしてくれる?」


 そして僕は興奮し、勝手に色々な約束をとりつける。

 しかし、彼女は嫌な顔一つせず、うんうん、と頷く。


「うん!私は、いつくんのカノジョになるんだから!」


 そして、感極まった僕は、彼女に今、何かしてやれないか、幼いなりに考えた。

「じゃ、じゃあ…‥これ、あげる!」

「な、これ…‥いいの!?」

「うん!あげる…‥君だから、あげる!」

 僕はそう言って、ポケットから、リボンを取り出した。

 それは、幼稚園の制作の時間で作ったリボンであった。

 古い服を流用した赤い布で作られているそのリボンはチープなことこの上なかったが、彼女は喜んで、頭につけてくれた。


「ありがとう、本当にありがとう…‥いつくん、大好き!」

 

 そう言って、笑いながら、彼女は迎えの車へと走っていった。

 僕は手を振りながら、泣いていた。

 嬉しいけど、寂しくて、泣いていた。

 

 そして、なぜか、僕は彼女を、忘れてしまった―



 ―4―



 深い眠りにつきながら、僕は欠けた記憶の断片が、少しずつ、蘇っていくのを感ていた。

 そう、彼女は約束を果たしたのだ。

 だから、こうして思い出して、夢に見ているのであろう。

 彼女のおかげで、今、僕は幸せだ。


 

 世界でいちばん、幸せだ――




 

 つづく


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