第10話 我々は絶対の正義だ
更新遅れてすみません。
―1―
「な、何をする気なんですかっ、生徒会長!?」
僕は、やはり動けないでいた。
会長の刀により服を破かれ全裸になった計音は、既に満身創痍だ。
未発達な四肢は、痛みと恐怖に震え、その見開いた瞳は恐怖の色に染まり、許しを請うかのように、真っ直ぐに会長を見つめていた。
もう、彼女の贖罪は終わったのではないか。
女性として、既に耐え難い辱めを受けたのではないか。
会長は、これ以上何をしようというのか――
「私は何もしないよ。身内の懲罰は『彼女』の担当だからね」
と、計音を見つめて口元に微笑を浮かべながら会長が言う。
すると突然、彼の元に天井から一人の少女が降ってきた。
「き、君は…‥」
僕は、その少女のいでたちに、瞳を見開いた。
「…‥」
その少女は、この学校指定のセーラー服こそ着ているものの、その上に黄色いパーカーを羽織り、フードを被っていた。
それだけなら、まだ、僕もそこまで驚かなかった。
問題なのは、顔に被ったフードの前面が眼球を模したピンにより完璧に閉じてあり、顔面をうかがうことが全く出来なかったのだ。
「彼女は、この計音と同じく『生徒会四聖天』の一人、1年A組委員長。名前は――」
俯きながら、全く言葉を発しない彼女に代わり、会長は紹介を行うと―
「…‥神城褥」
と、彼女は短く言った。
それしか、言わなかった。
感情というものが全く読み取れない彼女の声に、僕は得体の知れない何かを感じた。
「すまないね褥。頼む。」
「…‥はい」
会長は微動だにせず指示を出すと、神城と名乗った少女は頷き、顔を上げる。
『四聖天』の名は、僕も聞いたことがあった。
生徒会長の指示の元に動き、ルール違反を取り締まる生徒会のメンバーの中でも、最も大きな権限を持った四人。
しかし、その四人の中に、天秤計音委員長が入っていることを、僕は知らなかった。
嫌な予感がした。
その四聖天(凄いネーミングだ)の一人である神城という少女が現れた、ということは、つまり――
「なっ!?これは―」
僕は、瞳を見開いた。
「ぐっ!?ひぐっ!?」
喘ぐ計音の周囲の壁をぶち破り、細長い紫色の化け物が無数に現れる。
それは、先端が男性器の形状をしている、大小様々なサイズのグロテスクな触手であった。
「…‥『蛇の悪夢』…‥」
神城は両手を壁にめり込んだ計音の方向へ突き出し、その能力名らしき単語を短く言う。
すると、計音の周囲の触手は、彼女の両腕と両足へ絡みつき、その動きを完全に封じる。
「ひぎいぅッ?!」
そして、ガムテープを破り、彼女の口に一本の野太い触手が挿入された。
「えぐうぅぅ!!」
野太い触手が蠢き、彼女の悲鳴が体育館に響いた――
―2―
「あぁ…‥助けてっ…‥あぁ…‥」
僕は、変わり果てた姿の計音を前に、ただただ立ち尽くしていた。
立ち尽くすことしか、出来なかった――
「…‥い、委員長」
ありえない。
確かに、生徒会が、暴力的な手段でルールを破る生徒達を粛清していることは知っていた。
だが、それが、まさか生徒会のメンバーにまで向けられるとは、思っていなかった。
この学園は、おかしい。
こんな学園で一年と数ヶ月生きてきたのだから、僕も歪むわけである。
本当に、なぜ、ここまでするのだろうか。
なぜ、ここまで、出来るのだろうか――
「よし、ここまですればいいだろう。嫌な役をすまなかった、褥」
会長はその痴態を前にして、傍らの神城に向かって申し訳なさそうに謝罪をした。
「…‥いいえ」
神城は首を横に振り、計音を一瞥すると、再び俯く。
フードを被り、顔を隠しているため、彼女の感情をうかがい知ることは出来ないことが、殊更に不気味であった。
どうして、ここまで残酷なことが出来るのか。
同じ、女であろうに。
なぜ、ここまで徹底して、少女が少女に対して、陵辱を行えるのか。
それを行える原動力が、生徒会の『絶対正義』ということなのか。
「…‥」
僕は、ただ黙って見ているだけであった。
今、自分が、どんな顔をしているのかすら、分からない。
また、何も出来なかった。
計音委員長は黒を襲った敵だから、助ける必要も義理も理由もない、と、僕は自分を納得させていた。
それは確かに、そうなのだ。
そうなのだが、もし、計音ではなく、黒であったら、僕はこの二人に抵抗出来たであろうか。
非力なことを理由に、今と同じように、ただただ、立ち尽くすだけ、なのではないだろうか。
そう思うと、自分の弱さに、泣きたくなってきた。
「さて戻るとしよう、行くぞ。褥、保健室への連絡は君がしておいてくれ」
会長は壁際の床で横になっている計音に背を向け、歩き出した。
もう計音には何の興味も未練も無い、といった様子である。
「…‥はい」
しかし、神城は、一度だけ計音を見つめ、その後に続いた。
流石に何か、思うところがあったのだろう。
素顔は分からないが、そう、僕には感じられた。
「…‥」
僕がその二人の背中を見つめて黙って立ち尽くしていると、会長は何かを思い出したかのようにこちらに振り返り、僕を見つめた。
「今日の件はすまなかった。後日、正式に謝罪しよう。狗川君にも、そう伝えておいてくれ。では、また会おう」
会長は申し訳なさそうに言い、僕に対し、二、三度手を振り、消えた。
「…‥」
そして、傍らの神城は行儀よく一礼し、彼の後に続いて、消えた。
二人は、まるで忍者のように、消えた。
どのような方法かは全く分からないが、二人はその場から一瞬にして、移動したようであった。
僕が消えたことを認識したときには既に、影も形もなかったのだ――
「な…‥なんなんだ」
というか、瞬間移動できるなら、なぜ最初に歩いた。
いや、そんなことは大きな問題ではない。
僕は、いても立ってもいられず、計音委員長を置き去りにして、その場から走り出した―
「なんなんだ…‥なんなんだよ一体!!」
がくがくと震える足で、僕はカバンを取りに教室へと向かい、走っていく。
早く黒を見つけて、帰りたかった。
もう、ここにいたくなかった。
生徒会、ルールを破ったものは、容赦なく制裁を加える戦闘部隊。
この学校にいる限り、生徒会はいる。
いままでは、正直、僕の味方だと、正義の味方だと思っていた。
僕はルールを破らない人間だったから。
だから、生徒会はルールを破る要領のいい悪くて卑怯な奴を、僕をいじめようとする奴を粛清してくれる、そんな人々だと思っていたからだ。
実際のところ、彼らのおかげで、僕の学校の生徒は皆、おとないしい。
いや、おとなしくならざるを得なかった。
現実に粛清された人間を見たことが無いから、生徒会を正義の組織と信じることが出来た。
実際にその正義の鉄槌を目前にすると、僕は、それに恐怖を感じた。
本当に彼らが正義なのか、疑問に思ってしまっている自分がいた。
なによりも、僕が不安に思ったのは――
「黒…‥君は大丈夫なのか――」
狗川黒のことであった。
彼女はルール通りに動くような女の子ではない。
楽しいことが大好きな、つかみどころの無い、雲のような少女だ。
計音委員長は独断で黒を粛清しようとしたが、他の生徒会メンバーが、同じ考えを持たないという保証はどこにもない。
『四聖天』と呼ばれる会長直属の部隊も、あの神城を含め、あと三人いる。
それなのに、昨日と今日のように、学校で黒と過ごせるのだろうか―
「これから、どうなってしまうんだ―――」
夕焼けが照らす誰もいない放課後の教室で、僕は自分の机の上に置いてあったスポーツバックを取り、俯いた。
外からは、校庭で部活に打ち込む陸上部の掛け声が聞こえる。
僕は、どうすればいいんだ。
僕に、何が出来るっていうんだ――
つづく
この回はオリジナルの18禁版ではしっかり描写されてます。